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双極性障害だけど飲酒が楽しみ。アルコールとの上手な付き合い方とは?

2019/04/30
双極症(双極性障害)100の質問
精神科医・さくら(@sakura_tnh)です。自身の知識と経験を活かし、人をワンランク上の健康レベルに底上げ=幸せにすることを目指しています。

「双極性障害についての100の質問」企画、第16回目です。

今回のご質問は、

「アルコールは出来るなら飲まない方が良いとは思いますが、それが楽しみの人もいると思います。双極性障害の人の上手なアルコールとの付き合い方があれば教えて下さい。」

です(・∀・)

あなたはお酒を飲む習慣はありますか?

毎日のように飲む人もいれば、機会飲酒と言って、友人との集まりや職場の飲み会の時だけ飲む人もいれば、一切飲まないという方もいるでしょう。

主治医からは「お酒は控えるように」と言われたけれど、楽しみのためにたまに飲むくらいはダメなのかなぁ?

気になるけど、なんとなく聞きにくい話題かもしれません。

同じ双極性障害の診断であっても、個々のケースによって、アルコールに限らずですが、嗜好品の可否・その程度については助言内容が変わります

一方で、双極人となったからには、気をつけるべき共通の内容がありますので、どなたさまも今回の記事をしっかり読んでいただきたいと思います。

一般的に精神科で飲酒について説明されること

双極性障害に限らず、うつ病や他の精神疾患で通院中の方に対しては、睡眠薬などの内服薬の効き目に影響するおそれ、睡眠に影響して生活リズムを乱すおそれがあるため、治療中は「飲まないように」、もしくは「控えましょう」と説明されることが多いと思われます。

他の精神疾患の方に対する上記の注意に加えて、双極性障害の方においては、

アルコールには抑制をとる作用があるため、躁・軽躁状態での社会的に問題視される行動を悪化させる懸念があります。

また、大量飲酒で脱水をきたした場合は、双極性障害でよく使われるリチウムの血中濃度が上がり、中毒に至る恐れがあります。

続いて、アルコール依存症との関連についてみていきましょう。

アルコール依存症との関連について

双極性障害とアルコール使用障害、いわゆるアルコール依存症は、報告によって数字にばらつきはあるものの、両方の病気を併せ持つ割合は30%を超えるとの報告が多いです。

実は、アルコールに限らず、抗不安薬、カフェイン、大麻、幻覚剤などの物質使用障害を併せ持つ割合は他の精神疾患と比較して双極性障害では高いことが知られています。

酩酊(酔っぱらった状態)の持続しているケースが躁症状と誤認される(アルコール依存症のみであるのに双極性障害もあると誤診される)可能性はあるものの、

その可能性を差し引いてもやはり、双極性障害とアルコール依存症の併存率は高いようです。

両方の病気になりやすい共通した生物学的な原因がある可能性も考えられています。

アルコール依存症の併存がある場合

両者を併せ持つ場合、「それぞれの治療が必要なこと以上の問題が何かあるのか?」と疑問に思われるかもしれません。

実は、アルコール依存症が併存した双極性障害の患者さんには下記のような不利益があります。

①入院治療を必要とするリスクが高まる

②気分エピソードの再発率が高まる

③主剤となる可能性の高い炭酸リチウム(リーマス)が効きにくくなる

④両者とも自殺リスクが高く、併存することでリスクはより高まる

どうでしょう?

双極性障害のコントロール、および治療が難航するイメージが浮かぶのではないでしょうか?

物質・医薬品誘発性双極性障害について

続いて、少し話は逸れますが、「物質・医薬品誘発性双極性障害」という病気について触れます。

アルコールやカフェインなどの薬物を使用開始した時期に気分の変動が始まり薬物を使用中止し、離脱の期間を経過したのちに気分の変動が消失するという病気です。

双極性障害と診断されている方のうち、アルコール誘発性の双極性障害の方が交じっている可能性があります。

この場合、飲酒を止めることで、双極性障害の症状だと思われていた気分の波が落ち着くわけです。

飲酒状況を隠すより、希望を伝えて話し合おう

主治医や支援者に、飲酒状況について正直に話すことに抵抗がある方もおられると思います。

しかし、そのために正確な診断がされず、先ほどのアルコール誘発性の気分変動の例のように、適切な治療・対処法が講じられなかったとしたらそれは大変な不利益となります。

「飲んでいると話したら、やめるように言われるだろうから」

と、飲酒状況を隠すことは得策ではありません。

精神科医は、患者さんの気分変動の程度や、飲酒が病状に与える影響、アルコール依存症の家族の有無、身体疾患の合併の有無などを個別に考慮して助言をしますから、一度は正直に話してみましょう。

内服中の人は基本的にはアルコールは避けてほしい

通常気分の時期であっても、とくにⅠ型の人は、維持療法のため薬の内服を続けている人が多いと思います。

アルコールと一緒に薬を飲むことは論外ですが、多少時間をずらしたとしても、飲酒の影響と薬剤の影響が合わさり、予測できない効果・反応が現れることが考えられます。

転倒してケガをしたり、思わぬ行動で周囲に迷惑をかけるリスクもあります。

また、アルコールは寝つきを良くするイメージがあると思いますが、実は睡眠が浅くなり、睡眠の質を低下させるデメリットの方が大きいため、そういった目的に飲酒することは避けましょう。

