「双極症(双極性障害)についての100の質問」企画、第63回目です。
今回のテーマは、
「双極症、気分の波は誰にでもある?正常と病気との”境目”の判断は難しい」
です(・∀・)
今回は類似する2つの質問に回答します。
以下、質問者さんからのメッセージです。
Aさん:「双極症と診断されましたが、ほとんど気分のよい状態で、たまにズドーンと気分が落ちる程度です。『このくらいなら病気とは言えないのでは?』と思っています。双極症と、病気ではない気分の波の境界線ってどう区別するのでしょうか?」
Bさん:「友人に双極症のことを打ち明けました。うつ状態の時も軽躁状態の時も会ったことがありますが、『それくらいの波はみんなあるし、働いていていたらそんなのしょっちゅうだよ』と返されました(私は働いていません)。働いていないことの罪悪感や、自分が病気だと理解してもらえないことなどから、今後どのように付き合っていけばいいのかわからなくなりました。理解は無理だと思います。今後の対処を教えてください」
まず、双極症で見られる気分の波は、健康な人、誰にでも見られる気分の波とは違います。
だから「病気」であり、治療が必要なんです。
誰にでもある程度の波であれば、本人も精神科医も気分のコントロールにこんなに苦労しないですよね。
・自分に不備は無かったのに上司に怒られた⇒落ち込んだり、苛立ったりする
・好きな人と楽しい時間を過ごした⇒気分が高揚したり、心地よい気持ちになる
上記のような気分の揺れはもちろん誰にでも見られるもので、何の問題もありません。
気分に関する病気を一括りにして「気分障害」と呼びますが、その気分の傾向は一過性のものではなく、少なくとも数日間は持続し、苦痛や社会的な困難を伴います。
Contents
主な「気分障害」について
まず、気分障害に含まれる代表的な精神疾患を示します。
(※甲状腺疾患など、内科疾患で気分の変動が見られることもあります)
うつ病
⇒ほとんど一日中、ほとんど毎日の、抑うつ気分、興味や喜びの喪失、食事や体重の変化、睡眠の障害、活動性の低下、著しい疲労感、罪責感、集中力の低下、自殺念慮が主な症状です。このような重度のうつ状態が、2週間以上続きます。
反復性うつ病性障害
⇒上記のうつ病エピソードを寛解期を経て繰り返すものです。
気分変調症
⇒うつ病より軽度のうつ病エピソードが2年以上、長く持続します。気分症状は軽度ではあるものの、一年のうちの大半をうつ状態で過ごすため、苦痛や社会的機能の障害の程度は強いです。
双極症Ⅰ型
⇒爽快気分、怒りっぽさ、活動性の亢進、自尊心の肥大、睡眠欲求の減少、注意散漫、目標指向性の行動の増加、浪費など問題となる行動への熱中が主な症状である「躁病エピソード」と「抑うつエピソード」と落ち着いた状態の「寛解期」を繰り返します。
双極症Ⅱ型
Ⅰ型と比べて、上向きの波の程度は軽く「軽躁病エピソード」と「抑うつエピソード」と「寛解期」を繰り返します。うつ状態の程度はうつ病や双極症Ⅰ型と同様のつらさです。
気分循環症
⇒軽躁病エピソードより軽度の上向きの波と、抑うつエピソードより軽度の下向きの波を繰り返します。
抑うつエピソード、軽躁病・躁病エピソードの詳細な診断基準はこちらを参照ください。
参考:双極主王、Ⅰ型とⅡ型の区別・診断はどうやってするの?基準は?
