「双極性障害についての100の質問」企画、第17回目です。
今回のご質問は、
「ラピッドサイクラーです。躁と鬱の間隔を長くすることはできますか? ラピッドサイクラーを治すことは出来ますか?」
です(・∀・)
双極性障害と診断されている人やその家族でも、「ラピッドサイクラー」という言葉を知らない人がおられると思います。
ラピッドサイクラーとは「急速交代型」のことで、双極性障害のうち、気分の波を1年に4回以上繰り返すタイプのことです。
男性より女性で多く、Ⅰ型よりⅡ型の患者さんに多く見られます。
(Ⅱ型:気分が上がっても軽躁レベルに留まるタイプ)
参考:双極性障害、Ⅰ型とⅡ型の区別・診断はどうやってするの?基準は?
ラピッドサイクラーは発症当初から気分の波を頻繁に繰り返すのではなく、病気の経過中に次第にラピッドサイクル化してくるものです。
よって、現在、年に4回未満の気分の波の方も、今後ラピッドサイクラーに移行するリスクはあります。
ただでさえ、双極性障害では「躁・軽躁状態」と「うつ状態」という相反する病状をコントロールすることが困難であるのに、ラピッドサイクラーになると、数週間で2つの状態のピークを行き来することもあり、いっそう治療は難しくなります。
治療者の困難だけならまだしも、患者さん本人の苦痛は計り知れません。
社会生活への支障は多大ですし、気分変動を相当に細かくチェックし、その対処行動を刻々と変化させなければなりません。
Contents
どれくらいの割合でラピッドサイクラーになるの?
2014年のスペイン・バルセロナ大学の研究では、最大14年間にわたる観察期間の中で、対象患者289例のうち、ラピッドサイクルが認められた患者は48例(16.6%)という結果でした。
「6人に1人」とは、多く感じませんか?
ラピッドサイクラーになる原因は??
全てが解明されているわけではありませんが、ラピッドサイクラーになるリスクを高める要因はいくつか分かっています。
①治療がうまくいかず、再発を繰り返しているうちにラピッドサイクラーに移行
治療がうまくいかないケースには、薬物治療の効果が乏しいケースもあれば、本人に治療意欲が無く、内服や通院を守らなかったり、生活習慣の自己コントロールをおざなりにしているケースもあります。
未治療の場合は、生涯において10回以上の気分の波を繰り返す
と言われていますが、再発を繰り返すうちに、
波と波との間隔が縮まり、うつ状態や躁・軽躁状態の時期は長くなってしまう
ことが知られています。
そして、ついにはラピッドサイクラーに移行してしまうという流れです。
治療が奏功しない場合は、そもそもラピッドサイクラーの要素があって、コントロールが難しいことも考えられます。
②うつ病相の時期に抗うつ薬、とくに三環系抗うつ薬を使用することでラピッドサイクラーに移行
うつ状態の時にあまりにもうつ症状がつらくて、「抗うつ薬は使えないか?」と主治医に聞いた際に「躁転やラピッドサイクラーになるリスクがあるので使えない」と説明された方は多いと思います。
抗うつ薬の中でも、少し古いタイプの「三環系抗うつ薬」はラピッドサイクル化のリスクが高いために、現在ではまず使われません。
(※躁転のリスクは11.2%との報告あり)
ただ、現在でも、双極性障害のうつ病相であるのに一般的な「うつ病」と認識されて、三環系抗うつ薬が使用され、ラピッドサイクル化するリスクはあります。
(※初回エピソードとして、うつ状態で発症するケースは多く、単極性のうつ病との区別は難しいのです)
抗うつ薬の使用率の高さがラピッドサイクル化のリスク要因との報告もあり、比較的新しいタイプの抗うつ薬は躁転のリスクは高めないとしても慎重に使用する必要があります。
(※SSRIの躁転率は2〜3%で、プラセボと比較しても意味のある高い数字では無かったとの報告あり)
もし、現在抗うつ薬を処方されながら、躁転やラピッドサイクル化の説明を受けていない場合は、一度主治医にそれらの懸念について尋ねておきましょう。
③その他の要因
甲状腺機能低下などの内分泌疾患や、薬物の使用(L-dopa、ドパミン作動薬、エストロゲン)がラピッドサイクラーに移行するリスクを高めることが知られています。
双極性障害以外の、アルコール依存症、睡眠薬や違法薬物などの薬物依存症、パーソナリティ障害、パニック障害、強迫性障害など、他の精神疾患の併存や脳の器質的疾患の影響も考えられます。
よって、薬歴を含めた詳細な問診、採血や必要であれば頭部MRIなどの検査を行うこと、また、ラピッドサイクラーに移行したきっかけなど、患者さん本人の認識を聴取することも大切です。
ラピッドサイクラーの治療は??
「ラピッドサイクラーにはコレ!」という画期的な治療は、残念ながら現時点ではありません。
双極性障害自体、治療のガイドラインはあるものの、画一的な標準治療があるわけではなく、患者さんの状態に合わせて最も気分変動を安定化させられる処方に合わせていくことになります。
ラピッドサイクラーの場合も、薬物調整と、生活リズムを調整すること、状態によって刺激を回避することなどにより、エピソードとエピソードの間隔を延ばす、また、上下の波を和らげることを目指していきます。
①気分を不安定化させる要因を取り除く
②気分を安定化させる要因を強化する
③気分の波に合わせて処方を変更せず、気分安定薬を主剤とし、適切な治療濃度を維持する
上記3つが大事なポイントとなります。
ラピッドサイクラーの薬物治療について分かっていること
薬物治療において現時点で分かっていることは以下の通りです。
①抗うつ薬を使用中であれば中止するべき
②リチウム(リーマス)とバルプロ酸(デパケン)では効果に差は無し
③ラモトリギン(ラミクタール)の単独使用が有効
④クエチアピン(セロクエル、ビプレッソ)はバルプロ酸と比べて有効
⑤バルプロ酸はⅠ型のラピッドサイクラーの再発予防に有効
⑥甲状腺機能低下があれば、甲状腺ホルモン剤の投与が有効な可能性あり
参考:日本うつ病学会治療ガイドライン
ラピッドサイクルはずっと続くものなのか?
1990年代の古い文献ですが、ラピッドサイクラー10例について、平均2.8年間にわたり経過観察したところ、4例は2年未満でラピッドサイクラーでは無くなっていたとの報告があります。
また、2年未満でラピッドサイクラーを脱したケースは、積極的な治療を開始した時点で、ラピッドサイクラーの状態は2年未満だった一方で、2年経ってもラピッドサイクラーのままだったケースでは、すでにラピッドサイクラーの状態が2年以上継続していたとのことです。
よって、すでにラピッドサイクラーの期間が長期化している場合は、積極的な薬物治療を開始しても、なかなかラピッドサイクラーを脱することは難しいかもしれません。
一方で、数年経過したラピッドサイクラーが薬物治療で安定化した例(1年以上の寛解状態を維持)も報告されていますので、あきらめることなく、根気強く治療を継続し、患者さん自身でできる日々の自己管理については努力いただくことが大切です。
以上、「ラピッドサイクラー(急速交代型)は治るのか?治療法はあるのか?」について解説してみました(‘◇’)ゞ