「双極症(双極性障害)についての100の質問」企画、第51回目です。
今回のご質問は、
「双極症を持つ親は、子供が病気を理解出来ない低年齢の場合、どのように子育てをしていけばいいですか?」
です(・∀・)
双極症は20代〜30代にかけて発症することが多く、お子さんが生まれてお子さんが小さいうちに発症することもあれば、発症してから結婚し子どもを持つこともあるでしょう。
女性では、産後に双極症を発症しやすく、気分エピソードの再発も多いことが知られています。「産後うつ」と思われていたのが、その後躁転をきたして双極症が明らかになることもあります。
双極症では家族さんに病気について正しい知識をもっていただき、服薬管理や日常生活での対処法を一緒に行ってもらうことが大事です。
幼いお子さんに上記のことをしてもらうことはもちろん難しいでしょう。身の回りのことも十分にできない年齢であれば、お子さんの方が生活面での援助も必要です。
質問者さんのお子さんの年齢が分かりませんが、未就学児のお子さんと想定して解説します。
Contents
幼い子どもがいる場合の双極人の子育て
まず、病気の有無に関わらず、お子さんについてどのような育て方をしたいか、その方針をパートナーと十分に話し合うことが大事です。
・どのような子に育ってほしいか
・どのような価値を重視するか
・声かけで気をつけること
・どんな親の姿を見せたいか
・育児や家事の分担
・教育やレジャーへのお金のかけ方
上記についてパートナーと意見をすり合わせ、お子さんを一人の人間として尊重し、一貫した言動、振る舞いをすることが第一です。
寛解期やそれに近い状態のときは、これらを念頭にお子さんと接していきましょう。
次に、病気を抱えながらもできることと、状態によっては難しいことを検討しましょう。
双極症は気分エピソードによって、お子さんに対してできることが変わるのはもちろん、言動や振る舞いなどが一定しないためにお子さんとの接触に配慮が必要なことも事実です。
気分症状が強くてしんどい時は
うつ病エピソードでも特にしんどいとき、お子さんのお世話はもちろん、「おはよう」などの声かけも難しい時は、頼れるなら実家を頼り、親御さんに来ていただくか、逆にご自身が実家に避難してゆっくり休養しましょう。
そういった環境が十分でない場合は、入院も必要になるかもしれません。
お子さんと離れることに不安を感じたり、罪責感を抱くことがありますが、早く回復することが何よりお子さんとの関係にとって大事なことと認識しましょう。
幼いお子さんへの説明は難しいものですが、
「ママ・パパはとってもつかれたから病院でお休みしてくるね。早く治してまた楽しく遊びたいから」
などと、お子さんの年齢に応じて目線を合わせてゆっくり説明しましょう。
その詳細な意味は理解が難しくても、親の言葉のトーンや表情から子どもは多くのことを感じ取ると思います。
軽躁病・躁病エピソードの時も、爽快な気分であればまだ一緒に過ごせるかもしれませんが、イライラがひどい時、子どもに手を上げそうになる時は、あなたのためにもお子さんのためにも距離を置くことが大事です。
うつ病エピソード時と同様に、本人が場所を移すか、お子さんを一時的に実家に預かってもらうなどの対策を考えましょう。
未就学児であれば、仕事をしていなくても「一時預かり事業」という保育園などが行うサービスが各地にありますから、病気により保育ができないことを理由に利用することもおすすめします。
この形であれば、夜はパートナーが帰宅して一緒に過ごすことで、同居のままで気分の波を乗り越えられるかもしれません。
うつ症状が軽度のときの過ごし方・注意点
うつ症状はあるけれど、しんどいながらも最低限の家事ができ、お子さんの遊びにも付き合えるくらいの病状の際に気を付けることです。
重い症状から少し回復した時はとくに、重症の時にできなかった分までお子さんのために精一杯のことをしようとしがちです。
まだエネルギーは十分に回復していないこと、ここで無理をすればまた一段としんどい状態に逆戻りすることを忘れず、活動はセーブしながら行うこと、夜に余力が残っているくらいの活動を意識してペース配分しましょう。
パートナーや親御さんの協力が得られるなら、お子さんから離れて過ごす、1人の時間を1日に1時間は作りましょう。この時間が持てるかどうかは気分安定にも体力の回復にも大きいです。
ふだん添い寝をしている場合も睡眠の時間や質の確保を優先し、パートナーに任せて、回復するまでは別室で休みましょう。
軽躁状態のときの過ごし方・注意点
続いて、軽躁症状はあるけれど、イライラが軽度で比較的穏やかな時の注意点です。
軽度のうつ症状があるときと同様に、活動したくなる欲求をこらえて、気分エピソードごとに決めたルールを守りましょう。
お子さんに悪気はなくとも、日常の育児の中ではついイライラしたり、感情的になってしまうものです。気分症状のある時はお子さんの声の大きさや様々な行動が刺激となります。
イライラをお子さんにぶつけそうになったときは、呼吸法などのストレスケアをすること、もしそれでもコントロールできないようならその場から離れることも一つです。
家族がほかにいる時はその場は任せて「クールダウンしてくるね」と、違う空間で少し過ごしましょう。
