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双極症、主治医からの日常生活上の注意が「抽象的」で困っている人へのヒント。

2019/06/19
双極症(双極性障害)100の質問
精神科医・さくら(@sakura_tnh)です。自身の知識と経験を活かし、人をワンランク上の健康レベルに底上げ=幸せにすることを目指しています。

「双極症(双極性障害)についての100の質問」企画、第59回目です。

今回の質問は、

「双極症、主治医からの日常生活上の注意が抽象的で困っている人へのヒント」

です(・∀・)

以下、質問者さんからのメッセージです。

「双極症です。主治医には外出を控えめにするようにと言われますが、週に何回の外出まで大丈夫なのでしょうか?専業主婦をしていますが、週に3回から4回は外出してます。主治医には常識の範囲でと言われましたが、回数指定がないと分かりにくく悩んでます」

おそらく、多くの人が悩みながらも「?」のままでいるだろうことの問題提起をしてくださいました。

双極人にとって、薬物治療とともに、生活リズムの安定やストレス管理はとても大切なことです。

主治医はそのために必要な助言をするわけですが、その助言が抽象的で実際の生活でどうしたらよいか分からなくて困ることがあると思います。

この質問にあるような「常識的な範囲内で○○するように」や、「適度な運動を心掛けて」「十分に睡眠時間・休息時間をとって」などの表現は人によっては難しく感じるでしょう。

とくに双極症は自閉スペクトラム症(ASD)の併存もあり、あいまいな表現の理解が困難な人が一定数います。

定型発達者であっても、抽象的な助言より、具体的に、

「睡眠は最低7時間とりましょう」

「運動は有酸素運動を30分、週3回しましょう」

「1時間仕事や作業をしたら10分休みましょう」

のように示された方が実践しやすいですよね。

主治医はなぜあいまいな表現をするのか?

なぜ主治医の助言はあいまいな表現になってしまうのかを考えてみます。

容易に「数字」で「時間」や「頻度」を示せることはそう伝えますが、正直言って、それが難しい助言対象が多いのです。

例えば、病気の症状も同じ病名であっても千差万別ですから、症状や治療、経過を説明するにしても、ひとまず一般論を伝えるほかありません。
(何か特異的な背景や併存疾患があればより具体的な説明ができますが)

助言内容はその千差万別の双極人に対して行いますから、まずは一般的な話、すなわち抽象的な話になる可能性が高いわけです。

すべての人に有効であろう、生活の記録や気分レベルの判断などは具体的な方法を説明できますが、活動の強度や頻度、時間数などは、あなたの情報が十分に無い治療の序盤では示すことが困難です。

逆を言えば、時間が経過し、

・毎日、1時間のランニングをしていたら気分症状の予兆が出てきた

・睡眠時間が5時間を切ったら気分エピソードの再発に至った

・3時間ぶっ続けで集中して作業していたら気分症状の予兆が出た

などの情報が出てくると、主治医もあなたの生活面について具体的な助言をし、ルール作りをすることができます。

トライアンドエラーで最適化していく

双極人に関わらず、精神疾患を抱えながら生きる人にとっては毎日が「実験」です。

私にとってベスト(ベター)な睡眠時間や起床時刻は?

私にとってベスト(ベター)な外出の頻度や移動距離は?

私にとってベスト(ベター)な人と会う頻度や時間数は?

私にとってベスト(ベター)な仕事時間や休息タイミングは?

私にとってベスト(ベター)なスマホの使用時間・TVの視聴時間は?

私にとってベスト(ベター)な1日のリラックス時間・読書時間は?

私にとってベスト(ベター)な食事時刻・入浴時刻は?

すべて、まずは「○○がベスト(ベター)では?」と仮説を立てて、その生活を続けてみることです。

質問者さんの例で言うと「外出は週に4回までがベストでは?外出は1回につき3時間までがベストでは?」などと仮説を立てます。

過去のエピソードを振り返り、具体的な数字を検討

過去を振り返れば、とりあえずの具体的な数字も思い浮かぶでしょう。

・普段は週に4回くらいの外出で時間も3時間までにとどまっていたのに、軽躁状態になる前は毎日1回は外出していたし、朝から晩まで出ていることも増えていた

・普段は特別なイベントは多くても月に2回だったのに、軽躁状態になる前は週に1回以上は特別なイベントを入れていた

・普段は週に4回は散歩に出ていたのに、うつ状態になる前は朝の散歩の回数が週に2回以下だった

・普段は7時間は寝ていたのに、うつ状態になる前は睡眠時間が6時間を切っていた

主治医はその人にとってのベストな具体的な数字は答えようがなくても、このように「目安」の時間や頻度を示すことは可能なので、抽象的な表現が苦手な人、仮説を立てること自体難しく感じる人は主治医に設定してもらいましょう。

その際、生活の記録(ソーシャルリズムメトリック:SRMなど)は必須です。

気分症状のサインに注意し検証していく

あなたの仮説が正しいのかを経過を見ながら検証し、気分症状のサインが出現しないか注意深く確認していきます。

うつのサイン

反芻思考の出現、早朝覚醒、熟眠感の低下、日中のだるさなど

軽躁のサイン

イライラ、気分の高揚、注意散漫、非常に集中できる、しゃべり続けるなど

サインが出る気配が無く気分が安定していたら、その仮説は少なくともあなたにとってベターだと判断できます。

日記やメモアプリに記して、主治医はもちろん、家族や支援者とも共有しましょう。

他者に伝えて共有することのメリットは、

・自身の方針を明確にできること

・自身がそのルールに従ってコントロールしていくという決心を強めること

・他者がその方針に沿って助言をくれる、応援してくれること

などです。

気分症状のサインが出たら仮説を修正してまた実践

何らかの気分症状のサインが出た時は、その仮説は修正が必要です。

数字を変化させてみて、また実験しましょう。

この際、仮説で考えていること以外の要素が気分症状の出現につながっている可能性がありますから、「この点以外に日常で気を付けるポイントはなさそうか」も考えてみてください。

客観的な意見が欲しいときは主治医や支援者に尋ねてみましょう。

まとめ

大事なのは、トライアンドエラーを繰り返し、エラーを「失敗」と見なさず、「糧」として次に活かすことです。

双極症はご存知の通り、再発リスクの高い病気です。

また、今の時代、人生は意外と長いものです。

「人生の足踏みをしているかのよう。時間がもったいない」

「症状に振り回されている生活がつらい。実験なんてやる気になれない」

などと考えてしまうのもよく分かりますが、今のうちによりよく生きるための試行錯誤をしてほしいと強く思います。

それらは必ず今後のあなたにとって役立つものです。

今はたしかにつらいかもしれない。

けれど、よりよく生きるための行動は、いつからでも、今日からでもできることです。

あなただけの具体的な行動指針はあなたの中にあります。

少し時間はかかっても、それを掘り出して自分のものにしていってほしい、病気にコントロールされるのではなく自身が病気をコントロールして、長い人生を謳歌してほしいと期待しています。

以上、「双極症、主治医からの日常生活上の注意が抽象的で困っている人へのヒント」について解説してみました(‘◇’)ゞ

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