「双極症(双極性障害)についての100の質問」企画、第69回目です。
今回のテーマは、
「双極症、混合状態がとてもつらい。混合状態の特徴と気をつけるべきポイント」
です(・∀・)
以下、質問者さんからのメッセージです。
「双極症です。『混合状態』が分かりません。大体のサイトでは『うつ→躁、躁→うつの移行のときに起こりうる』みたいな説明ですが、混合状態がメインで5年以上続くようなことはないのでしょうか?
また、混合状態のときはどうすべきなのでしょうか?無理をしたら動こうと思えば動けてしまえる分、気持ちが定まらずに上下して調子が良いようで悪いような分、調子が良いと思った次の日には起きるのも辛くて死にたくて、でも無理すれば大体のことは出来るから、自分では怠けているようにしか思えなくて、心情的にはどっちかに振りきれちゃっているときよりも辛い気がします」
混合状態を体験した方からは、質問者さんと同様に「躁やうつの単独よりもつらい」という感想を聞きます。
今回は「混合状態」をテーマに解説します。
Contents
「混合状態」とはどんな状態なのか?
混合状態は、躁症状とうつ症状が同時に存在する状態像です。
精神活動の3つの要素「気分」「思考」「意欲」のそれぞれに「減弱」と「興奮」の2極を想定すると、その組み合わせは2の3乗で8通りとなります。
3つの要素がすべて「減弱」であれば「うつ状態」、すべて「興奮」であれば「軽躁・躁状態」となります。
しかし、3つの要素は必ずどちらかの極に存在するわけではなく、1つの要素が他の2つの要素の対極に位置する時に「混合状態」となります。
先ほどの8通りのうち、6通りが「混合状態」となるわけです。
例えば、「気分」は「減弱(うつ)」、「思考」「意欲」は「興奮(躁)」のケースなどですね。
このケースでは、躁状態の時のように次々に考えがわいてきます。意欲も高く、活動的でじっとしていられない状態です。
ただ、気分は「減弱(うつ)」の極に位置していますから、どんどんわいてくる考えはネガティブな内容が占めます。
焦燥感が強く、場合によっては、自殺念慮から実際に行動してしまうリスクも高い状態です。
意欲も「減弱(うつ)」であれば、行動するエネルギーがありませんから、うつ状態の時より、こういった混合状態の方が自殺リスクが高いのでは、と言われています。
どんな時に「混合状態」になりやすいのか?
質問者さんが書かれている通り、「躁状態からうつ状態へ変わる時」、もしくは「うつ状態から躁状態へ変わる時」などに出やすい状態です。
うつ病エピソード中に使用した抗うつ薬がきっかけとなって、混合状態が起こることもあります。
2016年の杏林大学の研究では、双極症患者さんが最初に医療機関を受診した時の状態の割合を調べています。
・うつ症状が70%
・混合状態が15%
・躁状態は4%
参考:Watanabe K, et al. Neuropsychiatr Dis Treat. 2016;12:2981-2987.
上記のような結果で、意外に混合状態で初めて受診するケースが多いんだな、という印象でした。
「混合状態」が5年も続くことはある?
質問者さんは5年という長期間にわたり混合状態にあると感じているようです。
双極症を発症してからの罹病期間中の「軽躁・躁状態」「うつ状態」「混合状態」「寛解期」の占める割合をⅠ型、Ⅱ型別に見てみましょう。
双極Ⅰ型
躁・軽躁状態・・・9.3%
うつ状態 ・・・31.9%
混合状態 ・・・5.9%
寛解期 ・・・52.9%
参考:Arch Gen Psychiatry 59: p.530-7,2002
双極Ⅱ型
軽躁状態 ・・・1.3%
うつ状態 ・・・50.3%
混合状態 ・・・2.3%
寛解期 ・・・46.1%
参考:Arch Gen Psychiatry 60: p.261-9,2003
Ⅰ型では全期間の6%弱、Ⅱ型では2%強を占める割合ですね。
発症から30年経ったとして、Ⅰ型で1.8年、Ⅱ型で0.6年ほどが混合状態を示す時期となります。
また、ひとつの躁病エピソードは1〜4カ月ほど、うつ病エピソードは約3カ月〜半年ほど続くのが一般的で、エピソードとエピソードの間には寛解期があります。
よって、混合状態が丸5年も持続していることは考えにくいかと思います。
「混合状態」の診断について
DSM-5の診断基準では、躁病・軽躁病エピソード、またはうつ病エピソードに「混合型」の特定子というものを付記します。
躁病・軽躁病エピソードにおける混合型の症状
A.躁病・軽躁病エピソードの基準を満たす期間、以下の抑うつ症状のうち少なくとも3つが毎日の大半の時間にわたって存在している。
1.顕著な不快気分または抑うつ気分
2.興味と喜びの減少
3.ほぼ毎日の精神運動抑制
4.疲労あるいは気力の減退
5.無価値感あるいは罪責感
6.死についての反復思考、自殺念慮、自殺企図
B.混合症状は他者により気づかれ、普段の行動とは異質なものである。
C.躁とうつの両者の基準を満たす場合、診断は混合性の特徴を持つ躁病エピソードとする。
D.物質乱用・薬物療法・他の治療の影響によるものを除外する。
うつ病エピソードにおける混合型の症状
A.うつ病エピソードの基準を満たす期間、以下の躁病・軽躁病症状のうち少なくとも3つが毎日の大半の時間にわたって存在している。
1.高揚した開放的な気分
2.自尊心の肥大または誇大妄想
3.多弁または喋り続けようとする衝動・気分
4.観念奔逸
