「双極性障害についての100の質問」企画、第24回目です。
今回のご質問は、
「自分が原因で家族が精神に不調をきたした場合、その家族に何をしてあげられるか?」
です(・∀・)
質問者さんからのメッセージを転載します。
私は5年ほど前にうつ状態と診断され、昨年の12月から双極性障害の疑いです。姉はうつ状態で、今年の4月から休職しています。私は躁転の名残で無理を重ね、今うつ状態に近いです。
母の様子が段々とおかしくなってきました。昨日から明らかにうつ状態のように見えます。
母は「自分がいなければ、○○(質問者さん)は良い状態になっていたかもしれない」「私がダメなんだ。何も出来ない。何をしてあげたらいいのかわからない」と泣いています。
私もうつ状態で余裕がなく、どうしてあげたらいいのかわかりません。家族が心身に異常をきたしてしまった場合、原因となった患者としては何をしてあげられますか?
お姉さまのこともあり、ご家族全体としてかなり厳しい状態と見受けます。
家族の状態が心配だけれど、自分自身も不調の中にいるときに、大事な家族のために何をしてあげられるか、悩むケースはしばしばあると思います。
Contents
患者さんを1人で支えようとしないこと
まず、前提として、患者さんの家族さんは、
1人で本人への対処・病気への対処をするべきではありません。
家族の状況からやむなく、誰か1人の家族の肩にすべての責任や対処がのしかかっているケースがありますが、とくに本人の病状がシビアだったり、コントロールが困難な場合には、複数の人で支え合いながら、本人を支えるという構造が大切です。
お父さまの存在は質問内容からはうかがえませんでしたので、同居であるが質問者さんの病気に関与していないのかなど不明でしたが、
お子さんが精神疾患・障害である場合に、どちらかというと、その母親が主となって見守り、対処をしているケースが今の時代にも多く見受けられます。
支える家族が病んでしまうこと
遺伝についての記事でも書きましたが、「精神疾患になりやすい脆弱性(もろさ)は遺伝する」ことがいくつかの精神疾患では分かっています。
よって、病気である本人の親も、その「脆弱性」を持っている可能性があり、本人の病気の症状や、それへの対応により、ストレスが加わると、親もなんらかの病気を発症するだろうことは想像できます。
もちろん、遺伝的要因が無かったとしても(メンタル的に強い、柔軟性のある人でも)、ストレスが許容範囲を超えるほどであれば、やはり精神的な不調をきたしうります。
患者さんの対応のため、またはその症状に影響されて、
・睡眠時間が短くなる
・体を休める時間を十分もてなくなる
・不安、困惑、恐怖、経過予後の心配、経済面の心配などのネガティブな感情や思考で頭がいっぱいになる
・普段楽しんでいた活動から遠のく
・患者さんにつきっきりになり、その他の人間関係が損なわれる
などのことが起こると考えられます。
キーパーソンが倒れないための5つのポイント
患者さんの治療について最も関わり、主治医や支援者と相談し意見をすり合わせる役割を果たす家族を「キーパーソン」と呼びます。
その、キーパーソンとなる家族さんが倒れないために大事なことを下に挙げます。
①キーパーソンを1人に決めるとしても、複数の家族、頼れる親類がいるならその人も含めて、チームで支えること
(買い物や家事の援助をすることなども支援になります)
②キーパーソンとなる人の話を聞く体制を整えること
(本人への罪悪感から正直に気持ちを話せない家族さんも多いです)
③キーパーソンとなる人が1人で過ごしたり、本人の病気が無かったとしたら楽しんでいた趣味や人付き合いをする時間をもうける
(楽しむことに罪悪感を持たないよう援助する)
④必要であれば、キーパーソンとなる人も受診をすること
(まずは本人の主治医に相談するとよいです)
⑤必要であれば、キーパーソンとなる人が休養するための本人の入院を考慮すること
(こちらもまずは主治医に相談を)
以上のようなことが、主に本人に対処する家族(キーパーソン)のメンタルを守るために大事なことです。
患者さん本人ができること
では、患者さん本人が、しんどくなってしまった家族さんに対してできることはどんなことでしょう?
