「双極症(双極性障害)についての100の質問」企画、第38回目です。
今回のご質問は、
「双極症の診断が下りる前は、境界性パーソナリティ障害という診断名がついていました。この2つの病気は間違えやすい似た症状があるのでしょうか?」
です(・∀・)
境界性パーソナリティ障害に限らず、うつ病、気分変調症、統合失調症、摂食障害、ADHDなど、様々な診断を受けていた方が時間を経て「双極症」と診断されることがあります。
もしくは、「元々の病気+双極症」の合併・併存と診断されることもあります。
質問者さんのご指摘の通り、双極症と境界性パーソナリティ障害には気分の上がり下がりや衝動的な行動など、類似する症状があります。
まだ質問者さんの情報が十分にそろっていない時期には後者と診断されていたけれど、経過を見ていくうちに、前者を疑う症状やエピソードが明確になってきたために診断が変更されたのでしょう。
※質問の雰囲気から、併存ではなく診断がガラリと変わったケースと受け取りました。
※以下、境界性パーソナリティ障害=BPDと記載していきます。
Contents
Ⅰ型よりⅡ型で、BPDの誤診が多い
質問者さんの病型が分かりませんが、双極症の中でも「Ⅰ型」より「Ⅱ型」の方がBPDと症状が似ており誤診も多いです。
Ⅰ型では、激しい躁症状から統合失調症と診断されるケース等があります。
北海道大学の調査では、BPDと診断された患者さんのうち、なんと約32%もの人が、時間を経て双極症のⅡ型に診断を変更されていたとのことです。
参考:傅田健三「境界性パーソナリティ障害の長期経過と診断の変遷」
そもそもパーソナリティ障害って何?
パーソナリティ障害の定義は、
その人の属する文化から期待されるものより著しく偏った内的体験および行動の持続的パターンであり、ほかの精神障害に由来しないもの
とされています。
気質や性格など、本人の思考や行動様式を規定しているものは個人個人で多様なものです。
誰でも少しは偏りがあるものですが、その偏りが著しく、本人、もしくはその周囲の人が悩まされるレベルになると、「パーソナリティ障害」と診断されるようになります。
多くの場合、思春期〜成人する頃にはその傾向が明確になってきます。
双極症とBPDの似ているところ
少し序盤にも書きましたが、両者の似ている・間違えられやすい症状や特徴をまとめます。
①感情・気分が不安定である。
双極症でも気分の短期的な変動があると間違われやすいです。急速交代型はもちろん、超急速交代型はさらにBPDと間違われやすいです。にこにこしていると思ったら急に怒り出すようなことは、軽躁・躁状態ではしばしば認めます。
②対人関係の不安定さ、対人トラブルを起こしやすい。
双極症では気分変動とともに他者に対する認識も変動するため、ある時に理想視していた人を、ある時はひどくこきおろすこともありえます。
③激しい怒り、イライラがある
双極症では、軽躁・躁状態で気分高揚や爽快感が目立つタイプと、易怒性やイライラが目立つタイプがあります。うつ状態でも非定型うつ症状からイライラすることがあります。
④浪費、自傷行為、自殺未遂などの衝動行為を認める
双極症では、軽躁・躁状態での浪費や性的逸脱などの衝動行為、うつ転した際や混合状態での自殺念慮、自殺企図などを認めます。
⑤「本来の自分が分からないと」いう自己同一性の障害を思わせる言動を認める
双極症では、軽躁・躁状態での思考や振る舞いと、うつ状態での思考や振る舞いがまったく異なるので、自身でも本来の思考や振る舞いが分からなくなることがあります。
このように、両者は似た要素が多いので、見極めが難しいのです。
以前、双極症の診断基準について書きましたが、行動面に見られる特徴をもって診断するために、現在の診断基準では誤診されやすいという問題があります。
参考:双極性障害、Ⅰ型とⅡ型の区別・診断はどうやってするの?基準は?
双極症とBPDを見極めるポイント
両者を見極めるポイントとしては、以下の2つが大事です。
①軽躁病エピソードをとらえる
派手な行動の背後にある気分変動を検討します。とくに気分の上がった状態が一定時間持続していることが確認できれば、双極症を考えます。
②幼少期からの情報を詳細に聴取する
幼少期からの発達や人間関係に問題を認めず、学校や職場でも適応できていた場合は双極症を考えます。
とは言え、鑑別に迷うケースもありますので、その際は疑われる疾患をお伝えし、その時に一番考えられる診断で治療をします。
質問者さんは診断がガラッと変わったケースだと思われますが、双極症にBPDが合併・併存するケースも多いので紹介しておきます。
双極症にBPDが合併・併存するケース
双極症のⅠ型では研究によって差はありますが、22〜62%にパーソナリティ障害が合併するとされています。
Ⅱ型の方は現状、研究の数が少ないのですが、32.5%にパーソナリティ障害が合併するとされ、その内訳は以下の通りです。
境界性パーソナリティ障害・・・12.5%
強迫性パーソナリティ障害・・・3.75%
演技性パーソナリティ障害・・・3.75%
自己愛性パーソナリティ障害・・・2.5%
シゾイドパーソナリティ障害・・・1.25%
BPDが群を抜いて多いことが分かりますね。
BPDの合併で懸念されること
アメリカの研究ですが、双極症患者にBPDが合併する場合、入院のアウトカムにどのような影響があったか調査されています。
BPDを合併した双極症患者26万8,232例と、双極症のみの対照群24万2,379例が調査対象となっており、以下のような特徴が認められました。
BPDを合併した双極症患者では、合併の無い双極症患者に比べて、
①入院期間の長さが有意に長かった
②入院費用が有意に高かった
③薬物乱用率が有意に高かった
④自殺リスクが有意に高かった
⑤電気けいれん療法(ECT)の使用が有意に多かった
参考:Patel RS, et al. Medicina (Kaunas). 2019;55. pii:E13.
この研究では入院患者さんのみを対象としていますが、外来患者さんでもBPDの合併ケースは予後の不良さが心配される結果でした。
まとめ
BPDと双極症の鑑別は、ケースによっては非常に難しいものですが、両者が類似していることを念頭に、詳細に症状を検討することが肝要です。
また、双極症にBPDを合併しているケースは上記に示した通り、合併の無いケースに比べて色々なリスクが高いと分かっているので、治療者はもちろん、患者さんにもそのリスクを理解しておいてもらうことは有益であると思います。
以上、「双極症と境界性パーソナリティ障害は似ているの?5つの類似点とは?」について解説してみました(‘◇’)ゞ