5.目標指向性の活動の増加
6.まずい結果になる可能性が高い活動への熱中
7.睡眠欲求の減少(睡眠障害と区別すること)
B.混合症状は他者により気づかれ、普段の行動とは異質なものである。
C.躁病または軽躁病エピソードの基準を満たす場合、診断は双極性Ⅰ型障害または双極性Ⅱ型障害とする。
D.物質乱用・薬物療法・他の治療の影響によるものを除外する。
質問者さんは、ベースがうつ病エピソードで「無理をしたら動ける」と表現されています。
上記の1〜7の診断基準の3つを満たすことはない印象です。
うつ状態ではあるが、寝たきりレベルではなく、無理して何とか活動できる状態かと推測します。現状のエネルギーでできる活動を超えて無理されているので、翌日はかなりつらくなると感じます。
診断基準では気分エピソードの期間中、毎日ほとんどの時間に混合症状を認めることになっていますから、日ごとに変わる状態は含まれません。
ただ、実際の診療では、ベースがうつ状態で、しゃべり過ぎている、そわそわ落ち着かない、焦燥感が強い、イライラ感が強いなどの症状を認めれば「混合状態」と判断していることが多いと思われます。
質問者さんの状況の詳細は分かりませんが、「○○しなければ」と焦る気持ちが非常に強く、動かずにはいられないといった要素があったのなら混合状態だったかもしれません。
混合症状に関する研究
躁病エピソード中に混合症状を認めるケースと、純粋な躁病エピソードのケースではどういった違いがあるのかを調べたバルセロナ大学の研究を紹介します。
・躁病エピソード中の成人患者169例が対象
・患者の計27%(46/169例)に混合症状を認めた
・混合症状を伴う躁病患者では、過去の気分エピソードの回数が多く、うつ病エピソードと混合エピソードがより多くみられた
・うつ病エピソードでの発症、自殺念慮、急速交代型、パーソナリティ障害も、混合症状を持つ躁病患者で有意に多かった
・躁病エピソードのみの患者では、入院歴、躁状態での発症、双極症の家族歴、気分と一致する精神病性の症状(幻覚・妄想など)、大麻の使用が有意に多かった
・試験終了時点での症状の回復に差は認められなかった
・試験終了時に、混合症状を伴う患者では純粋な躁病患者より、心理社会的障害を生じる傾向が顕著だった
Reinares M, et al. Aust N Z J Psychiatry. 2015;49:540-549. Epub 2015
躁病エピソードの患者さんの4人に1人以上の割合で混合症状が認められています。
混合状態を呈する躁病患者さんは、エピソード回数が多く、自殺念慮をもつリスク・急速交代型となるリスク・心理社会的な障害を起こすリスクが高いなど、予後にも影響するため、躁病エピソードのケースではうつ症状が混在していないか確認することが大事です。
もうひとつ、混合状態での薬物治療についての研究を紹介します。
ニューカッスル大学の研究で、成人の双極症での混合状態の急性期および長期治療について検討しています。
・混合状態における躁症状に対しては、いくつかの非定型抗精神病薬で効果が確認されており、その中でのオランザピンが最も効果が高い
・混合状態におけるうつ症状に対しては、通常治療にziprasidone(本邦未発売)を追加することが有効だが、躁症状に対しての治療よりもエビデンスは弱い
・オランザピン、クエチアピンに加え、バルプロ酸、リチウムも再発予防のために有用と思われる
Grunze H, et al. World J Biol Psychiatry. 2017 Nov 3.
現時点では、混合状態に特異的な薬物治療はありません。
リチウムが効かないことがあり、その場合はバルプロ酸が有効とされています。
抗うつ薬を使用している場合は中止します。
上記の研究にあるように、気分安定薬に加えて非定型抗精神病薬を使用することが多いです。
最後に「混合状態」と「自殺企図」についての研究を紹介します。
National Institute of Health and Welfareの研究で、双極症のさまざまなフェーズにおける自殺企図の発生について調査したものです。
・5年間のフォローアップ期間中に、718人の患者で90件の自殺企図が発生
・自殺企図の発生率は、混合状態では通常気分状態の120倍以上。うつ病エピソード中では、通常気分状態の約60倍
参考:Pallaskorpi S, et al. Bipolar Disord. 2017 Feb 8.
自殺企図は、混合状態とうつ病エピソード中に多く、混合状態ではより起こりやすいようです。
繰り返しになりますが、うつ病エピソード中、躁病エピソード中に混合症状が見られないかを確認することは重要と言えます。
まとめ
うつ状態をベースとした混合状態では、
「こんなにつらいなら死んでしまいたい」
「もうここで終わらせた方がラクだ」
などという悲観的な思考、投げやりな思考とともに、意欲的で行動化しやすい躁症状が混じるために、その時の感情にまかせた行動をしてしまう(自殺企図)危険性が高まります。
このような緊急性を認めるときは、
・ただちに医療機関を受診すること
・家族などの見守りの強化
・自殺リスクが軽減するまでの入院加療
が必要となります。
医師も気を付けて見ていますが、患者さん側も混合状態の出現が無いかどうか、意識しておいてほしいと思います。
以上、「双極症、混合状態がとてもつらい。混合状態の特徴と気をつけるべきポイント」について解説してみました(‘◇’)ゞ