①治療・回復に専念する
何よりもまずは治療・回復に集中して、ゆっくりでも着実に良い方向に向かって行動していきましょう。
(うつ状態のピークでは横になって休むことも含む)
家族さんのことは気になりますが、あなたが回復することが、何より家族さんの心の安定につながります。
②家族さんのせいで、もしくは力不足で病気になったのではないと伝える
質問者さんのお母さんのように、患者さんの家族さんは、自分のふるまいや対応の不備で「本人の病気が発症した」「悪化した」などと考えて自分を責めがちです。
病的な自責に陥ってしまうと、声掛けも届かないかもしれませんが、まずは言葉にして「あなたのせいではない」と伝えてください。
事実として、家族さんの言動や行動が病気の発症や病気の経過に影響を与えることは確かにありますが、それは一因であってすべてではありませんから、ハッキリそう伝えましょう。
③心配していること、家族の健康も大切であることを伝える
患者さん自身が病相のピークであれば、家族さんを気遣う声掛けをする余裕は無いかもしれません。声掛けが可能な状態であれば、支えてくれる家族さんに対して、
・支えてもらってありがたいこと、いつも感謝していること
・自分の世話のために心身に不調をきたしていないか心配していること
・自分の病気も大事だが、家族の心身の健康も同じくらいに大事であること
を伝えましょう。
④別の空間で過ごす
同じ空間にいてお互いにストレスになる場合は、食事や団らんの時間を除いて別の空間で過ごしましょう。
姿が見えると、家族さんは患者さんの調子がどうなのか余計に気になり、患者さんは家族さんが自分についてどう感じているか過敏になるかもしれません。
一緒にいることでお互いが安らぐならこの限りではありません。
⑤夜は寝る
本人の治療にも大事な「規則正しい生活リズム」ですが、夜間に物音を立てたり、活動していると家族さんは眠れませんし、「何か重大なことが起こるのでは?」と不安になります。
夜は眠ること。眠れなくても低刺激で静穏な活動をして過ごすことです。
家族さんにも、可能なら「お母さんの体も心配だから夜はしっかり寝てね」と睡眠の大事さを伝えましょう。
⑥主治医に相談する
家族さんは本人のことに手いっぱいで、自身がメンタル不調に陥っていることに気づいていない場合もあります。
質問者さんのように、患者さん自身が気づいているときは、診察に同行してもらって、家族の不調についても相談してみましょう。
治療が必要なレベルであれば、医師から受診するよう助言があると思います。
⑦使えるサービスは使う
複数の家族・親類で支える、の項でも書きましたが、家族さんは、本人への対処だけでもかなり疲労しますので、家事の外注、訪問看護やヘルパーなど、使えるサービスは使いましょう。
一般的に訪問ヘルパーは同居家族がいると利用が難しいですが、病状によっては可能ですので一度通院先で相談してみてください。
訪問看護は本人だけでなく、家族さんのお話も聞いて適切な助言をしますから、週に1度でも利用する価値は大きいです。
通所できる状態まで回復したら、日中は半日でも外で過ごすことを、お互いのためにおすすめします。
家事も労力を使うので、可能であれば、お互いしんどい時期には宅配弁当をとるなど、生活の工夫をしましょう。
まとめ
双極人として安定して暮らしていくには、家族の支えはとても大きな柱です。
その関係が壊れないよう、家族さんの心身の健康も保たれるように配慮できるといいですね。
質問者さんは双極人としてのスタートからまだ間もないようなので、過去記事も参考にされて、今のうつ状態を脱したら、今後はできるだけ気分の波を安定化させていくことを意識しましょう。
「あの時は大変だったね。どうなることかと思った」
「苦労をかけたけど、ここまでやってこれてよかった」
と、互いに話してもらえる日が来るよう応援しています。
以上、「自分が原因で家族が精神に不調をきたした場合、家族にしてあげられることとは?」について解説してみました(‘◇’)ゞ