「双極性障害についての100の質問」企画、第8回目です。
今回のご質問は、
双極性障害と診断されてから5年以上が経っていますが、未だにⅠ型かⅡ型の診断がされていません。どちらだとしても治療には大きく影響しないということでしょうか?
です(・∀・)
あなたはⅠ型ですか?Ⅱ型ですか?
主治医から説明を受けていますか?
もし2つのタイプの詳細な違いを知りたいならば、前回の躁病エピソード、軽躁病エピソードの診断基準を見てくださいね。
参考:双極性障害、Ⅰ型とⅡ型の区別・診断はどうやってするの?基準は?
今回は、Ⅰ型とⅡ型を診断し、区別することの3つの必要性について解説します。
Contents
なぜ、Ⅰ型とⅡ型のどちらかを患者さんに伝えないのか?
本題に入る前に、なぜ、Ⅰ型かⅡ型かを患者さんに伝えない精神科医がいるのかについて考えてみます。
SNSで患者さんと交流していますと、「どちらのタイプか言われていない」という方をときどきお見掛けします。
双極性障害で、どちらのタイプなのかは(後述しますが)、なかなかに大切なポイントですので、ふつう、精神科医は患者さんにどちらに該当するか伝えます。
「伝えない」ことに何らかの事情があるケースを想像してみました。
①Ⅰ型とⅡ型の区別が困難なケース
前回の最後の方に書きましたが、どちらのタイプか明らかな方もいれば、判断に迷う方もおられます。
その際に、「双極性障害」は確定で、タイプの診断は経過を見てする場合があります。
ただ、私を含め、一般的な精神科医は「2つのタイプがあるけれど、現時点では明確でない」ことは伝えます。
よって、全く2つのタイプについて触れられていない場合は、患者さん側から質問する方が良いと思います。
②段階を経て説明する予定のケース
精神疾患と告げられるだけで抵抗が強く、患者さんに余裕が無く、こまかな説明ができない場合は、最低限必要な説明に留めて、受診のたびに少しずつ説明を加えていくことがあります。
患者さんの理解度や受容の度合いを見ながら、病気についての情報を提示していきます。
③精神科医にタイプ分けの重要性の認識が無いケース
残念ですが、このケースもあるかもしれません。
Ⅰ型・Ⅱ型の違いを見てみよう
少し逸れましたが、ここから本題です。
前回にも説明しましたが、Ⅰ型とⅡ型の大きな違いは、躁・軽躁状態のレベルです。
双極Ⅰ型
激しい躁症状が少なくとも1週間は続く。社会的・職業的に支障が大きい。周囲の人や本人を守るために入院になる可能性が高い。
双極Ⅱ型
4日以上続く・普段の本人の状態と比べて、明らかな軽躁症状は出るものの、大きなトラブルを起こしたり、人間関係をひどく損なったりはしない。入院には至らない。
うつ状態では、Ⅰ型・Ⅱ型、どちらも同様のレベルの症状、生活上の支障をきたします。
したがって、Ⅱ型は軽躁状態では入院にはなりませんが、うつ状態での入院はありえます。
続いて、病気にかかっている期間中の躁状態・軽躁状態・うつ状態・混合状態・寛解期の占める割合を見てみましょう。
双極Ⅰ型
躁・軽躁状態・・・9.3%
うつ状態 ・・・31.9%
混合状態 ・・・5.9%
寛解期 ・・・52.9%
参考:Arch Gen Psychiatry 59: p.530-7,2002
双極Ⅱ型
軽躁状態 ・・・1.3%
うつ状態 ・・・50.3%
混合状態 ・・・2.3%
寛解期 ・・・46.1%
参考:Arch Gen Psychiatry 60: p.261-9,2003
各病相の割合を考察してみましょう。
Ⅱ型ではうつ状態の割合が全期間のほぼ半分を占めており、Ⅰ型の約32%と比較すると長いですね。
Ⅰ型では躁・軽躁状態が9.3%に対し、Ⅱ型では軽躁状態は1.3%とわずかです。
躁状態とうつ状態が混じる混合状態の時期は自殺行動などが懸念されますが、Ⅰ型では5.9%とⅡ型に比べると多いです。
Ⅰ型では寛解期が全期間の半分を超えますが、Ⅱ型では半分を切ります。
どちらにせよ、穏やかに問題なく過ごせる期間は半分ほどを占めること、この調査は十数年も前のものなので、現在の治療によれば寛解期がより長くなるであろうことは、長期の治療に悲観的になっている人には伝えたいことです。
Ⅰ型にしろⅡ型にしろ、病相の割合には個人差がありますので上記の数字は参考まで。
続いて、Ⅰ型・Ⅱ型の区別が重要である理由を3つ挙げます。
①躁状態に対する危機感が異なる
社会生活、人間関係、経済面などに大打撃を受ける躁状態は、全力で避ける必要があります。
双極性障害のうつ状態では、基本的には躁転(軽躁状態への移行も含む)のおそれのある抗うつ薬を使用しません。
ただ、気分安定薬や抗精神病薬を使用しても改善が見られず、苦痛が強いときはやむを得ず、慎重に抗うつ薬を使用することがあります。
(推奨されている治療ではありません)
ただ、Ⅰ型の方には躁転のリスクが高いので使いません。
躁状態に移行する確率が高まるからというより、移行してしまったときの代償があまりにも大きいからです。
Ⅱ型の方の場合、精神科医は軽躁状態への移行には注意しますが、Ⅰ型ほどは警戒していません。
気分の波を繰り返すことでラピッドサイクラー(年に4回以上、気分の波を繰り返す状態)に移行する恐れがあるので、軽躁状態も予兆を見極め、対処することは欠かしませんが、軽躁状態に移行しても重大なトラブルを引き起こすリスクは低いためです。
②全期間におけるうつ病の割合が異なる
どちらのタイプにせよ、躁・軽躁状態の期間中は本人は苦痛を感じていないことがほとんどで、うつ状態の期間がひどく苦痛であることは共通しています。
Ⅱ型は上で見たように、とくにうつ状態の期間が長いため、心情への配慮がより必要になります。
誤解ではあるのですが、Ⅱ型の方が家族などの周囲から「軽い病気」と扱われがちなので、家族教育を行い、正しい認識を持っていただく必要があります。
③併存疾患をもつ割合が異なる
また、Ⅱ型の方は、半数以上の方が何らかの併存疾患(双極性障害以外の精神疾患を併せ持つ)と言われています。
気分の波だけでなく、併存する不安障害や物質使用障害、ADHD、パーソナリティ障害などの有無を注意深く見ていく必要が、Ⅰ型以上にあります。
精神科医側だけでなく、患者さん側もタイプの違いを認識することは大切
これまで述べてきたことから、精神科医は2つのタイプを診断し、タイプ別の特徴を念頭に置き、
お薬の内容を考える
生活上の助言をする
患者さんと一緒に治療上の目標を定めていく
タイプに応じた勇気づける言葉がけをする
必要があります。
患者さん側も自身のタイプを知ることは、
より自身の病気への理解を深めることにつながる
各病相に対する心構えや対処行動もより適したものになる
と考えられます。
いかがでしたでしょうか?
5年も知らないままなのは非常によろしくありませんので、ぜひ次回の受診時に聞いてみてくださいね。
以上、Ⅰ型とⅡ型を診断し区別することの重要性についてでした(‘◇’)ゞ