「双極症(双極性障害)についての100の質問」企画、第49回目です。
今回のご質問は、
「双極症は寛解を目指す病気ですが、今後、完治する病となる可能性はどれくらいあると思いますか?」
です(・∀・)
シンプルながら、お答えの難しい質問です。
双極症は基本的には「完治・治る」ことが難しく、寛解期がしばらく続いても間を空けて再発することが大変多い病気です。
一生のうち、気分エピソードの再発が起こる回数は個人差があり、2〜30回と幅がありますが、平均9回程度とされています。
参考:双極症の寛解期。きちんと服薬を続けていても再発する?何が再発の原因なの?
よって、「治る」ことでなく、「再発を防ぎ、安定した時期(寛解期)を長くする」ことが治療の目標となります。
双極人や、少し双極症について勉強のしたことがある人なら知っていることですね。
とは言え、双極症の原因が完全に解明され、根治的な治療が可能になることが一番ですから、
「今後、完治する病気となる確率は100%だと思います!」
と、私も声を大にして言いたいところですが、正直なところ、少なくともこの10年のうちにはとても実現は難しいと思います。
「完治」に最も近い「寛解」について
ちなみに、寛解には部分寛解と完全寛解があり、その言葉の定義は以下の通りです。
部分寛解:かつて双極症の診断基準をすべて満たしていたが、過去2か月は一部の症状が残るのみ
完全寛解:かつて双極症の診断基準をすべて満たしていたが、過去2か月は診断基準のいずれも満たさない
参考:双極症、Ⅰ型とⅡ型の区別・診断はどうやってするの?基準は?
DSM-5という診断基準では、うつ症状も軽躁・躁症状も一切認めない状態が2か月継続していると「完全寛解」と呼びますが、一般に「寛解」と呼ばれる状態がこれです。
気分エピソードのサイクルが比較的長く、治療に反応して寛解となり、ある程度の期間、病気以前のように過ごせるケースは古い報告では40%ほどとされます。
一方、少し何らかの症状が残存した状態で長期に経過しているケースや、ラピッドサイクラー化して完全寛解にはなかなか至らないケースもあります。
双極症の長期の転帰は?
数十年以上の長期転帰の研究は乏しいのですが、「Iowa 500 study」というコホート研究では、1934〜1944年までにアイオワ大学病院に躁状態で入院した患者さん100人を30〜40年間にわたり追跡調査しています。
住居・職業・症状などから総合的に判断して「良い」「まずまず」「悪い」の3段階で評価した結果は以下の通りです。
良い・・・64%
まずまず・・・14%
不良・・・22%
およそ80年も前の調査です。当時は薬物治療も心理教育や対人関係・社会リズム療法なども充実していなかったことを思うと、少し先行きが明るく感じられるかもしれません。
(※この調査はⅡ型の患者さんは対象になっていません)
「Zurich cohor」という研究では、1959〜1963年までに入院した220人の双極症患者さんが対象で、5年ごとに面接を行っています。
最長20年の追跡の結果、双極症の24%が完全寛解に至ったとされます。
完全寛解の定義は序盤に記載したものと異なり「さらなる気分エピソードが出現しないこと」と、この研究では定義されたようです。今後100%再発しないかどうかは分かりませんから、イメージとしては寛解が相当長期にわたり持続しているケースだと思われます。
また、40年以上の経過を観たその後の報告では、全患者のうち16%が68歳までに回復に至ったとのことです。回復の定義は「Global Assessment Scale(GAS)得点が60点以上、過去5年間に気分エピソードがない」こととされています。
※GASは患者さんの全体の機能を評価するための尺度。現在の DSM-IVのGAF尺度の基礎となったもので、1〜100点で評価します。
こちらも古い研究ですから、より良い治療ができる現在では、この結果より良い転帰が期待できると思います。
双極症が「完治する病気」となる可能性
そもそも、「完治」したかどうかをどう判断するかという点が難しいです。
他の精神疾患と同様、「完治」の概念が無いため、定義がありません。
上記の研究にあるように、その人の総合的な機能がある程度保たれていて、5年以上症状が全く無い状態と定義したとしても、その後、再発しないかどうかは不明です。
例えば、細菌感染による肺炎にかかり、症状が消失した場合、採血検査や画像検査などの客観的な指標をもってその病気が「完治」したと言えますが、双極症は現状では原因が明確になっておらず、薬物治療も根治治療でなく対症療法ですから、肺炎が「治った」と同じように双極症が「治った」と言うことは困難です。
また、「完治」では、薬物治療を中止していることが前提でしょうから、これまた難しい話です。
再発を繰り返すとラピッドサイクラー化のリスクが高まること、認知機能の低下を含め、その人全体の機能を落とすリスクが高まります。
よって、Ⅰ型で激しい躁症状を過去に示したケースや、Ⅱ型でもうつ症状が重く、長期に続くケースではしばらくの間寛解が続いたとしても「はい、そろそろお薬を止めてみましょう」とはならないケースが多いかと推測します。
さらには、気分症状がまったく無くなったとしても、病気以前の状態に比べて機能が低下した状態に陥っているなら、それは「完治」と呼びがたいとも思います。
「完治」について、現実的に期待できること
質問者さんのイメージされる「完治」とは違ってしまうと思いますが、現実的に期待できることは、薬物治療と生活における心がけを継続することで「死ぬまで寛解が続くこと」です。
心理教育や認知行動療法などの非薬物療法も充実し、薬物療法も現在の服薬より簡便なスタイルとなり、副作用も軽減され、診断の時点でベストな薬剤がチョイス可能となることは実現可能なことだと思います。
それがいつになるかはもちろん明言できることではありませんが、双極症についての研究は日進月歩ですから、早期にそうなることを期待しています。
加えて、病気の理解が広まり、深まることで、多少の気分の波があったとしても、社会的に許容されるようになることが大事だと考えます。
本人が苦痛でない範囲での浮き沈みは、周囲の許容があれば、「病気」として捉える必要が無くなります。
まとめ
精神疾患の回復の基本は、
「今持っているカードで病気に立ち向かう・症状をコントロールしていく」
ことです。
未来に希望は抱きつつも、今は現状で日々できることをコツコツと積み上げていきましょう。
以上、「双極症は寛解を目指す病気ですが、今後、完治する病となる可能性はどれくらいあると思いますか?」について解説してみました(‘◇’)ゞ
参考:双極性障害の長期予後 臨床精神医学 43(10):1433−1438,2014