気分変動の時期は飲酒に走りやすい

気分変動時には、どちらに振れても飲酒に走るリスクがあります。

・うつ状態では、気分の不快や不安、体調不良をまぎらわせようする

・躁状態では、爽快感や多幸感をキープしようとする

「セルフメディケーション」と言って、自己治療の意味合いからアルコールを使用してしまうことがあります。

一時的には苦痛をまぎらわし、心地よい状態を維持することに役立つかもしれませんが、このようなアルコールの使用をしていると、気分の波を繰り返すうちにアルコール依存症に発展していく懸念があります。

色んな考え方があるとは思いますが、個人的には双極性障害の方はアルコールとの付き合いが双極性障害の予後に影響が大きいことを肝に銘じ、安易な飲酒は控えるようにしてほしいと思います。

「通常気分の時期」の「たまの楽しみ」にすることがオススメ

上記のことから、結論としては、

・うつ状態や躁・軽躁状態の時期に飲酒することは厳禁

・通常気分の時期もできたら控えること

・たま〜の楽しみに少量飲酒する程度とすること

をオススメします。

※上記は個人的見解ですので参考まで。完全に止めるよう指導する医師もいます。私も、明らかに飲酒が気分変動のトリガーになっていたり、家族にアルコール依存症の方がいるケース、上記のルールを守れない方には禁酒を治療の一環とします。

お酒の楽しみ方のタイプ別のヒント

「お酒が楽しみ」な人は大きく2タイプに分かれます。

「お酒の場」が楽しみな人「お酒自体の味わいなど」が楽しみな人です。

どちら寄りのタイプかによっても、お酒の付き合い方のヒントは異なります。

飲み会、女子会、忘年会、お花見など、社交の場は、アルコールが入らなくてもとても楽しい物だと思います。ノンアルコールで雰囲気だけ楽しむこともありです。一度試してみると、問題なく楽しめることに気づくと思います。

病気をオープンにしていない場合は、「この後少し運転しないといけない用事がある」とか「健診で肝機能がひっかかったから控えている」などと弁明すればOKです。

もし「飲むこと」を強要してくるようなアルハラさんがいたら、華麗にスルーしましょう。

後者の場合は、「たまに少量の高級なお酒をじっくり味わう」ことをスペシャルな時間にすることが良いと思います。

チビチビペースの方が、酔わずにお酒の味を繊細な感覚のまま味わえるかもしれません。

ちなみに、「今後全く飲酒しない」ことも選択肢のひとつです。

「お酒が飲めない(飲まない)人は人生損してる」

などと、思われる人もいるかもしれませんが、そんなことは全くありません。

人生における楽しみは多岐にわたります。

私自身も学生時代はよく飲んでいましたし、お酒による楽しい経験も、後で悔やむような経験もしました。

今は年に数回程度、お付き合いの場で一杯飲むくらいですが、全体として、人生に楽しみが無いとも思いませんし、人生損しているとも思いません。

むしろ、二日酔いで翌日の活動が損なわれることが無くなり、毎日一定のペースで活動できる、そんな自分の方が今は好きですし、安心します。

「お酒は人間関係の潤滑油」

とも言われ、確かにお酒の場を介して人と打ち解けたり、普段言えないことを伝えることができる利点はあるでしょう。

一方、飲酒のために人間関係を損ねたり、余計なひと言で自身の評価を落としてしまったりといった不利益もあるでしょう。

総じて、

「お酒があってもなくても人間関係はうまく保つことはできる。人によってはお酒が関わらない方がうまく保つことができる」

と言えるのではないでしょうか?

「お酒は百薬の長」

と言われ、一日少量の飲酒は健康に良いとの考えが世間の認識でした。

ところが、2018年、世界的に権威のあるランセットという雑誌に「アルコールは少し飲むだけで健康を損なう」旨の論文が掲載され話題になりました。

1日1杯程度の少量のアルコールを摂取すると、心筋梗塞や糖尿病のリスクは低下する一方で、1日1杯程度の少量のアルコールでも、乳がんや結核、アルコールに関連した交通事故や外傷のリスクは高まるとの報告でした。

もちろん、これだけで飲酒を止めようという短絡的な答えを出すのではなく、メリット・デメリットを天秤にかけ、

例えば、心筋梗塞のリスクの高い人は「少量の飲酒は健康に良い」ととらえ、乳がんの家族歴がある人は、「少量でも飲酒はしないでおこう」と考える、そんな風にそれぞれのお酒との付き合い方を模索していくことが大事です。

双極性障害のあるあなたはさてどうアルコールと付き合っていきますか?

あなただけの答えを主治医や支援者とともに探っていってくださいね。

以上、「双極性障害だけど飲酒が楽しみ。アルコールとの上手な付き合い方とは?」について解説してみました(‘◇’)ゞ

参考:「アルコール依存症と気分障害」 橋本 恵理, 斎藤 利和 精神経誌 2012 112巻8号

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