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双極性障害、Ⅰ型とⅡ型の区別・診断はどうやってするの?基準は?

2019/04/21
双極症(双極性障害)100の質問
精神科医・さくら(@sakura_tnh)です。自身の知識と経験を活かし、人をワンランク上の健康レベルに底上げ=幸せにすることを目指しています。

「双極症(双極性障害)についての100の質問」企画、第7回目です。

今回のご質問は、

「双極症のⅠ型とⅡ型の診断基準が知りたいです。」

です(・∀・)

双極症にⅠ型とⅡ型があることは、患者さん含め、多くの方に知られるようなってきたと感じます。

一方で、その詳細な診断基準については意外と知られていないのかなと思います。

途中、実際の診断基準も記載し、解説していきますね。

大雑把に言うと「躁状態の違い」

Ⅰ型とⅡ型の違いをかみ砕いて説明するなら、

躁状態とうつ状態を繰り返すのがⅠ型で、軽躁状態とうつ状態を繰り返すのがⅡ型

ですね。

Ⅱ型はうつ状態も軽いと勘違いされがちですが、うつ状態の時期の症状やつらさはⅠ型と同様です。

また、Ⅰ型に比べてⅡ型の方が病気全体として「軽い」と思われがちですが、それは違います。

Ⅱ型は病気にかかっている期間全体のうち、うつ状態の占める割合がⅠ型より多いことが知られています。

激しい躁症状はなく、入院になることは比較的少なくとも、決して「軽い病気」とは言えませんので、ご理解していただけたらと思います。

精神科ではこんな診断基準を使っています

現在の精神科医療では診断において、「ICD」と「DSM」という、2つの操作的な診断基準を使用しています。

「操作的診断」というのは、〇〇病に特徴的な症状〇個のうち、何項目が患者さんに該当するかをチェックし、

「〇個該当すれば〇〇病」

などと、診断するやり方のことです。

この診断方法が導入されて以降、「若い精神科医が患者さんの表面上の症状しか注目しなくなった」「患者さんの個々の背景を知ることが病気の回復に大事な要素であるのに」「症状だけをピックアップするだけで診断するため誤診が増えた」との批判もありますが、

ある1人の人を診察した際に、どの医師が診断しても同じ診断になる確率が上がったことは患者さんにとっても、統計や研究においても大きな利点です。

ICDは、WHOによる「疾病及び関連保健問題の国際統計分類」の英名の頭文字をとったもので、現在は1990年に改訂されたICD-10が使われています。

2018年6月、WHOが約30年ぶりに改訂したICD-11を公表し、今年5月までに各国の翻訳が完成する予定です。

DSMは、アメリカの精神医学会による「精神疾患の診断・統計マニュアル」の英名の頭文字をとったもので。DSMは現在、第5改訂版のDSM-5が使われています。

少し詳しく、Ⅰ型とⅡ型の違いを見ていきましょう

DSM-5の診断基準を転載します。

長文になりますので、お時間のある時にご覧ください。

躁病エピソード

A.気分が異常かつ持続的に高揚し,開放的または易怒的となる.加えて,異常にかつ持続的に亢進した目標指向性の活動または活力がある.このような普段とは異なる期間が,少なくとも1週間,ほぼ毎日,1日の大半において持続する(入院治療が必要な場合はいかなる期間でもよい).

B.気分が障害され,活動または活力が亢進した期間中,以下の症状のうち3つ(またはそれ以上)(気分が易怒性のみの場合は4つ)が有意の差をもつほどに示され,普段の行動とは明らかに異なった変化を象徴している.

(1)自尊心の肥大,または誇大

(2)睡眠欲求の減少(例:3時間眠っただけで十分な休息がとれたと感じる)

(3)普段より多弁であるか,しゃべり続けようとする切迫感

(4)観念奔逸,またはいくつもの考えがせめぎ合っているといった主観的な体験

(5)注意散漫(すなわち,注意があまりにも容易に,重要でないまたは関係のない外的刺激によって他に転じる)が報告される,または観察される.

