「双極症(双極性障害)についての100の質問」企画、第55回目です。
今回のテーマは、
「双極症、リチウム内服中に血液検査をしていないという問題とそのリスク」
です(・∀・)
以下、質問者さんからのメッセージです。
「メンタルクリニックに通っています。リチウムを処方されていますが、クリニックでは血液検査する設備がないため血液検査をしていません。どうすればいいでしょうか?」
双極症患者さんの通院先は「メンタルクリニック(診療所)」「精神科病院」「総合病院の精神科」の主に3つあります。
質問者さんのようにクリニックに通院されている人も多いでしょう。
とくにⅡ型の場合は入院加療を行うことが比較的少ないため、クリニックへの通院が多いかもしれません。
そして、クリニックには血液検査をしていないところがあります。
質問者さんが気にされるように、「血液検査」はとても大事な検査です。
まずはその理由を見ていきましょう。
Contents
血液検査が大事な理由
①内科疾患のルールアウト
双極症ではうつ状態で発症し、うつ病を疑って医療機関を受診するケースが多いです。
そのうつ状態を呈する病気は、精神疾患以外にも多数あります。
甲状腺機能低下症、副甲状腺機能亢進症、addison病、糖尿病、自己免疫性疾患(関節リウマチ、全身性エリテマトーデスなど)、ウイルス感染など
そのすべてがルーチンの血液検査で分かるわけではありませんが、初診時に主だった内科疾患が隠れていないかを検討することは大事です。
②薬物治療を行える身体状態かの確認
双極症では、その治療のメインのひとつが薬物治療となります。
薬物治療を行うにおいて、特に肝機能と腎機能は大事な指標です。どちらかが悪ければ、例えば腎機能が悪ければ、腎臓で主に代謝される薬は避ける必要があります。
双極症で主に使われるリチウムは、腎機能が低下していると血中濃度が予想より高濃度となり、リチウム中毒を起こすリスクが高くなります。
③身体状態の定期的な確認
薬物治療が開始されて以降の約3か月ごとの定期的な血液検査です。
服薬により肝機能や腎機能に障害が出ていないか、糖代謝異常や血球減少が出現していないかをチェックします。異常があれば、薬物調整を行います。
これはオマケですが、内科などほかの診療科に通院していない場合、精神疾患やその治療とは無関係の異常が見つかることもあります。私の患者さんでも貧血が認められ、内科に紹介したところ悪性腫瘍が見つかったケースがありました。
血液検査で分かる、双極症で使用される薬の副作用は以下の通りです。
リチウム・・・甲状腺機能低下、副甲状腺機能亢進、腎障害
バルプロ酸・・・血小板減少、高アンモニア血症、膵炎
カルバマゼピン・・・低Na血症(SIADH)、肝機能障害、血小板減少、白血球減少
オランザピン、クエチアピン・・・脂質異常症、血糖値の上昇、糖尿病の増悪
リスペリドン・・・高プロラクチン血症
④薬物の血中濃度の確認
リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピンなどの薬は血中濃度を定期的に測定することが必要です。
特にリチウムでは、症状の改善に必要な治療濃度(0.4〜1.0mEq/L)と中毒域(1.5mEq/L以上)が近いためその血中濃度を測定することが重要です。
血中濃度の上昇を認めた際は以下の対応をします。
・血清リチウム濃度が1.5mEq/Lを超えた場合は必要に応じて減量または休薬
・2.0mEq/Lを超えた場合には減量または休薬
リチウムと血液検査
次に「リチウム」に注目して、血液検査の重要性についてまとめます。
リチウムを投与する際の血中濃度測定のルールは以下の通りです。
・投与開始後は、維持量が決まるまで1週間に1度の血液検査
・増量した時は、維持量が決まるまで1週間に1度の血液検査
・服薬量が定まってその量を維持している間は、2〜3カ月に1回の血液検査
リチウムを服薬しているだけで、このペースでの血液検査が必要です。
それだけ血中濃度に注意が必要な薬剤ということです。
維持量になってからはペースを落としても良さそうに感じますが、季節の変化による飲水量の変化や、生活習慣の変化、下痢や感染症など何らかの身体疾患の出現、痛み止めとしてよく使われるNSAIDsや一部の降圧薬の併用などにより血中濃度は容易に変化します。
高濃度となり中毒を起こすこともリスクですが、
低濃度となり気分エピソードが再発することも大変なリスクです。
世界的にも日本でも注意喚起がされている
2010年には世界保健機構(WHO)が、血液検査の体制が整っていない場合はリチウムを投与してはいけないと勧告しています。
2012年には医薬品医療機器総合機構(PMDA)が、血液検査をせずにリチウム中毒に至るケースが多数あることを報告し、その後の調査で、リチウムを処方されている患者の半数以上で血液検査が行われていなかったことが判明しています。
これ以降のデータはありませんが、聞くところによると、質問者さんのように採血を行っていないクリニックは今も依然として存在するようです。
医薬品副作用被害救済制度について
医薬品を適正に使用したにもかかわらず、その副作用により入院治療が必要になるほどの重篤な健康被害が生じた場合に、医療費や年金などの給付を行う公的な制度
詳しくはこちらを参照:医薬品副作用被害救済制度
「適切な」血清リチウム濃度測定が実施されずに重篤なリチウム中毒を起こし入院加療を受けた場合などは、適正な使用とは認められず、救済の支給対象となりません。
この場合、患者さんやその家族は主治医に損害の請求をすることもあり、血液検査を行わないことは医師にとってもリスキーなことです。
血液検査以外の検査について
以上のように血液検査は精神科クリニックにおいても必須の検査です。
それ以外の検査については、合併症が無く、比較的若年のケースでは必須と言えるものはありませんが、抗精神病薬を服薬している人は致死性の不整脈の副作用が起こるリスクがあるので、QT延長というサインが出ていないか確認するために心電図の検査を定期的に行うことが望ましいです。
まとめ
双極症で薬物治療をしている方は、処方にリチウムが含まれないとしても、定期的な血液検査が必要です。
現在の通院先で検査を受けていない人は、次回受診時に相談されてください。
主治医が「採血できる体制がない。仕方ない」「状態が安定しているから必要ない」などと回答する場合は、その医療機関は個人的にはおすすめできません。
この一点だけでもアウトですが、ほかにも何かルーズな点がないか疑ってしまいます。
どうしてもそのクリニックで採血ができないのなら、他の医療機関で受けられないか確認してみましょう。
安心して双極症の治療を継続するにおいて大事なことです。
以上、「双極症、リチウム内服中に血液検査をしていないという問題とそのリスク」について解説してみました(‘◇’)ゞ