お子さんと二人の場面では難しいですが、それでも手をあげてしまうことよりは「少しだけ待っててね」と言って離れることがお互いのためでしょう。
少し落ち着いたら、ハグして「もう大丈夫だよ。待っていてくれてありがとう」と感謝を伝えましょう。
家事を相当に手抜きする。育児も少し手抜きする
育児をする中で切っても切り離せないのが「家事」です。
元々完璧思考の人はとくに、病状がつらいときにも「これだけはしなくちゃ」「子どもには手料理を食べさせなきゃ」「掃除をして衛生面に気をつけなきゃ」などと頑張ってしまいがちです。
まず、家事は「そうとうに」手を抜くことが必須です。
お子さんに十分なことができないことを苦しく思うかもしれませんが、うつ病エピソード中のあなたは病状の回復に重きを置かなければなりません。
家事やパートナーへの対応 < お子さんへの対応 < 病状コントロール
この公式を忘れないでください。
パートナーの方にも申し訳ないですが、一番は状態の改善で二番にお子さんへの対応です。
少し使えるエネルギーがあれば、お子さんに穏やかに接すること、可能な限り笑顔を向けてあげること、今日一日の話を聞いてあげること、頭を撫でてあげること、ハグしてあげること、寄り添って横になること、そばにいることに使いましょう。
掃除は数日に一度でも掃除機をかけられたら御の字。
食事は宅配やレトルトでOKです。栄養面が気になりますが、それよりも親が少しでも精神的に余裕があることの方が大事です。
洗濯はお子さんがいるとせざるを得ないと思いますが、キレイに畳むことは諦めます。もしくはパートナーにしてもらいましょう。
お仕事をされている方で、病状のつらい間は家のこと・お子さんのことをパートナーに相当頼める人は、仕事だけに注力してあとは休むだけの生活で回復を待つこともありです。
気分エピソードごとのルール作り
状態の落ち着いているときに、パートナーと、また協力可能ならお互いの両親とともに気分エピソードごとのルールを作りましょう。
以下は一例ですのでアレンジしてみてくだだい。
うつ病エピソード中のルール
・外遊びはパートナーや親と行ってもらう
・保育園や幼稚園の送り迎えをパートナーや親にしてもらう
・睡眠時間を8時間確保する
・添い寝はパートナーにお願いする
・一時預かり保育を利用する
・外出は徒歩圏内の公園までにする
軽躁病・躁病エピソード時のルール
・遠出や長時間の遊びは控える
・睡眠時間を8時間確保する
・お子さんに付き合っての激しい運動は控える
・静穏な室内での遊びをメインにする
・イライラに気づいたら別室でしばらく過ごす
・落ち着くまで実家で過ごす
お子さんへの影響は不可避なもの
双極症と一口に言っても病状は多様ですが、症状が中等度以上の方はお子さんへ影響が無いようにいくら配慮しても、影響することは避けられません。
もしかすると、これを読まれているあなた自身も幼い頃に親の精神的不調のためにつらい思い、寂しい思いをしたかもしれません。
ここまで読まれて、人的・経済的・時間的な制約があるためにとてもそんな対応は難しいと思われた方もいるでしょう。
けれど、お子さんのことを思えばこそ、気分症状のあるときに無理して対応したり、感情を抑制しつつ対応することだけで何とかしようとするのではなく、
使える人もモノもサービスも最大限に利用して、あなたもお子さんもできるだけつらくない方策を考えましょう。
長期的な視点が大事です。
序盤に治療をおざなりにすることで病状が長引く、難治化するなどのリスクを思えば、一時期お子さんに寂しい思いをさせてしまうとしても、前述した優先順位を間違えないでほしいと思います。
まとめ
お子さんは何より、パパやママが笑顔で元気でいてくれることを望んでいます。
病気のために、理想的な親でいられないときがあってもいいんです。
それは精神疾患に限りません。
大事なことは、落ち着いているとき、余裕があるときに、十分に愛情を示すこと、お子さんを大事に思っていることを表現することです。
病気についても理解できないと思わずに、平易な言葉で説明してあげましょう。
「パパ・ママはとっても疲れて寝てしまうときと、元気すぎて怒りっぽくなってしまうときがある。そんなときは嫌な思いをさせてしまうかもしれない。パパ・ママはあなたを傷つけたくないから、そんなときは少し会わないようにすることもあるよ。早くいつものパパ・ママに戻ってあなたと楽しく遊びたいからね。いつでもあなたのことは大事なんだよ。それは覚えておいてね」
また、しんどいときにも親としてできることがあることも確認しておきましょう。
・「おはよう」「おかえり」など挨拶をすること
・「○○ちゃん」「○○くん」と名前を呼ぶこと
・手を握ってあげること
・顔を見て話しかけること
・「あなたがいてくれるから頑張れるよ、ありがとう」と伝える
・その日あったことを聞いてあげる
お子さんに十分なことができないと悩むこともあるかもしれません。
でも、あなたがいるだけでお子さんはとっても嬉しいんだということを忘れないようにしましょう。
以上、「双極症を抱えながらの育児。子どもが幼いときの育児のヒントと注意点とは?」について解説してみました(‘◇’)ゞ