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双極性障害と車の運転について。運転への影響、運転の是非、罰則・法律まとめ。

2019/05/12
双極症(双極性障害)100の質問
精神科医・さくら(@sakura_tnh)です。自身の知識と経験を活かし、人をワンランク上の健康レベルに底上げ=幸せにすることを目指しています。

「双極性障害についての100の質問」企画、第27回目です。

今回のご質問は、

「ぶっちゃけ、双極性障害の人が車の運転をするのって医師から見てどう思いますか?」

です(・∀・)

質問者さんは普段、車の運転をされる方なのに、その可否について主治医と相談ができていないのかもしれません。

もしかすると、免許証の更新が近づいてきていて、正直に申告すべきか悩んでいるのかもしれません。

仕事や地域柄、運転することが避けられない人も多いと思います。車が無いと通院が難しいような地域もあると思います。

うつ状態や躁状態の気分変動時に運転する際に心配されること、実際、運転免許の拒否・保留などがどのように定められているのか、また、双極性障害の人の運転能力はいかがなものなのかを見ていきましょう。

うつ状態、躁状態の運転はどうなる??

当事者の方は気分の波にどう運転が影響されたかを振り返ってみてください。

一般的には下記のようなことが懸念されます。

うつ状態では、注意力や判断力が落ち、不眠によってその能力低下がより顕著となることが心配されます。信号が変わったことにすぐ気づかなかったり、ハンドル操作が遅れたり、刻々と変わる道路状況に対応できずに事故を起こすリスクがあります。

躁状態では、自分の力の過信、「大丈夫だろう」という楽観的思考や、注意力が散漫になることが、スピードの出し過ぎや信号無視、無理な追い越しなどの危険運転、ひいては事故につながると考えられます。

気分変動が軽度の場合は、問題なく運転できるかもしれませんが、それは誰にも保障できないことです。

生活環境上、難しい方もおられるかもしれませんが、周囲の協力をあおぐ、移動の工夫をするなどして、気分変動時は「運転しない」英断をしていただきたいと思います。

もちろん、

気分変動が「著しい」時は、100%運転はダメです。

ここで「え〜!不便なんですけど!」と言っているようでは双極人として務まりません。

双極性障害の症状を自覚しながら事故を起こした場合

ご自身が事故でケガをするだけならまだしも、同乗者や、相手のある事故の場合は見知らぬ人を危険にさらす行為であることは自覚してください。

また、病気の影響によって事故のリスクが高いと認識しながらの人身事故では、自動車運転処罰法3条2項に規定される危険運転致死傷罪の病気運転致死傷罪が適用され、死亡事故の場合、最高で15年の有期懲役刑となります。

運転免許の可否について。警察庁のHPより

認知症の人やてんかんの人は免許を持つことが難しそうなイメージがあると思いますが、双極性障害を含め、精神疾患の場合はどうなのかは詳細を知らない人が多いと思います。

警察庁のHPに、運転免許の可否の運用基準が示されていますので、少し長いですが全文を転載します。

運転免許を拒否又は保留される場合

1.介護保険法第5条の2に規定する認知症

2.アルコール、麻薬、大麻あへん又は覚醒剤の中毒

3.幻覚の症状を伴う精神病であって政令で定めるもの

政令では、統合失調症(自動車等の安全な運転に必要な認知等に係る能力を欠くこととなるおそれのある症状を呈しないものを除きます。)が定められています。

4.発作により意識障害又は運動障害をもたらす病気であって政令で定めるもの

政令では、次のものが定められています。

ア てんかん(発作が再発するおそれがないもの、発作が再発しても意識障害及び運動障害がもたらされないもの並びに発作が睡眠中に限り再発するものを除きます。)

イ 再発性の失神(脳全体の虚血により一過性の意識障害をもたらす病気であって、発作が再発するおそれがあるものをいいます。)

ウ 無自覚性の低血糖症(人為的に血糖を調節することができるものを除きます。)

5.3及び4のほか、自動車等の安全な運転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるもの

政令では、次のものが定められています。

ア そううつ病(自動車等の安全な運転に必要な認知等に係る能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈しないものを除きます。)

イ 重度の眠気の症状を呈する睡眠障害

ウ そううつ病及び睡眠障害のほか、自動車等の安全な運転に必要な認知等に係る能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈する病気

参考:運転免許の拒否等を受けることとなる一定の病気等について
https://www.npa.go.jp/policies/application/license_renewal/list2.html

ここでは「そううつ病」と記載されているので何だか古臭く感じますが、それは置いておきましょう。

上記を読むと、双極性障害は運転免許を拒否されうる病気だと分かります。病名をハッキリ書かれていることにショックを受ける方もいるかもしれません。

一方で、明らかに運転技能に支障を及ぼしそうな病気、意識を消失するおそれのある病気などが挙げられていることには、認知症の方やてんかんの方が起こした車の事故に関する悲惨なニュースをしばしば目にしますから、みなさん納得されるのではないでしょうか?

