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双極性障害は「人生の楽しみや夢を全て諦めなくてはいけない病気」なのか?

2019/05/06
双極症(双極性障害)100の質問
精神科医・さくら(@sakura_tnh)です。自身の知識と経験を活かし、人をワンランク上の健康レベルに底上げ=幸せにすることを目指しています。

「双極性障害についての100の質問」企画、第21回目です。

今回のご質問は、

「精神科医の本や当事者のブログを読むと、大体が『一生ものの病気』、『躁転しないように刺激的な事は極力避ける』とあり、絶望的な気持ちになります。『人生の楽しみや夢を全て諦めなくてはいけない病気』なのでしょうか?」

です(・∀・)

質問者さんのおっしゃる通り、双極性障害は再発リスクが非常に高いため、「一生ものの病気」ととらえ、躁転とそれに引き続くうつ状態が本人と周囲に多大なダメージを与えることから、「躁転を防ぐことに力を注ぐ」ことが治療の柱のひとつとなります。

当事者も、それを身に沁みて理解している方が多いです。

「人生の楽しみや夢を全て諦めなくてはいけない病気なのか?」

質問者さんが冷静な通常気分モードでそう問われているのか、現在うつ病エピソード中なのかは分かりませんが、まだまだ双極人としては発展途上にある方のようです。

私たちは自分に関わることは過大に深刻に捉えがちですし、客観視できなくなることがよくあります。
(もちろん、この病気は深刻で大変である一面もありますが)

こんな時に有用なのは、ほかの人に置き換えて考えてみることです。

ほかの双極人に置き換えてみる

今の時代、SNSやブログ、youtubeなどを通じて、同じ病気の方がどんなふうに考えたり過ごしたりしているかを知ることは容易です。

Twitterだけでも多くの双極人の発信を見ることができますが、そのすべてが「絶望」に埋め尽くされているかというと、全くそんなことはありません。

たしかに病気についての話題は多いかもしれませんが、それも決してネガティブな内容ばかりではなく、調子が回復傾向であることの報告や、回復のための情報交換であったり、「当事者会が面白かった!、○○さんに会えた!」なんていう話題も多数です。

病気からは離れた、日常のちょっとした一コマや、趣味のこと、何かのイベントに参加した話、仕事の話、家族の話、ペットの話、今後叶えたいことなどのホンワカした、クスっと笑える話題も多数ですね。

これら、自分以外の双極人たちについて考えてみましょう。

彼らはみんな、人生の楽しみや夢を全て諦めなくてはいけない人たちでしょうか?

そんな風に見えますか?

私にはそのようには全く見えません。

人は自分の関心のある情報に近づくものですから、「人生の楽しみや夢を全て諦めなくてはいけない病気」と考え出すと、その考えを強化してくれる情報を集めがちです。

質問者さんはおそらく、上記のような双極人の多面的な部分が視野に入っていないのだろうと思います。

もちろん、気分の波に翻弄されること、軽躁・躁病エピソード時の後始末、人間関係の悪化などに絶望することはあります。

双極人に楽しみ、希望、夢があるのと同様に、「絶望的な気持ちになること」もまた当たり前のことです。

ただ、「絶望」がすべてでは無いということを本記事ではお伝えしたいです。

違う苦難に置き換えてみる

「双極性障害」という病気にとらわれている、頭の中がいっぱいになっている状態とも感じられるので、病気自体を置き換えてもいいですね。

例えば、交通事故で足が不自由になったしたとして、装具などで身体機能の補助はできても、元の健康な状態には回復し得ないとします。

この場合、同状態は一生続きますし、活動や仕事など、一定の制限を受けることになりますから、双極性障害に類似する条件となります。

(身体的なことがメインなので比較は難しいと言われるかもしれませんし、身体障害を例にあげるのが不謹慎と言われるかもしれませんが、あくまで考えるための「例」なのでご了承ください)

さて、このケースは「夢も希望もない絶望の人生」なのでしょうか?

この方が

「足が不自由だから、一生治らないものだから、人生の楽しみや夢を全て諦めなくてはいけないでしょうか?」

こう質問されてきたとしたらどう答えますか?

おそらく、そのつらさには共感しつつも、

「障害があったとしても、それとは関係の無い、輝く部分や、ほかの能力、興味・関心のあること、楽しみにしていること、人間関係など、たくさんのポジティブな面があること」

を伝えるでしょう。

「たしかに障害ゆえに就けない職業やできない趣味もあるかもしれない。だけど、世の中には色んな仕事、趣味、娯楽、人の集まりがあって、今まで障害が無かったら目を向けていなかった分野にピタッとくるモノが見つかるかもしれない」

などとも話すかもしれません。

あなたはどのような言葉掛けを思い浮かべましたか?

