「双極症(双極性障害)についての100の質問」企画、第66回目です。
今回のテーマは、
「双極症が発達障害の二次障害となる割合は?併存ケースの特徴・治療など」
です(・∀・)
お2人から類似のご質問をいただきました。
以下、質問者さんからのメッセージです。
Aさん:「発達障害からの二次障害としての双極症と、単なる双極症ではどのような違いがあるのでしょうか?症状の違いや、治療法の違い、予後の違いなどを教えてください」
Bさん:「双極症2型でリーマスを服用しておりますが、なかなか安定せずにいます。最近、検査をして発達障害(ADHD・不注意優勢型)の診断を受けました。双極症と発達障害には何か関係するものがあるのでしょうか。ある…みたいなことも聞いたことはありますが。ブログ等で拝読できましたらありがたく存じます」
発達障害は、「発達」という語感から子どもにおいて問題となる障害と思われがちでしたが、今日では一般の方の間でも、子どもだけでなく大人でも問題と障害であることはよく知られています。
学生時代には目立った問題は無く、社会に出た後に、仕事や人間関係での困難が続くことから自ら疑われて受診される方も多いです。
Contents
発達障害とは?
発達障害は、様々な障害を含む幅広い概念です。
主に下記のようなものがあります。
①自閉スペクトラム症(ASD)
「冗談が通じない」「場の空気を読めない」などの社会的コミュニケーションにおける症状と、「同じやり方にこだわる」「いつもと違うルートで混乱する」などのこだわりに関する症状を認める。昔でいう自閉症もアスペルガー症候群もここに含まれる。
②注意欠如・多動症(ADHD)
「忘れ物が多い」「うっかりミスが多い」などの不注意症状と、「じっとしていられない」「待つのが苦手」などの多動性や衝動性に関わる症状を認める。女性や大人では後者が目立たないケースも多い。
③限局性学習症、学習障害(LD)
読み、書き、算数能力の問題。
一部の感染症や遺伝的問題を除いて、発達障害の原因はほとんどのケースで明確ではありません。
また、基本的に「治る」障害ではなく、先天的な能力の偏り、特性です。
特性を持ちながらも過ごしやすくするための方策として、幼少期であれば家族への疾患教育や本人への療育を行ったり、特性に合わせた過ごしやすい環境づくり、コミュニケーションの補助ツールの使用などがあります。
ADHDのように疾患特異的な薬(コンサータ、ストラテラ、インチュニブ)のある場合は使用し、その他は興奮や怒りっぽさがあれば抗精神病薬という薬が少量使われることが多いです。
(コンサータなども特性を「治す」薬ではなく、生活しやすくするための補助薬。インチュニブは小児対象の薬)
双極症と発達障害
精神科の臨床では両者の区別が難しいケースや、両者を併存するケースに出会うことは稀ではありません。
1990年代の研究でもすでに双極症に発達障害が多く併存することは報告されていましたが、両者の疾患概念が時を経て変化していることもあり、具体的な数字の妥当性については今後のさらなる研究が必要です。
過去記事にあるような、発達障害と同様に併存が問題となる不安症やアルコール症については、どちらの病気が先行したのかが論じられることがあります。
一方の発達障害については、「生来のものである」という発達障害の概念からして、元々ASDやADHDなどのベースがあり、そこに双極症を併せ持ったと考えられます。
Bさんは、双極症を発症してから医療機関にかかるようになり、その経過の中で背景にADHDがあったことが発覚しています。
このように、発達障害(もしくは診断基準に満たないがその傾向があること)は二次障害で通院する中で明らかになることが少なくありません。
そこで、
「あぁ、これまでの生きづらさの理由が解けた」
「何か周りのみんなと自分は違っていると感じていたのはこれか」
などと、思い至るわけですね。
まずは双極症と発達障害の併存について、現時点で出ている数字を見ていきましょう
双極症と自閉スペクトラム症(ASD)
これは、オランダのマーストリヒト大学の研究で、オランダの精神科患者のデータを用いて、ASD患者の双極症の発症リスクを評価したものです。ASD患者1万7,234例が対象となり、16〜35歳までフォローアップしています。結果は以下の通りです。
①ASD患者のうち、35歳までに双極症と診断された患者は3.79%、一般集団における双極症の診断率は0.13%
②リスク推定値は、おおむね低値だったが、一般集団と比べると高値
③16歳までにASDと診断された患者に限定すると、25歳までに双極症と診断された患者は0.57%、一般集団における双極症の診断率は0.08%
参考:Schalbroeck R, et al. Psychol Med. 2018 Nov 21.