病名だけで運転免許の可否は決まらない

さて、双極性障害は通常気分モードでは意外と多くの方に認知機能障害が残存するとは言え(下の記事を参照)、運転技能に影響があるほどの障害があるかというと、「いや、そんなことはない」と思われる方もいれば、「大丈夫だと思うけど、薬も飲んでいるし心配」と思われる方もいるでしょう。

参考:双極性障害による認知機能障害とは?幼少期からの記憶が乏しい原因なの?

先ほど挙げた「認知症」はその病名がついてしまうと、免許不可となることがほぼ確定です。
(病名がつきながら運転免許を許可されている方がゼロかどうかは知り得ないので「ほぼ」としています)

一方、「てんかん」という病気では、カッコ内に但し書きがあるように、再発のおそれが無かったり、発作が夜間のみのケースは車を運転しても問題ないとされています。

病名だけで運転の可否は決まらないわけですね。

「統合失調症」も同様ですが、双極性障害もⅠ型Ⅱ型のバリエーションでは測れないほど、症状は多様で個人差が大きいので、カッコ内の但し書きがポイントとなります。

「自動車等の安全な運転に必要な認知等に係る能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈しないものを除きます。」

とある通り、運転上問題のある状態で無ければ運転は問題ないわけですね。

免許の取得・更新について

現在では、免許の取得・免許証の更新をする際には、一定の病気等に該当するかどうか判断するための質問票が渡されることになっています。

ご存知のない方もいらっしゃるかもしれませんが、質問票に虚偽の報告や記載をすると、「一年以下の懲役」「30万円の罰金刑」になりますのでご注意ください。

主治医から公安委員会に届け出ることもある

あまり行われていないことと推測しますが、主治医があなたが免許を持ち、運転をしていることを知った場合、病状によっては診察の内容を公安委員会に届け出る場合があります

これは法律に定められたことで、危険運転によって死傷者が出ないためでもありますが、病状によっては無謀な運転をしかねない、自身の身を滅ぼしかねない方を救うためでもあります。

免許の可否についての主治医の意見書

免許センターで質問票に病気の旨を記載した場合、免許の可否について主治医が意見書を書くことになります。

・病気はあるけれど、運転に支障はない状態である

・いつ頃までは運転に影響する症状が再発することは無い見込み

・今は運転に影響する症状があるが、6か月以内には回復する見込み

主治医は、診察や心理検査を行い、上記のようなことを記載します。

詳細について知りたい方は下記のリンクを参照ください。

参考:一定の病気に係る免許の可否等の運用基準

実際のところ、双極性障害の人の運転技能はどうなの?

双極性障害に限らず、「病名=運転が危険」と思われがちですが、実際の運転技能はどうなのか気になるところです。

2016年の名古屋大による、通常気分モードの双極性障害の人の運転技能についての研究がありますので紹介します。

・運転免許を持ち、社会復帰準備期にある、病状が安定した双極性障害患者21例(男性17例、女性4例、平均年齢40.1±10.1歳、双極性障害Ⅰ型3例、同Ⅱ型18例)と年齢・性をマッチさせた健常人同数例

・運転シミュレータを用いた運転技能と、症状評価、認知機能との関係を検討

・臨床背景について見ると、双極性障害患者群では気分安定薬処方率は66%、ベンゾジアゼピン系薬併用率は57%、抗精神病薬併用率は52%、抗うつ薬併用率は33%

結果としては、以下の通りでした。

・認知機能では注意や遂行機能が健常人よりも低下傾向にある

・病状が安定している双極性障害患者を対象とした予備的検討からは、運転シミュレータによる運転技能は健常人とは有意な差がない

・運転技能は認知機能と有意な関連が認められない

・処方薬と運転技能との明確な関連が認められない

参考:精神障害者の自動車運転技能に関する研究:双極性障害を対象とした運転シミュレータによる実証的検証

認知機能は低下傾向ではあるものの、運転技能は健常人と差がないこと、また、運転へのお薬の影響も意外に「無い」との結果でした。

サンプル数が少ないため、今後のさらなる研究が待たれますが、運転を継続できるか心配されている方には勇気づけられる結果だと思います。

まとめ

以上より、

「双極性障害=運転不可」

と考えるのは短絡的過ぎで、気分の安定期にはむやみに恐れずに運転しても良いだろうと言えます。

ただ、気分の振れた際のリスクを主治医や家族とよく相談されて、場合によっては自ら免許を返納することもひとつの選択と考えてください。

また、うつ状態や躁状態に気分変動が見られた際は運転を中止することをしっかりルール化し、車のキーを信頼できる人に預けることなども決めておきましょう。

<おまけ>

正直言って、運転の可否を精神科医が判断することは困難で悩ましいものです。

双極性障害に限らず、症状の経過を予見することは大変難しく、患者さんの生活を思えば「可能」な方向で記載したいものの、主治医意見書には無難な内容を記載しがちと推測します。
(全ての精神科医がそうではないと思いますが)

運転の可否をほかの方法で判断するツールができること免許センター側で判断してくれるようになることを個人的には願います。

以上、「双極性障害と車の運転について。運転への影響、運転の是非、罰則・法律」について解説してみました(‘◇’)ゞ

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