「双極症(双極性障害)についての100の質問」企画、第62回目です。
今回のテーマは、
「双極症の約半分に”不安症/不安障害”が併存。不安感とうつ症状は関連する?」
です(・∀・)
以下、質問者さんからのメッセージです。
双極症ですが、強烈な不安感に襲われることがあります。特に朝、不安感で早朝覚醒してしまいます。気分的にはうつというほどではないような気がするのですけど、不安感もうつ症状の一種なのでしょうか?
記事タイトルに書いていますが、双極症は不安症の併存が多い疾患です。
ちなみに、不安症とは従来「不安障害」と呼んでいた疾患のことです。
「双極性障害」は来年頃に正式に「双極症」と呼称が変更される見込みです。
一方、「不安障害」は、すでにDSM-5という診断基準の中では「不安症」と記載してあるのですが、一般の方が耳にすると「心配性」のような「病気」とは乖離したイメージを持たれるかもしれません。
れっきとした病気としての「不安症」ですのでお間違えの無いよう。
「うつ」と「不安」の違いとは?
「うつ」と「不安」の違いについて大雑把に説明すると、以下のようなイメージです。
うつ・・・過去の出来事を後悔して落ち込む
不安・・・未来、先のことに対して心配する
また、一般的に「うつ」は連続して続くもので、「不安」は一過性のものが主です。
不安症の主なものについて
不安症にはいくつか種類があり、主に大人で問題になるものは以下の通りです。
・限局性恐怖症
⇒閉所恐怖症、先端恐怖症のような比較的限られたモノや状況に対する恐怖
・社交不安症/社交不安障害
⇒人前で話すなど、特定の社会的な場面で不安が起こり、赤面、会話困難などの身体症状を伴う
・パニック症/パニック障害
⇒動悸、冷や汗、呼吸苦など、特徴的な身体症状を伴うパニック発作を繰り返す
・全般不安症/全般性不安障害
⇒特定のことでなく、あらゆるモノゴトに対する不安が持続する
不安は一過性と書きましたが、最後の全般性不安症では比較的弱い不安が持続するもので、生活への影響は軽度でも持続することで社会機能を損ない、苦痛をもたらします。
いずれの不安症も双極症と併存すると、自殺念慮を抱くリスクが増加し、双極症の経過の予後不良因子となることが分かっています。
全般性不安症の診断基準
全般性不安症のDSM-5という診断マニュアルでの診断基準を見てみましょう。
A.(仕事や学業などの)多数の出来事または活動についての過剰な不安と心配(予期憂慮)が、起こる日のほうが起こらない日より多い状態が、少なくとも6ヵ月間にわたる。
B.その人は、その不安を抑制することが難しいと感じている。
C.その不安および心配は、以下の6つの症状のうち3つ(またはそれ以上)を伴っている(過去6ヵ月間、少なくとも数個の症状が、起こる日のほうが起こらない日より多い)
注:子どもの場合は1項目だけが必要
・落ち着きのなさ、緊張感、または神経の高ぶり
・疲労しやすさ
・集中困難、または心が空白となること
・怒りっぽさ
・筋肉の緊張
・睡眠障害(入眠または睡眠維持の困難、または、落ち着かず熟眠感のない睡眠)
D.その不安、心配、または身体症状が、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。
E.その障害は、物質(例:乱用薬物、医薬品)または他の医学的疾患(例:甲状腺機能亢進症)の生理学的作用によるものではない。
F.その障害は他の精神疾患ではうまく説明されない
診断のポイントは、不安症状が目立つ時期が長く続いていないか、大きな苦痛や社会的な機能低下につながっていないかという点と、ほかの精神疾患による不安でないかという点です。
双極症のうつ病エピソードは、うつ症状が強く出る時期ですが、うつ症状のひとつに「不安」があります。
不安が高じて強い焦りやイライラを生むこともあります。
F.の記載を見返すと、双極症の症状として不安が起こっている場合は、不安症とは言えないわけですね。
一方、質問者さんのメッセージには、「気分的には鬱というほどではないような気がする」という記載があります。
気分症状と一致しない強い不安や、比較的軽い不安でも長期に渡って続く時には、「不安症の併存」を考える必要があります。
双極症と不安症の関連ついての2つの報告を見てみましょう。
双極症と不安症の併存についての研究
まず一つ目は、カナダ・ダルハウジー大学の研究で、双極症患者における不安症の生涯有病率を、システマティックレビューとメタ解析にて調査したものです。
・試験40件、1万4,914例の個人データを解析。被験者の所在地は、北米、ヨーロッパ、オーストラリア、南米、アジアなど多様
・双極症患者の不安症の生涯有病率は45%
・双極症患者の不安症の有病リスクは、一般対照と比べて3倍高かった
・双極I型4,270例と双極II型1,939例を比較した分析では、Ⅰ型とⅡ型で不安症の生涯有病率の差はなかった
参考:Pavlova B, et al. Lancet Psychiatry. 2015;2:710-717.