結果を見ると、ASDを持たないグループと比べて、ASD患者は高率に双極症を発症することが分かります。
また、2004年のStahlbergらの研究では、成人のASDの7%に双極症が併存すると報告しています。
双極症と注意欠如・多動症(ADHD)
次の研究は、トルコのチャナッカレ・オンセキズ・マルト大学のものです。双極症とADHDの併存率と、ADHDが併存することで双極症の症状にどんな影響があるかについて調べています。
2008年8月〜2009年6月の間にゾングルダク・カラエルマス大学の病院を受診し、DSM-IV 分類により双極症と診断され、同意書にサインし、試験を完了した90例が評価対象。
①双極症患者の23.3%にADHDが確認された
②ADHD併存の有無で、双極症患者の社会人口統計学的特性には違いは無かった
③ADHD併存グループでは、併存無しのグループに比べて最低1年間留年している者が多く、その差は統計学的に有意だった
④ADHD併存グループは、併存無しのグループと比べて双極症の発症年齢が有意に低かった。また、躁病エピソードの回数がより多かった
⑤成人期ADHDの併存グループでは、ほかの精神疾患として不安症の併存が最も多くみられた
参考:Karaahmet E et al. Compr Psychiatry. 2013 Jan 7.
双極症の患者さんの約4人に1人がADHDを併存しているとは、かなり多く感じますが、いかがでしょう?
ADHDを併せ持つと、有意に留年が多いことから、その特性により学業などに支障をきたしていることが分かります。
双極症単独でも、学業に支障をきたすことはもちろんありますが、ADHDを併せ持つことがさらなるハンデになると言えます。
質問者のBさんは発症年齢は記載されていませんが、ADHDの併存ケースでは双極症が比較的低年齢で発症するようです。
躁病エピソードの回数が多いのは、後述しますが、ADHD症状が躁症状に類似していることとも関連するかもしれません。
もうひとつ、2006年のKesslerらの18〜44歳を対象とした研究ではADHDの38%に気分障害が併存し、そのうち、うつ病が18.6%、双極症が19.4%、気分変調症が12.8%とされています。また、双極症の21.2%にADHDの併存が見られたと報告されています。
うつ病なども含めた気分障害を併せ持つことが多いことが分かりますね。
ASDも同様ですが、その特性から幼少期〜思春期にかけて自尊感情が育たず、自己評価の低い人格傾向が形成されていることが二次障害としての気分障害につながる側面があります。
双極症、発達障害ともに、診断概念の不確定さ、「併存の状態」が各研究間で一定していないことから、ここに記した具体的な数字は参考までにしてください。
なぜ双極症と発達障害の併存は多いのか?
