「双極症(双極性障害)についての100の質問」企画、第53回目です。
今回のテーマは、
「双極症、うつ状態での過量服薬(OD)がやめられない人への改善のヒント」
です(・∀・)
「双極症です。鬱の時、つらくて過量服薬(OD)してしまいます。希死念慮はありますが、本気で死のうとは思っていません。とにかくつらい気分から逃げるために薬をどんどん飲んでしまいます。毎回後悔するのですが、鬱になるとやってしまいます。どうすればOD癖が治るでしょうか?」
睡眠薬や抗不安薬などの薬を、決められた一回の内服量を超えて服用することを「過量服薬(OD:オーバードーズ)」と言います。
市販薬をODするケースもありますが、ここでは処方薬のODに焦点を当てて解説します。
Contents
過量服薬(OD)の危険性
質問者さんがどの程度、どのような薬をODしているか詳細は不明ですが、文面から、救急車で運ばれるレベルではない量のODを繰り返しているとして考察します。
これまでは何度もODしながらも大きな問題に至らなかったのかもしれませんが、続けていくうちにODする量が増え、うつ状態でない時にもODするなど行動が拡大することは十分に考えられます。
初回のODの時は「今回きり」と考えていたかもしれませんが、現時点でうつ状態では「必ず」ODするようになってしまっています。
また、「本気で死ぬつもりはなかった」はずが、現実になる恐れも無いとは言えません。
一般的にODは致死性は高くない手段ではあるものの、いくつかの向精神薬は致死リスクが高く、また、絞首や飛び降りなどの行動の直前に処方薬を過量に飲んでいた自殺者が多いことも報告されており、ODは軽視してはいけない問題です。
ODから誤嚥性肺炎、横紋筋融解症、急性腎不全などを発症することもあり、後遺症が残るなどの身体的なリスクもあります。
OD後にそのまま眠ってしまい、数日間片側の腕が圧迫されて壊死し、切断に至ったケースも身近でありました。
救急医療の側面からは、OD患者の対応で救急医療の現場がひっ迫していること、多額の医療費が費やされることも問題となっています。
もちろん、処方薬のODには処方している精神科医側の問題もあります。
ODに加担する精神科医の問題
・リスクの高い患者さんに漫然と抗不安薬や睡眠薬を処方する
・ODして手持ちの薬が不足し、受診予定日より早く受診した患者さんが希望したため、また処方する
・ODによるリスクを十分説明しない
・ODへの対処法を十分検討しない
とくに、患者さんの希望のままに処方することはあってはならないことです。
国が過量服薬に対する施策を開始した2010年以降は、救急医療機関に搬送されるOD患者さんは緩やかに減少傾向にはあります。
多剤処方をすると診療報酬が減らされる仕組みが厳格化したことなどが貢献していると思われますが、まだまだです。
主治医に必ず伝える
主治医がODの件を把握していないのなら、次の診察で伝えましょう。
処方内容の変更や量の調整、または受診間隔の短縮、家族による服薬管理の援助などを検討します。つらいときの対処法についても助言をします。
「ODするための薬がもらえなくなるから言わない」
という考えが頭をよぎるかもしれませんが、それはあなたにとって不利益でしかありません。
どうしてODしてしまうのか?
ODと聞くと、「自殺のための手段」と思われがちですが、過量服薬者への調査によると、質問者さんのように、
「つらい気持ちから解放されたかった」
という理由が最多です。
また、背景に以下のようなことがあるとODのリスクが高いとされています。
・自己切傷・過量服薬の既往
・物質使用障害の存在
・パーソナリティー障害の存在
・摂食障害の存在
・トラウマ関連障害の存在
・家族と同居していない(同居していても無理解や陰性感情に曝されており、本人が主観的に孤立無援感を抱いている)
・直接・間接に深刻な暴力に暴露された経験を持つ
つらさ、苦しさへの対処法を身につける
つらさ、苦しさを和らげるための方法はたくさんあります。
ODはその中でも特に即効性があり、簡便な方法でしょう。
しかし、上記の通り、リスクの高い対処方法です。
よって、リスクを伴わない対処法を身につけていくことが必要です。
すぐODしてしまう人は、苦痛を感じた時の自己対処スキルが低いケースが多いです。
苦痛を感じた時の対処法をいくつか試して、それでもダメでODしてしまうケースもあるでしょう。
その一方で、
「しんどい」⇒「即OD」
のパターンになっているケースもあると思います。
そうなるまで医療者が介入できていなかったことが悔やまれますが、後者の人は特に、自己対処法ですぐにできる、簡単にできる方法をいくつも用意しておくことが大事です。
・4−7−8などの呼吸法
・マインドフルネス
・セルフコンパッション
・瞑想
・散歩に出る
・音楽を聞く
・アロマをたく
・チョコレートをひとくち食べる
・好きな動画を見る
・心地よいモノに触れる
・セルフハグ
・家族や支援者に電話する
・塗り絵などのちょっとした作業をする
加えて、うつ病エピソード中でも、とくにどんな「きっかけ」や「場面」や「時間帯」でODをしたくなるのかを記録して、行動パターンを把握しましょう。
リスクの高まる場面、時間帯を認識し、回避することが対処のひとつです。
・夜に一人でいる時にODしやすい
⇒誰かと一緒に過ごす
・周囲の雑音が刺激になってODしやすい
⇒リラックスできる音楽を聴く
・反芻思考が出てくるとODしやすい
⇒同じ考えがグルグルしだしたら散歩に出る
ODしにくい仕組みづくり
そもそもODしようと思ってもすぐにできない仕組みを作ることも大事です。
・受診間隔を縮めて手元に置く薬の量を減らす
・薬は家族や訪問看護師に管理してもらい、その日の必要分だけ手元に置く
上記のように、主治医と相談してルールを決めましょう。
OD以外の対処法で乗り切った体験を積む
一旦、ODが常態化するとそれを解消することは難しいものです。
まずは一回、つらい感情が襲ってきた時にODでは無い方法で乗り切る体験をしてほしいと思います。
「つらいけれど、ODしてはいけない」
と思うのではなく、
「とてもつらいから、自分をいたわる方法で乗り切ろう」
と考えてください。
乗り切る体験を積むことで、失っているコントロール感を少しずつ取り戻せます。
まとめ
ODすることに罪悪感を抱く患者さんは多いです。
そのため、正直に医療者や支援者に伝えられないケースもあるでしょう。
一方、双極症という病気を抱えてとても大変な思いをされている上に、1人で悩み、抱え込まないといけない問題が加わることは双極症の経過にも影響すると思われます。
今これを読まれている方で主治医や支援者に相談できていない方は、ODへの依存が著しい場合は専門の治療期間での治療も必要になってきますので、ご自身のためにも相談されてください。
以上、「双極症、うつ状態での過量服薬(OD)がやめられない人への改善のヒント」について解説してみました(‘◇’)ゞ
参考:「精神科医療における過剰服薬の現状と課題」臨床精神薬理Vol.22,No.3,2019