診断基準に該当するか十分に検討され、診断はなされる
上記のような世界標準の診断基準を用いて、その人が「病気」と呼べる状態にあるのかどうか判断します。
最初に書いたような「上司に怒られてその夜は落ち込んでいた」「恋人とのデートでウキウキした」のような正常な気分の動きを「病気」と判断することはあり得ません。
AさんもBさんも、Ⅰ型やⅡ型かは不明ですが、診断基準を満たしたために双極症と診断されたわけです。
しかし、その症状の程度を客観的に測定できる検査はありませんから、明らかな軽躁病・躁病・うつ病エピソードであれば診断の一致率は高いですが、軽躁病エピソードや気分変調症、気分循環症の正常との境界にいるケースでは医師の判断が診断を左右することがあります。
双極症は、以前は本当は双極症なのに正しくそう診断されない「過小診断」が問題となっていましたが、
「うつ病や他の精神疾患の中に双極症が混じっているぞー!気を付けろ!」
と、注意を呼びかけられたために、現在では本当の双極症でないケースを双極症と診断してしまう「過剰診断」も問題となっています。
今まで「うつ病」などと診断されていたケースが正しく「双極症」と診断されるケースももちろん増えており、その点は喜ばしいことですが。
(過小診断は今も引き続き問題です)
軽躁病エピソードを広く取りすぎる、診断基準を厳密には満たさないケースを軽躁病エピソードと判断しているケースが増えているようです。
Aさんの場合、気分の良い状態が「軽躁レベル」なのか「躁レベル」なのか不明ですが、「躁レベル」であれば、「うつ病エピソード」が無くても「双極症Ⅰ型」と診断されます。
Ⅰ型は「躁病エピソード」か「混合エピソード」が一度でもあればそう診断できます。
一方のⅡ型の診断には「軽躁病エピソード」と「うつ病エピソード」のどちらも必要となります。
Aさんの元気な時期が「軽躁レベル」に留まるのなら、「うつ病エピソード」の存在が必須ですから、今までに一度も2週間以上続く、ひどいうつ状態が無かったのであれば、診断を満たしません。
ご自身の経過を振り返ってみてくださいね。
「気分の波は誰にでもあること」と言う友人
BさんはAさんと違い、明確な自覚症状があり、社会生活に障害もきたしているようですが、友人からは
「ストレスがかかれば誰にでも起こる気分の変化」
と認識されています。
Bさんは、軽躁状態、うつ状態のどちらの姿も直接友人に見せたようですが、いくら説明しても友人からは理解を得られないと感じているようです。
まず、先ほどの診断の話でも書きましたが、軽躁状態は誰にでもある「少々気分のいい状態」ではなく、前述のような複数の症状をきたし、周囲から見ても明らかに普段のその人とは「違う」と感じられる状態です。
うつ状態ももちろん同様です。
ただ、うつ状態はいかにも「病気っぽい」様子なのに対し、軽躁状態は普段とは違っているけれど、「よくしゃべって活動的だな」くらいにしか認識されないことも事実です。
友人との関係をどうするか?
答えはBさんの中ではすでに出ているようですが。それはBさんがその友人とどうなりたいかによります。
今、以下の2つのどちらに近い気持ちでしょうか?
「友人の言動に色々嫌な思いをしたけれど、自分もこの病気になるまでは、誰でも楽しいことやつらいことがあったら気分が揺れるだろうって思ってた。友人とは良い時間もたくさん過ごしてきたし、これからも大事にしたい関係。時間はかかるかもしれないけれど、少しずつ理解を求めていこう」
「友人の言動でとても嫌な思いをした。病気について度々説明してきたのに一向に理解してもらえない。今回も治療を続ける気持ちをくじかれた。この友人にはこの件以外にもネガティブなエピソードが多々ある。今後付き合っていっても心地よい関係にはなれないだろう。もう離れよう」
前者なら、まだ双極症についての本や冊子などを見てもらっていないなら、情報を提示し、
「自分自身もそうだったから、すぐには理解してもらえないかもしれない。でも、あなたと今後も良い関係でいたいから、少しずつこの病気について知ってほしい。私もいつもとは言えないけれど、あなたの困っている時には支えたいと思う」
などと、話をするための時間をとってもらって落ち着いて話しましょう。この際、気分症状のある時は避けた方がいいです。
後者なら、言うまでもありませんが、こちらから連絡しないようにすればOKです。それでも出会ってしまう関係の人であれば、当たり障りのない話題に留めて、双極症のことは出さないでおきましょう。
人は自分と違う属性の人への理解は乏しいことを前提とする
上記のように、理解の無い友人から離れることもひとつですが、人はみな変化していくものです。
後者の場合も、その友人が、今後色々な経験をする中で、精神疾患や社会的に少数派の人たちについての理解を深める可能性はあります。
小学生・中学校時代を振り返れば、無知や思慮の浅さ、多様性への不寛容さから、「みんなと少し違う」誰かを、「違い」をろくに知ろうともせずに、傷つける不用意な発言や振る舞いをしてしまったことはありませんか?
私自身も、記憶を辿ると思い当たる過去があります。
誰しも自分と違う属性の人への理解は元々は乏しいものです。
卑近な例で言うと、女性は「だから男は〜」と言い、男性は「女ってやつは〜」などと言うものです。
(すべての人がそうではありませんが)
お互いのことを「知りたい」と思い、相互交流していくことで、お互いへの理解は深まります。
その友人が今後、考えを変えるか、もしくは一生変えないかは分かりませんが、もしいずれ「あの時はそんなにつらい病気だとは知らなくて、傷つけてしまってごめんね」と友人が言ってきたなら、気持ちが頑なになっているかもしれませんが、話を聞く機会を一度は持ってほしいと願います。
以上、「双極症、気分の波は誰にでもある?正常と病気との”境目”の判断は難しい」について解説してみました(‘◇’)ゞ