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双極症「認知機能障害」が回復しない。認知リハビリテーションとその注意点。

2019/06/05
双極症(双極性障害)100の質問
精神科医・さくら(@sakura_tnh)です。自身の知識と経験を活かし、人をワンランク上の健康レベルに底上げ=幸せにすることを目指しています。

「双極症(双極性障害)についての100の質問」企画、第46回目です。

今回のご質問は、

「双極症、認知機能障害が回復しない。認知リハビリになることとその注意点。」

です(・∀・)

お二人から、認知機能障害についてのご質問をいただきました。

以下、質問者さんからのメッセージです。

Aさんより
「手や足で細かい作業を沢山することが脳トレになると聞きました。私は子供の頃にピアノを習っていて、今は趣味でピアノ、下手だけど足のペダル操作のあるエレクトーンに挑戦しています。これは認知機能障害の改善効果はありますか?主治医は「趣味に没頭しすぎることには注意」と言っていますが、認知機能に良い効果があるなら、多少没頭してもいいですか?」

Bさんより
「意欲、集中力の低下、認知機能が回復しません。テレビは15分が限界、本は行を目で追いながら、ふと気がつけば別の事を考えています。車の運転も危険だと思っています。何か、脳トレーニング等をした方が良いのでしょうか?」

双極人で認知機能の低下を実感している人は多いでしょう。

気分症状が消失した寛解期にも認知機能障害が見られることは何度か書いてきました。

参考:双極症による認知機能障害とは?幼少期からの記憶が乏しい原因なの?

記憶力、注意力、遂行機能などの認知機能は再発を繰り返すごとに悪化すると言われています。また、とくに躁病エピソードの回数の多さが認知機能障害の重症度に相関するようです。

寛解期にも認知機能障害が残ると、病前にできていたことが十分に行えないことで患者さんの自己肯定感を下げ、意欲が低下し、社会的な回復の妨げにもなります。

認知機能障害を改善するには?

残念ながら、認知機能障害の改善については、現時点で即効性のある確実な方法はありません。

元々、高次脳機能障害に対して開発された「認知リハビリテーション」(以下、認知リハ)が、今では統合失調症やうつ病、双極症にも応用されつつあります。

ただ、標準的な治療に取り入れられるにはまだ時間がかかりそうです。

復職プログラムの「リワーク」においては個別の状態に応じた認知リハプログラムが組まれるところもあるようですね。

いずれは禁煙アプリのように「処方されるアプリ」として認知リハが標準的治療に組み込まれていくのかなと想像します。

認知リハの3つの方法

認知リハには主に3つの方法があります。

①コンピュータや紙と鉛筆を使っての認知機能訓練

一般にイメージされる「脳トレ」のようなものです。計算問題を解くなど。

ある研究では、タブレット端末で認知リハ用のソフトを使用し訓練しています。

処理速度、選択的注意、ワーキングメモリー、言語および視覚学習、推論、問題解決をテーマにしたタスクが用意され、合格すると次の難易度にレベルアップするシステムのようです。

認知機能障害もそれぞれで障害のパターンが異なるので、どんなものが適しているかは明言できませんが、スマホのアプリで「脳トレ」「ワーキングメモリ」「記憶」などと検索して、気になったものを試してみるのは悪くないと思います。

アナログでやるなら、計算ドリルなどもやって悪いものではないと思います。

②認知課題に対する効果的な戦略を立てる訓練

日常生活を想定した訓練では、「食事の献立を考える」「ある場所までの行き方を考える」「お店を調べて予約する」などをテーマにして個人、または集団で取り組みます。

これはやろうと思えば自分だけでもできますし、家族や支援者に協力してもらうのもいいですね。

実際に、料理をする、行ったことのない場所へ電車を乗り継いで行く、友人と出かけるプランを考えて実行することなどもリハビリになるでしょう。

③認知機能障害が心理社会的機能に与える影響を減らすための適応的、代償的なスキルの学習

認知機能障害を改善させることも大事ですが、残存してしまった場合に「もうどうしようもない」と悲観的になるのではなく、その状態でできることを考える、以前は必要のなかった何かしらの工夫を考えることが大切です。

家事なら、効率化をはかったり、できる部分は外注する。仕事なら、現状はとりあえず負荷の少ない仕事をする。趣味なら、細切れの集中時間になってもその時間内はしっかり楽しむ。

またできるようになればステップアップすればいいことです。

「今」「できる」ことをしっかり見つめてほしいと思います。

合格ラインを下げ、以前同じことが10分でできたことが今は30分かかったとしても、30分かかったけど「できた」ととらえるようにしましょう。

認知機能障害と薬

少し脱線しますが、発症において双極症と一部共通する遺伝子を認める統合失調症でも、認知機能障害はよく見られる症状です。

双極人のみなさんが困られているのと類似の症状ですが、障害レベルは統合失調症の方が一般的に重いです。

統合失調症の認知機能障害を改善させるための薬剤の開発や研究が進められており、最近ではブレクスピプラゾールもそのひとつです。

双極症でも、気分の安定した双極症患者さんにルラシドンというお薬を併用して認知機能の改善が見られるかの臨床研究が現在進行中です。

双極症でも統合失調症と同様にその認知機能障害が注目されつつあり、今後はよりそれに配慮した薬剤が登場することが期待されます。

認知機能にプラスに働く薬がある一方で、マイナスに影響する薬もあります。

各薬剤と認知機能障害

リチウムは神経保護作用がありますが、認知機能には軽度〜中等度の負の影響があります。

バルプロ酸も量が多ければ多いほど、記憶などの認知機能に影響します。

ラモトリギンは神経保護作用とともに認知機能の増強作用があるようです。

抗精神病薬については、現在主流となっている非定型抗精神病薬は比較的認知機能への影響は少ないですが、抗コリン作用、抗ヒスタミン作用などによる認知機能への負の影響はあります。

抗うつ薬は神経伝達物質の神経伝達を調節することで、直接的・間接的に認知機能障害を改善させることが分かっていますが、パロキセチンは記憶障害のリスクがあり、古いタイプの三環系抗うつ薬は認知機能障害への影響が大きいとされています。

※三環系抗うつ薬は躁転、ラピッドサイクラー化のリスクがあるため、基本的には双極症には使用しません。

薬物の影響であれば、処方変更で認知機能障害が緩和される可能性があるので、病状との兼ね合いによりますが、薬物調整もひとつの手です。

まとめ

認知機能障害は生活の質を落とし、社会適応を困難にします。

現状、疾患に適した認知リハを行うことは難しいですが、可能な範囲で何か取り組んでみましょう

Aさんの考えられているエレクトーンは同時に手と足を使うため認知リハになるでしょう。音楽は楽しみでもあるでしょうから、一石二鳥ですね。

ただ、主治医が懸念しているように、何かに熱中しすぎて調子を崩した過去があるのでしょう。

まずは「一日1時間まで」など、ルールを決めて試してみましょう。

※主治医とエレクトーンはしないと約束しているなら、受診時に主治医と時間や頻度などのルールを決めてから始めてくださいね。

Bさんの場合は、まだうつ症状が残っていないかが気になります。

気分症状が落ち着いてから認知機能の評価をすることです。

15分もTVを見ていられないとのことですから、前述したような課題に取り組むことはまだ難しいでしょう。

今はできることに取り組み、もう少し回復してから認知リハにトライするとよいと思います。

以上、「双極症、認知機能障害が回復しない。認知リハビリテーションとその注意点。」について解説してみました(‘◇’)ゞ

参考:臨床精神薬理 22:51-57,59-67,2019

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