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軽躁病エピソードのみを繰り返し、抑うつエピソードの無い双極性障害はある?

2019/05/03
双極症(双極性障害)100の質問
精神科医・さくら(@sakura_tnh)です。自身の知識と経験を活かし、人をワンランク上の健康レベルに底上げ=幸せにすることを目指しています。

「双極性障害についての100の質問」企画、第18回目です。

今回のご質問は、

「軽躁病エピソードのみを繰り返す双極性障害は考えられますでしょうか?」

です(・∀・)

双極性障害は気分の上がり下がりを繰り返すことが主たる症状で、上がる程度や、波の繰り返しの頻度、エピソードとエピソードの間隔、どちらの波が多く出るかなどは多様ですが、躁・軽躁病エピソードと抑うつエピソードのどちらも持つことがほとんどです。

躁病エピソードのみは稀

以前は「単極性躁病」と呼ばれた「躁病エピソードのみ」を繰り返し、抑うつエピソードの見られないケースがありますが、これはかなり稀なケースで、症例を集めることが難しいため、単極性躁病の研究がほとんどないくらいです。
(現在は躁病エピソードの繰り返しのみでも双極性障害と診断されます)

私も自分の患者さんで出会ったことはありません。

同僚の患者さん一人と、当事者会で会った、例の有名な方くらいです。

大方は、躁病エピソードを繰り返すうちに抑うつエピソードが出現し、「一般的な双極性障害でしたね」となるものです。

ご質問の「軽躁病エピソードのみ」の方にも出会ったことはありません。

軽躁病エピソードのみは診断が困難

下記に詳しく記載しますが、もし本当に「軽躁病エピソードのみの繰り返し」だとすると、DSM-5という診断基準では双極性障害のⅡ型とも診断できません。

質問者さんの認識している軽躁病エピソードが、実際、診察で詳細を聞きとってみて、診断基準を満たさない程度であれば、「気分循環性障害」という、双極性障害より気分の波の振れ幅が小さい病気に該当するかもしれません。
(気分の落ち込みなどの軽い抑うつエピソードの存在は必要ですが)

もしくは、質問者さんが「通常気分」と感じている時期に、詳細に問診すれば抑うつエピソードに該当する状態が存在している可能性があります。
(あれば、Ⅱ型診断です)

もしくは、短期間に気分が上がっては通常に戻る可能性のある、ほかの精神疾患も検討する余地があります。
(物質使用障害、ADHD、パーソナリティ障害など)

さらには、やはり、繰り返すうちに抑うつエピソードが出現して、「双極性Ⅱ型でしたね」との結論になるかもしれません。

そもそも軽躁病エピソードのみで受診や通院をする必要があるのか?

軽躁病エピソードは「明らかに通常気分時の状態とは異なり、気分の高揚や多弁、過活動は見られるが、社会的に重大な問題を起こしたり入院が必要なほどではない」ものです。

Ⅱ型の患者さんで「抑うつ状態はしんどくて避けたいけれど、明るく活発な軽躁状態になることは望む」という考えの方は多いです。

それでも、軽躁病エピソードに至ることをできるだけ予防し、短期間に抑えることを治療目標とするのは、その後の抑うつエピソードを重篤化・長期化させないためです。

軽躁病エピソードのみの繰り返しなら、苦痛は無く、人によっては「望むところ」かもしれません。

もし、それでも受診や薬物治療の必要性について悩まれることがあるなら、軽躁病エピソードの症状やその抑制に苦労しているか、なんらかの不利益があるのでしょう。

そうであれば、受診することをためらう必要はありません。

精神科医の立場からすると、「対面で詳細を話すことに勝ることはありません」から、早期に受診していただきたいです。

軽躁病エピソードの繰り返しがラピッドサイクラー化するリスクになるかは不明ですが、リスクはあると思っておいた方が良いでしょう。

また、いずれはっきりした躁病エピソードが出現して、Ⅰ型診断となる可能性もあるので、一度受診しておくことに損は無いと思います。

初診料数千円は必要経費と考えてください。

薬物療法をしないにしても、おそらく、気分が上がったり落ち着いたりを繰り返す苦労や悩みを安心して話せる環境があることは大きなメリットです。

数日おきのペースで気分変動が起きているとすると、それは本当にしんどいことです。しんどさを過少評価せず、医療を頼ってください。

もし、薬物療法で症状のコントロールが容易になれば、毎日がかなりラクになると思われます。

軽躁病エピソードに関連する診断基準について

軽躁病エピソードをみたときに、まず思い浮かぶのはやはり「双極性障害Ⅱ型」「気分循環性障害」です。

ここで2つの診断基準を示しておきます。

精神科の診断基準には主にICD-10とDSM-5が使われています。過去記事を参照ください。

参考:双極性障害、Ⅰ型とⅡ型の区別・診断はどうやってするの?基準は?

