「双極性障害についての100の質問」企画、第25回目です。
今回のご質問は、
「幼少期からの記憶がほぼありません。いつから憶えていないのかも分かりません。双極性障害による認知機能障害と考えてよいのでしょうか?」
です(・∀・)
以前は双極性障害は、「うつ病エピソード」と「躁病エピソード」の時期は大変ですが、その合間の「通常気分モード」の時期は、病気の無い人となんら変わらない病気と考えられていました。
現在では、通常気分の時期にも認知機能障害が残存し、それによる困難は気分症状が残ることよりも患者さんの日常の生活機能や社会機能への影響が大きいとの報告があります。
あなたにも思い当たることはありませんか?
気分は落ち着いていて、落ち込みも高揚感も無いのに、なぜか病気以前の自分と比べて、
「考えがスムーズにまとまらない」
「日常の活動や仕事の作業がうまく行えない」
などと感じませんか?
それには、上記の認知機能障害が影響しているのかもしれません。
そもそも認知機能って?
「認知機能」とは、記憶、思考、理解、計算、学習、言語、判断などの様々な知的な能力のことを言います。
私たちは普段意識していませんが、これらの認知機能を駆使して、物事を考え、状況を判断し、適切な行動をとることができています。
また、認知機能障害と聞くと、「認知症」を思い浮かべる方が多いと思いますが、認知機能が損なわれる精神疾患は多数あります。
先天的には「自閉スペクトラム症」「知的能力障害」、頭部の外傷などによる「高次脳機能障害」、精神疾患では「統合失調症」「不安障害」「うつ病」そして「双極性障害」が代表的な病気です。
双極性障害の認知機能障害の特徴は?
双極性障害では、記憶、注意、処理速度、実行機能の低下が主に見られる認知機能障害です。
中でも、記憶と実行機能は仕事における能力に大きく影響するようです。
双極性障害の患者さんを、認知機能障害の強い方から3グループに分けると以下のような割合になります。
12〜40%の患者さん・・・いくつかの認知機能にわたる全体的な認知機能障害がある
29〜40%の患者さん・・・注意と精神運動速度がとくに障害されている
(※精神運動速度の障害:明らかな運動障害が無いのに、課題で反応に時間がかかる)
32〜48%の患者さん・・・正常と比べて比較的認知機能が維持されている
参考:臨床精神薬理 vol.22,No.1 Jan. 2019
その他、気になる情報をまとめてみました。
双極性障害の認知機能障害のポイント
・認知機能障害は初回の躁病エピソード時から認める
・病気にかかっているトータルの期間が長いほど、年齢が上なほど、認知機能障害は大きい
・躁病エピソードを繰り返すと次第に悪化し、躁病エピソードの回数が多いほど認知機能障害は大きい
・同じ気分症状であれば、認知機能障害がより強い患者さんの方が、生活の質が低く、ストレスを感じやすく、仕事上の能力も低下する
参考:同上
記事の序盤にも書きましたが、病相の繰り返しが認知機能には悪影響で、躁病エピソードの回数がうつ病エピソードの回数よりも認知機能に影響します。
やはり、軽躁・躁状態への移行を安易に望まず、しっかり気分変動の兆候をつかみ対処行動をとりましょう。
認知機能障害の回復は可能か?
すでに通常気分モードの時期にも認知機能障害を感じている方は、その回復が可能かどうかが気になるところだと思います。
現時点では、双極性障害の認知機能障害に効果があり、実際の診察の場面で使える治療法は確立していません。
いくつかの薬物と心理学的介入が有望視されており、その研究が進められているところです。
治療法が確立するのを待たずにすぐに実践できることは、認知症の予防・進行対策と同様に、十分な睡眠を取ることと、定期的に運動をすることです。
(双極性障害にエビデンスがあるわけではありませんが、病気のコントロールにも必須のことなので、やって損はないと思われます)
通常気分モードでも生活習慣が整っていない人は早期に軌道修正をはかりましょう。
幼少期からの記憶が無いこととの関連は?
質問者さんのお話に戻りますが、幼少期からの記憶が無く、どこから記憶が無いかも定かではないとのことです。
ちなみに、3歳半頃より以前の記憶は「幼児期健忘」といって、脳が未成熟なため成長の過程で次第に失われ、大人になるころにはほとんど残っていないのがふつうです。
それ以降の記憶については、どれだけ記憶がはっきりしているかは個人差があります。
しかし、その時期のエピソードがほとんど思い出せない場合は、虐待やいじめなどの大きなストレスのために解離性健忘、心因性健忘などと呼ばれる状態になっていることが可能性として考えられます。
※頭部外傷やほかの疾患が無いと想定。
※あくまで可能性であり、実際に診察し、精査してみないと分からないことです。
双極性障害の認知機能障害として起こる「記憶障害」は、病気以前の過去にさかのぼって記憶がすっかり無くなるといった性質のものではありません。
病気にかかった後の、情報を頭に書きこむ力・それを保持する力・思い出す力が落ちているというものです。
なので、仕事の作業能率や家事能力などに影響が出るわけですね。
質問者さんの記憶障害の原因は分かりませんが、それによって現在の生活に支障があるのでなければ、記憶が無いことに注目し過ぎず、
「今の自分」
「今の生活」
「今自分が影響できること」
に力を注いでいってほしいと願います。
以上、「双極性障害による認知機能障害とは?幼少期からの記憶が乏しい原因なの?」について解説してみました(‘◇’)ゞ