(6)目標指向性の活動(社会的,職場または学校内,性的のいずれか)の増加,または精神運動焦燥(すなわち,無意味な非目標指向性の活動)

(7)困った結果につながる可能性が高い活動に熱中すること(例:制御のきかない買いあさり,性的無分別,またはばかげた事業への投資などに専念すること)

C.この気分の障害は,社会的または職業的機能に著しい障害を引き起こしている,あるいは自分自身または他人に害を及ぼすことを防ぐため入院が必要であるほど重篤である,または精神病性の特徴を伴う.

D.本エピソード,物質(例:薬物乱用,医薬品,または他の治療)の生理学的作用,または他の医学的疾患によるものではない.

軽躁病エピソード

A.気分が異常かつ持続的に高揚し,開放的または易怒的となる.加えて,異常にかつ持続的に亢進した活動または活力のある,普段とは異なる期間が,少なくとも4日間,ほぼ毎日,1日の大半において持続する.

B.気分が障害され,かつ活力および活動が亢進した期間中,以下の症状のうち3つ(またはそれ以上)(気分が易怒性のみの場合は4つ)が持続しており,普段の行動とは明らかに異なった変化を示しており,それらは有意の差をもつほどに示されている.

(1)自尊心の肥大、または誇大

(2)睡眠欲求の減少(例:3時間眠っただけで十分な休息がとれたと感じる)

(3)普段より多弁であるか,しゃべり続けようとする切迫感

(4)観念奔逸,またはいくつもの考えがせめぎ合っているといった主観的な体験

(5)注意散漫(すなわち,注意があまりにも容易に,重要でないまたは関係のない外的刺激によって他に転じる)が報告される,または観察される.

(6)目標指向性の活動(社会的,職場または学校内,性的のいずれか)の増加,または精神運動焦燥

(7)困った結果になる可能性が高い活動に熱中すること(例:制御のきかない買いあさり,性的無分別,またはばかげた事業への投資などに専念すること)

C.本エピソード中は,症状のないときのその人固有のものではないような,疑う余地のない機能の変化と関連する.

D.気分の障害や機能の変化は,他者から観察可能である.

E.本エピソードは,社会的または職業的機能に著しい障害を引き起こしたり,または入院を必要としたりするほど重篤ではない.もし精神病性の特徴を伴えば,定義上,そのエピソードは躁病エピソードとなる.

F.本エピソードは,物質(例:乱用薬物,医薬品,あるいは他の治療)の生理学的作用によるものではない.

抑うつエピソード

A.以下の症状のうち5つ(またはそれ以上)が同じ2週間の間に存在し,病前の機能からの変化を起こしている.これらの症状のうち少なくとも1つは,(1)抑うつ気分,または(2)興味または喜びの喪失である.

(1)その人自身の言葉(例:悲しみ,空虚感,または絶望感を感じる)か,他者の観察(例:涙を流しているように見える)によって示される,ほとんど1日中,ほとんど毎日の抑うつ気分(注:子どもや青年では易怒的な気分もありうる)

(2)ほとんど1日中,ほとんど毎日の,すべて,またはほとんどすべての活動における興味または喜びの著しい減退(その人の説明,または他者の観察によって示される)

(3)食事療法をしていないのに,有意の体重減少,または体重増加(例:1ヵ月で体重の5%以上の変化),またはほとんど毎日の食欲の減退または増加(注:子どもの場合,期待される体重増加がみられないことも考慮せよ)

(4)ほとんど毎日の不眠または過眠

(5)ほとんど毎日の精神運動焦燥または制止(他者によって観察可能で,ただ単に落ち着きがないとか,のろくなったという主観的ではないもの)

(6)ほとんど毎日の疲労感,または気力の減退

(7)ほとんど毎日の無価値感,または過剰であるか不適切な罪責感(妄想的であることもある.単に自分をとがめること,または病気になったことに対する罪悪感ではない)

(8)思考力や集中力の減退,または決断困難がほとんど毎日認められる(その人自身の言葉による,または他者によって観察される).