双極性障害Ⅱ型

双極性障害のⅡ型はICD-10には記載されておらず、「双極性感情障害,現在軽躁病エピソード」などと表現します。

DSM-5では「双極Ⅱ型障害」と記載があり、診断基準は以下のようになっています。

A. 少なくとも1つ以上の軽躁病エピソードが、診断基準(「躁病エピソード」の項、基準A〜F)に該当し、加えて、少なくとも1つ以上の抑うつエピソードが診断基準(「抑うつエピソード」の項、基準A〜C)に該当したことがある。

B. 過去、躁病エピソードがない。

C. 躁病エピソードと抑うつエピソードの発症が、統合失調感情障害、統合失調症、統合失調症様障害、妄想性障害、または、他の特定されるまたは特定不能の統合失調症スペクトラム障害および他の精神病性障害ではうまく説明されない。

D. 抑うつの症状、または、抑うつと軽躁を頻繁に交替することで生じる予測不能性が、臨床的に意味がある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。

軽躁病エピソード、抑うつエピソードの詳細については先ほどの過去記事をご覧ください。

上にも書きましたが、軽躁病エピソードのみでは双極性Ⅱ型とは診断できないことになっています。

気分循環性障害

まずは、ICD-10の診断基準を見てみましょう。

本質的な特徴は持続的な気分の不安定さであり、軽い抑うつや軽い高揚の期間が何回も見られるが、いずれも双極性感情障害や反復性うつ病性障害の診断基準を満たすほど重症であったり遷延したりしない。このことは、個々の気分変動のエピソードが躁病エピソードあるいはうつ病エピソードの項に記述されたいずれのカテゴリーの診断基準も満たさないことを意味している。

続いて、DSM-5の診断基準を確認してみます。

A. 少なくとも2年間(子どもおよび青年の場合は少なくとも1年間)にわたって、軽躁症状を伴うが軽躁病エピソードの基準は満たさない多数の期間と、抑うつ症状を伴うが抑うつエピソードの基準は満たさない多数の期間が存在する。

B.上記2年間の期間中(子どもおよび青年の場合は1年間)、少なくとも半分は軽躁および抑うつを伴う期間であり、症状がなかった期間が一度に2ヵ月を超えない。

C.抑うつエピソード、躁病エピソード、または軽躁病エピソードの基準は満たしたことがない。

D.基準Aの症状は、統合失調感情障害、統合失調症、統合失調症様障害、妄想性障害、または、他の特定されるまたは特定不能の統合失調症スペクトラム障害および他の精神病性障害ではうまく説明されない。

E.症状は、物質(例:乱用薬物、医薬品)または他の医学的疾患(例:甲状腺機能亢進症)の生理学的作用によるものではない。

F.症状は、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。

気分循環性障害は上下の気分変動を繰り返す点は双極性障害と似ていますが、変動の幅は小さく、患者さん自身の困り度も、周囲の困り度も双極性障害よりは軽度です。

しかし、数日のサイクルで気分が変化することが多いので、患者さんはもちろんつらい病気です。双極性障害に移行するケースもあります。

長くなりましたが、軽躁病エピソードと関連の深い2つの病気の診断基準を示しました。

まとめ

双極性障害を含め、まだまだ未解明のことが多い精神疾患ですが、今すでにはっきりしている情報と、不確かではあるものの参考になる情報と、精神科医の経験から考え得ることを併せて治療や助言を試みますので、受診や治療に迷われている方は一度診察にいらしてくださいね。

以上、「軽躁病エピソードのみを繰り返し、抑うつエピソードの無い双極性障害はある?」について解説してみました(‘◇’)ゞ

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