それをそのまま自分に言葉掛けしてみてください。

さて、双極性障害の無い人は?

次に、双極性障害を持たない多くの人たちのことを考えてみましょう。

その人たちは、上がり過ぎず、下がり過ぎずのさざ波の気分の中で、ものごとを遂行し、楽しんだり、喜んだり、ときには怒ったり、悲しんだり、しているわけです。

双極性障害を十分にコントロールし、病気を持たない人たちに近い気分の波の中で生きれば、その楽しみや喜び、怒りや悲しみ、味わいたいことを何でも味わえるわけですね。

そのための躁転予防・うつ転予防であって、それは心身ともに健康な生活を送る上で、病気を持たない人にも有益な生活スタイルです。

朝決まった時間に起きて、「平日はこう」「休日はこう」と、ある程度一定の活動に身を置き、過活動にならないように、対人やイベント、嗜好品などの刺激が過剰とならないようにし、一定の時間に寝る

つまらなさそうですか?

つまらなさそうに感じる人も多いでしょうね。

一方で、この生活に有益性を見出だしている人も、双極人ならずともたくさんいますよね。

少なくとも生活リズムについては、著名な実業家や医療者、そうでなくとも健康に関心のある人なら、「睡眠時間を十分にとることが健康や寿命において何より大事」と認識していますし、その方が「日中のパフォーマンスが良好」とも知っています。

そして、むやみに夜更かししたり、暴飲暴食したりすることは慎んでいます。

双極人にベストな生活は、万人にベストな生活かもしれません。
(ちょっと言い過ぎました^^)

価値観が変わること、戦略として変えていくこともある

30代、40代、50代と年齢を経るにつれて、価値観が変わることも今は想像できないかもしれませんが、それは十分に考えられることです。

刺激的な毎日や嗜好品をガンガン楽しむような生活より、安定した穏やかな日々を願うようになる人も多いです。

病気の結果という側面もありますが、その生き方「そのものの価値」も大きいです。

質問者さんはまだ、今までの生き方以外の生き方を知らないだけかもしれません。

ちなみに、「安定した穏やかな生き方が最上」と言っているわけではありません。

それは人によって、病気の有無に関係なく、価値をおく部分はそれぞれですから。

ただ、病気の症状を野放しにして、波のサイクルが早くなり、さらに生活しづらくなることを思えば、自分の納得できるレベルに気分の波をコントロールし、希望する生き方を叶えていくことが戦略としては賢いと思います。

双極人の先輩・メンターを見つけよう

今はそうできるなんて想像もできないと思いますから、まずは、上手に病気とお付き合いをしている双極人の先輩を見つけてメンターにしましょう。

質問者さんは病気の受容があまり進んでいないかもしれませんから、少し活力が出てきたら、近くで行われている当事者会に一度参加してみましょう。

同じ病気を持つ仲間と交流し、ヒントをたくさんもらえますよう、応援しています。

もし、現在ひどいうつ状態にあるのなら、もう少し浮上するのを待ちましょう。

その時には、質問内容の「絶望」はわずかでもその色彩を変えているでしょう。

双極性障害と芸術や文才や想像力について

少し話は変わりますが、双極性障害と芸術的な才能やユーモアのセンスなどは関連すると言われています。

歴史上の著名人が双極性障害を抱えていたという話や、海外の有名アーティストがカミングアウトしたなどのニュースを耳にしたことがありますよね。

むしろ、こういった分野では一般の人が味わえない感覚を体験することが大きな力になることがあります。突出した人には、大多数の人と同じ感覚ではなれないことはたやすく想像できると思います。

「それがなんだ。そんなのは一握りの才能がある人だけのことだろう」

と思うかもしれません。

でも、私はやはり、この病気になったからこそ、芯から理解できることや、発想できることがあると思います。

そういう「マインドセット(考え方)」があるかどうかが、双極人としてどう生きられるかに、大きく関わるでしょう。

病気は病気ですから、丸ごとポジティブに受け入れることを無理強いするつもりはありません。つらいこと、苦しいことも多々あるでしょう。

ただ、その中に、病気を持つ以前の自分とは違う、病気だからこその視点をひとかけらでいいので見出してほしいと願います。

下記の記事も参考になると思います。

参考:精神疾患になったからこそ知り得たこと。当事者の140の声をまとめてみた!

以上、「双極性障害は”人生の楽しみや夢を全てを諦めなくてはいけない病気”なのか?」について解説してみました(‘◇’)ゞ

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