兵庫県三田市の心療内科・精神科ならさくらこころのクリニックへ

ブログ

ブログ

双極性障害は「遺伝」する病気なの?「遺伝」について心配される3つのこと。

2019/05/07
双極症(双極性障害)100の質問
精神科医・さくら(@sakura_tnh)です。自身の知識と経験を活かし、人をワンランク上の健康レベルに底上げ=幸せにすることを目指しています。

「双極性障害についての100の質問」企画、第22回目です。

今回のご質問は、

「診断の際に家族歴を聞かれることもあると聞きました。双極性障害って遺伝するんですか?遺伝するならどのくらいの確率で遺伝しますか?」

です(・∀・)

双極性障害に限らず、精神科の初診では、必ず家族歴(家族に精神疾患の方がいないかどうか)を聞きます。内科など他の診療科でも聞きますね。

精神科領域に限らず、様々な病気に遺伝的な要因があること、また生活習慣が似通っている環境の影響もあることから、家族歴は大事な情報です。

精神科ではその情報を診断の補助にしたり、本人の治療環境について十分な支援が可能であるかを思案したりします。

気になるのは、「質問者さんがどういった背景からこの質問をされているか?」という点です。

「ただ、その確率がどんなものか知りたかっただけ」なら良いのですが。

とりあえず、まずは数字を見ていきましょう。

双極性障害と遺伝について

双極性障害がなぜ起こるのか、その全容は他の多くの精神疾患と同様にまだ解明されていません。

現時点では、遺伝、生育歴、性格、環境(ストレスなど)、脳の機能異常などの要因が複雑に絡み合って発症に至ると考えられています。

ある報告では、双極性障害では、遺伝が80%、環境が20%の割合で発症要因となり、うつ病では、遺伝が40%、環境が60%の割合で発症要因となるとされています。

双極性障害の方がうつ病より、遺伝的な要因が発症に影響する割合が高いことが分かります。

古い研究ですが、こちらも紹介します。

双極性障害をもつAさんがいるとして、そのお子さんや同胞(きょうだい)などにどれくらいの割合で双極性障害が出現するかを調べたものです。

躁うつ病の経験的遺伝予後(集合法)

子・・・24.4%
同胞・・・12.7%
いとこ・・・2.5%
おい・めい・・・2.4%
一般人口出現率・・・0.44%

※ 発端者は躁うつ病、発病危険年齢は21〜50歳

参考:Luxenburger, 1932; 大熊

お子さんへの遺伝はかなり高い割合と感じられるかもしれませんね。きょうだいでも1割以上ですからこれも比較的高く感じられるかと思います。

疾患名の表現から、古い報告であると分かると思いますが、当時と現在の診断基準とは異なっていること、また同じ環境で過ごすために遺伝要因だけでなく環境要因も関わっていることを考慮し、参考程度にとらえてもらえるといいかと思います。

ほかの報告も合わせると以下のようなことが数字として出ています。

・一親等血縁者で危険率は20〜25%

・双極性障害の患者の50%は親が気分障害
(うつ病なども含む)

・片親が双極性障害の子供の危険率は25%

・両親が双極性障害の子供の危険率は50〜75%

・双極性障害の一卵性双生児一致率は40〜70%

・双極性障害の二卵性双生児一致率は20%

一卵性双生児の研究では、双子の片方が双極性障害でも、もう片方の子は40〜70%の割合でしか双極性障害にならないということが分かっています。

双極性障害がひとつの遺伝子によって引き起こされる病気だとしたら、全く同じ遺伝子を持っている一卵性双生児では片方が双極性障害ならもう片方も必ず双極性障害であるはずですが、そうではないことから、前述したように、この病気が単一の遺伝子の問題ではないことが分かります。

今では、複数の遺伝子のトラブルに加え、その他の環境的な要因があわさって引き起こされるものと考えられています。

双極性障害が遺伝する病気であるとしたら?

さて、記事の序盤の話題に戻りますが、双極性障害が遺伝要因のある病気だと知ったら、質問者さんはどう感じるのでしょうか?

「遺伝するなんて大変な病気だ」

「遺伝するなら子どもをもてない」

「親が双極性障害だから私も発症するのでは?」

「この子が双極性障害になったのは母親か父親の遺伝のせい?」

「ふーん。やっぱり遺伝も関わるんだな」

質問者さんの背景が分かりませんが、このような考えが浮かぶことが想定されます。

最後の感想のように「事実」として認識するだけならとくに問題ありませんし、リスクはリスクとして受け止め、いざとなったときの対処を考えておくことは建設的です。

ただ、

①病気になったことの犯人さがしのような発想になること

②家族が発症したから自分もそうなるんだと過剰に不安な気持ちになること

③「遺伝」を過大評価して、人生の大事な判断を「遺伝のイメージ」に左右されてしまうこと

などは、とても心配です。

かくいう私も、家族に精神疾患の患者がいますし、自分自身もそうであることから、

先ほどの①〜③まですべての心情に該当していたときがありました。

①「こんな病気になったのはこの血筋のせいだ」

②「家族がこうだから、自分もいずれそうなる。だから、何を頑張ってもムダだろう」

③「結婚したり、ましてや子どもをもつことを望むべきではない」

こんな調子でした。

今、①②③いずれかの心情に当てはまる人は、読んでくださっている方の中にもおられるのではないでしょうか?

もちろん、こんな風に考えてしまうことを否定するつもりはありません。

「遺伝が関係する」と知って、このように考えることはむしろ「ふつう」のことです。

そして、それを知って、どう行動するかは、その人の価値観や、病気のコントロール具合、環境により許容できる困難のレベルにより、それぞれのことです。

とくに、「子どもを持つかどうか」は患者さんとその家族の気持ちを揺さぶる問題だと思いますが、

・子どもができても、その多数は双極性障害にならない

・双極性障害以外にも、子どもがかかりうる病気は数知れずあり、遭遇しうる事故・災害などは予見できない

以上のことから、

「双極性障害の人は、その病気があるということだけで子どもを持つことに消極的にならなくてよい」

と私は考えます。

一方で、病気のコントロールが難しく、自身の生活を安定させるだけで精一杯であったり、家族に理解者が乏しく、今以上の困難に立ち向かえる環境に無い場合などは、そういった理由を鑑みて、より生きやすい道を選ぶことはまた正解だと思います。
(もともと挙児希望が無いケースも含め)

まとめ

今現在、双極性障害の原因は未解明で、根治治療は確立されていない、難しい病気ではあります。

一方で、

ここ20年ほどで研究が進み、回復や予防についての情報が増え、支援の環境も社会の認知も広まりつつあり、治療において打てる手が増えていることも事実です。

もし、これから子どもを持つことを決意した方がいるとしたら、その子が発症の好発年齢になった頃には上記のことがいっそう充実していることが予想されます。

子どもの話が中心となりましたが、どんな事柄についても、双極性障害に遺伝要因はあるとしても、それが重大な物事を決定するときの根幹とはならないこと、

もし、色んな局面で病気にかかる前に望んだこととは別の選択をすることになっても、それは遺伝以外の要因を十分に考慮し、理解者や支援者と話し合った結果であることを願います。

以上、「双極性障害は「遺伝」する病気なの?「遺伝」について心配される3つのこと。」について解説してみました(‘◇’)ゞ

\ フォローはこちらから /


記事が気に入ってもらえたら下部のシェアボタンをポチっとしてください☆

一覧へ戻る