双極症患者さんが不安症を発症するリスクは一般人口の約3倍も高く、双極症患者さんが生涯のうちに不安症を併存する割合は約2人に1人ということです。
いかがでしょう?
かなり大きい数字に感じませんか?
個人的には、Ⅰ型とⅡ型で生涯有病率に差がなかった点は意外でした。
双極症に併存する不安症についての研究
2つ目の研究は、米国・パデュー大学の研究で、双極症に併存した不安症の治療に関するものです。
・双極症に不安症が併存すると、症状の重症度に影響し、自殺念慮のリスクが上がり、心理社会的機能やQOLを落とすリスクあり
・2012年のCANMATの治療ガイドラインでは、不安症の併存における治療薬として、特定の抗けいれん気分安定薬と第2世代抗精神病薬が推奨されている
・セロトニン作動性の抗うつ薬(SSRIなど)は、不安症の第1選択薬となることが多いが、双極症患者では使いづらい
・双極症に抗うつ薬を使うと、躁転や気分の不安定化のリスクがある
・不安症を併発した双極症患者には、他の薬剤を併用する前に、気分安定薬による治療が確立されるべき
・ベンゾジアゼピンは、CANMATタスクフォースの推奨では、第3選択療法とされているが、不安症を併発した双極症患者では避けるべき
・対人関係療法、認知行動療法、リラクゼーション療法は不安に効果あり
参考:Ott CA. Ment Health Clin. 2018;8:256-263.
CANMATはカナダの薬物治療のガイドラインですが、日本うつ病学会の2017年の双極症の治療ガイドラインでも参考にされているものです。
双極症に不安症が併存する場合は、一般的に不安症に使用される、セロトニンに関与するタイプの抗うつ薬は躁転や気分の不安定化のリスクがあるために注意が必要です。
これは、うつ病エピソードで安易に抗うつ薬を使用できないのと同様です。
双極症と不安症の併存ケースでは、第一に双極症の気分の波を安定化させることが不安症の改善にとって大事です。
まとめ
質問者さんが現在うつ病エピソード中でないと想定して、不安症の併存を中心に解説しました。
ほかに可能性として考えられるのは、質問者さん自身が意識しない程度のうつ症状の残存があり、日内変動で朝にだけうつ症状としての不安が出現していることです。
または、就寝中に起こる異型狭心症などの身体疾患が背景にあり、その身体症状を「不安」と認識していないかは確認する必要があります。
朝方だけ起こる不安であれば否定されると思いますが、例えば「甲状腺機能亢進症」でも不安症状を自覚し、患者さん自身も身体疾患ではなく精神疾患を疑うことがあります。
いずれにせよ、以下の場合には主治医に相談しましょう。
・不安の症状が強く苦痛である
・不安の症状は比較的軽度だが長期間持続している
気分の波と無関係に不安症状を感じる場合は、前述した自殺念慮や予後不良のリスクとなり得るので、
「気分は落ち着いているけど強い不安がある。まあこれも双極症の症状かな?」
などと、見過ごさないことが大事です。
以上、「双極症の約半分に”不安症/不安障害”が併存。不安感とうつ症状は関連する?」について解説してみました(‘◇’)ゞ