(9)死についての反復思考(死の恐怖だけではない).特別な計画はないが反復的な自殺念慮,または自殺企図,または自殺するためのはっきりとした計画

B.その症状は,臨床的に意味のある苦痛,または社会的,職業的,または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている.

C.そのエピソードは物質の生理学的作用,または他の医学的疾患によるものではない。

参考:DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル (医学書院)

Bの(1)~(9)に示すように、躁病エピソードと軽躁病エピソードで見られる症状は同じです。症状の持続期間や程度がポイントとなります。「躁病エピソード」に記載の症状が「1週間以上」続くことが一度でもあれば「Ⅰ型」と診断されます。症状の程度としては仕事、家庭、経済状況、人間関係に重大なダメージを及ぼすほどで、そのダメージを回避するために入院を必要とするレベルです。抑うつエピソードは双極症I型の診断には必須ではありません。

「軽躁病エピソード」に記載の症状が4日以上続くことが一度以上、さらに「抑うつエピソード」に該当する状態が2週間以上続くことが一度以上あれば「Ⅱ型」と診断されます。症状の程度としては社会生活に深刻な影響は認めないレベルに留まります。Ⅰ型と異なり、Ⅱ型の診断では「抑うつエピソード」の存在が必須です。「抑うつエピソード」はⅠ型、Ⅱ型どちらでも社会生活に支障のあるレベルの症状を認めます。軽躁病エピソードで入院はしないⅡ型でも、抑うつエピソードでの入院はありえます。

躁病エピソード、軽躁病エピソード、抑うつエピソード、いずれにせよ、普段のその人とは明らかに違った様子であること、また、エピソード中は症状がほとんど一日中持続することがポイントです。ある日のうちの2時間だけ躁状態である、もしくは、ある日は一日中躁状態だったが翌日は落ち着いている、などといった経過の場合は「エピソード」にはカウントされません。


診断よもやま話。一精神科医の本音

長くなりましたが、このような診断基準と照らし合わせながら、双極性障害のうちⅠ型なのかⅡ型なのかを鑑別しています。

ただ、軽躁エピソードは本人や家族が「ふつうの状態」と認識していることが多々あり、医師側から軽躁エピソードの有無を細かく質問してみても、うつ病と双極性障害Ⅱ型を見分けることが難しい場合があります。

迷うときに、どちらよりに診断するかは精神科医の考えによると思います。

躁転のリスクに重きを置く場合は双極性障害と診断し、診断名の患者さんへのインパクトに重きを置く場合はうつ病と診断するかもしれません。

また、「軽躁」と「躁」の区別も難しいケースがあります。

どちらも症状にはグラデーションがあるため、Ⅱ型の中でも躁症状が比較的激しいケース、Ⅰ型の中でも躁症状が比較的激しくないケースの場合、診断に迷うことがあります。

その場合は、Ⅰ型かⅡ型を診断しながらも、経過を見て診断が変更されることがあります。

加えて、軽躁エピソードしか認めずにⅡ型診断されていた方が、初めて躁エピソードに該当する症状を呈した場合はⅠ型に変更されます。

双極性障害Ⅱ型と診断されていた方がうつ病に診断変更されることは少ないと思われますが、全く別の診断に変わることはあります

その時点での情報により、最も該当する診断がなされ、新たな情報が追加された時点でその情報も加味して、最も該当する診断がなされます。

明らかにAでない病状・経過を示しているのにAと診断されている場合は誤診ですが、これらの変更を誤診と呼ぶ方がおられるのでお手柔らかにお願いしたいところです。

以上、双極症のⅠ型とⅡ型の診断基準について、+αでした(‘◇’)ゞ

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