両者の併存が多いことは分かりましたが、どうして併存が多いのか見ていきましょう。
①両者の診断概念に共通する点があること
とくに双極症の併存が多いADHDについてですが、躁病エピソードとADHDの症状には共通性があります。
・易刺激性(イライラ感、怒りっぽさ)
・多弁(よくしゃべる)
・活力の増大(動き回る)
・注意散漫(不注意)
よって、丁寧に情報を聴取しないと、同じ患者さんを診ても「双極症」「ADHD」「双極症とADHDの併存」など、診断が一定しないことがあります。
どちらか単独なのに「併存」と診断しているために、見かけ上併存が多い可能性があります。
ちなみに、躁病エピソードには見られるけれど、ADHDにはほとんど認めない症状もあり、これらは鑑別(区別すること)に役立ちます。
・高揚気分、爽快気分
・誇大性、誇大妄想
・観念奔逸、考えがどんどん競い合うように湧いてくる
・睡眠欲求の減少、3時間しか寝なくても平気で活動する
その他、以下のことが鑑別のポイントになります。
・ADHDであれば幼少期から同様の傾向がみられること
・双極症はエピソード的に症状が変化するのに対し、ADHDは症状が持続してあること
②両者に共通する病因の存在があること
双極症の遺伝率は60〜85%、ASDは64〜91%、ADHDは70〜86%と、いずれも遺伝的な要因が大きい病気です。
以下のことも報告されています。
・双極症の家族がいるとASDのリスクが高まる
・ASDのきょうだいがいると双極症のリスクが高まる
・ADHD患者の家族に双極症が多い
・双極症患者の親族にASDが多い
共通する遺伝的な要因があると考えられますが、2013年の一塩基多型の研究では発達障害と双極症に有意な相関は認められなかったと報告されており、今後のさらなる研究が待たれます。
③発達障害の存在が双極症の発症を引き起こす要因となること
・心理的ストレス
双極症の発症に心理的ストレスが影響しますが、前述したように、定型発達者に比べると、発達障害がベースにあると環境への適応が難しく、周囲からのネガティブな評価も相まって、ストレスが過大になりやすいです。
・物質依存
ADHDがあるとコカイン、大麻などの物質依存のリスクが高いのですが、それらの物質の使用は双極症の発症要因のひとつです。
・頭部外傷
ADHDがあると外傷のリスクが高まりますが、頭部外傷は双極症の発症要因のひとつです。
このように発達障害がベースにあることが双極症の併発を起こしやすいので、併存も多くなると言えます。
参考:精神科治療学 第32巻12号「大人の発達障害と双極性障害との関係」篠山大明
双極症単独ケースと発達障害の併存ケースでの治療の違い
併存ケースでは、双極症の症状とベースにある発達特性が絡み合った症状や生活上の困りごとが見られます。
一般的な双極症の治療は両者とも同様です。
併存ケースの薬物治療
リチウム、バルプロ酸、ラモトリギンなどの気分安定薬や、アリピプラゾール、オランザピン、クエチアピンなどの抗精神病薬を単独、または組み合わせて使います。
ただ、発達障害の方には薬剤への過敏性が見られることが多く、薬を十分量を使用できないことがあります。まずは少量で試します。
また、ASDで起こりやすい強迫症状については、一般的に使用されるSSRIなどの抗うつ薬は双極症への影響を考慮し、慎重に使用する必要があります。
ADHDには特異的な症状改善薬があるので、ADHD症状が著しい場合には双極症への影響を見ながらそれらを併用することになります。
ASDについてはオキシトシンの点鼻スプレーが開発中ですが、現時点では有効な薬はありません。
併存例の心理社会的治療
いつも書いている通り、双極症についてしっかり学び、日々の体調などを記録し、生活リズムを整え、ストレスを軽減することなど、心理社会的治療は同様に大事です。
環境調整
併存ケースで難しいのは、発達特性のためにストレスを上手にコントロールできないこと、生活リズムが乱れやすいこと、学校や職場、さらには家庭でも、本人に対する配慮を得られにくい点があります。
特性は基本的には変えられないものなので、本人のストレスを軽減するように周囲が環境への配慮をすることが大事です。
ただ、大人の場合は子どもに比べて、そういった配慮を主治医が呼びかけても会社や家族に十分配慮してもらえないことがあり、現状難しい点です。
まとめ
発達障害がベースにあると、双極症に限らず、様々な精神疾患を併存しやすいことが知られています。
定型発達者と比べて、注意や工夫が必要な点はプラスαとなりますが、双極症単独にしろ、併存にしろ、現状の問題点をひとつひとつクリアしていくことが大事です。
以上、「双極症が発達障害の二次障害となる割合は?併存ケースの特徴・治療など」について解説してみました(‘◇’)ゞ