「双極症(双極性障害)についての100の質問」企画、第75回目です。
今回のテーマは、
「双極症の病前性格って何?実は世界的には…。日本での最近の動向も説明。」
です(・∀・)
以下、質問者さんからのメッセージです。
「私は56歳で、主人と3人の子どもがいます。21歳の時に診断され、色々なことがありました。7年前あたりから自分の病気と真剣に向き合い、病状をコントロールできるようになり寛解と主治医より言われました。質問ですが、双極症になりやすい性格はありますか?
・喜怒哀楽がはっきりしている。
・明朗活発、人の役に立つことが好き
・世話好き
・他人の評価が気になる
・一生懸命、頑張り屋
・猪突猛進
・熱しやすく冷めやすい
・凝り性
私の性格です。なるべくしてなった、プラス思春期のつらい経験がきっかけになったのでは…と思っています」
質問者さんは発症してから長くなるようですが、最近は落ち着いて過ごされているようで何よりです。
双極症の発症に自身の「性格」が影響したのでは?と考えられているようですね。
「病前性格」という言葉を聞いたことがある方は多いのではないでしょうか?
過去には、精神疾患とその発症前の性格の関連についての研究が活発な時期があり、
「○○な性格の人は、△△という病気になりやすい」
などと言われ、また、治療内容にも病前性格が反映されていました。
私が医学部時代に精神医学を学んだときも「病前性格」の話はありましたし、医師になってから、問診のときに「元々どのような性格ですか?」と聞くことも一般的なことでした。
元々の性格傾向の情報を得ることは、その人を知る上で重要なことなので、今でも初診時に問われることはあると思いますし、治療の過程で話題になることもあります。
患者さん側が「病前性格」の話をご存知で、「○○な性格なのですが、それが原因でこの病気になったのでしょうか?」と問われることもありますね。
Contents
「病前性格」ってどんなものがあるの?
主な病前性格には以下のようなものがあります。
・循環気質(クレッチマーによる)
社交的、善良、親切、温厚、ユーモアに富む性格
・執着性格(下田による)
凝り性、几帳面、責任感が強い性格
・メランコリー型性格(テレンバッハによる)
他人に気をつかい、頼まれると嫌といえない。真面目、正直な性格
などが有名です。
双極症は、循環気質と関連すると言われ、執着気質やメランコリー型性格は、単極性のうつ病に関連すると言われていました。
海外での「病前性格」の評価
日本では、真面目で几帳面な人がうつ病になりやすいと言われ、その説明が一般の方にも広く受け入れられ、今に至っています。
ネットで「病前性格」で検索すると、医療機関のサイトから公的なサイトにまで「病前性格」について書かれています。
一方、世界に目を向けると、イギリスやアメリカでは、そもそも「病前性格」という概念が希薄なようです。
もちろん、病前性格に関する研究もされていません。
日本でも見直されてきている
実は、日本の精神医学の教科書にも「世界的には認められていない」旨が記載されているんですよね。
日本でも、病前性格の概念については議論されており、最近では、あまり注目されなくなってきています。
「病前性格」を知る意義とは?
病前性格を知る意義としては、
・病前性格と精神疾患が関連するなら、診断に役立つ
・病前性格と精神疾患が関連するなら、若年のうちに将来の発症予測ができる
・病前性格が病気の経過や治療に影響するなら、予後の予測や治療の選択に役立つ
などがあります。
※病前性格と病気が本当に関連するならです。
なぜ日本でも「病前性格」が落ち目なのか?
日本では定着していた病前性格が落ち目になっているのは、以下のような理由からです。
診断方法の変化
現在、DSMやICDという診断基準が世界共通となっています。
これらは「操作的診断」と言われ、例えば双極症の診断では、診断に際して発症の機序や発病の状況などは問われず、診断基準の項目を決められた数や期間満たしているかどうかで診断されます。
参考:双極症、Ⅰ型とⅡ型の区別・診断はどうやってするの?基準は?
よって、病前性格を吟味するステップを踏まなくても診断されるわけで、これが病前性格を重視しない傾向に影響しています。
病前性格と病気が合致しない
比較的新しい研究では、双極症でない対照群に比べて、双極症の人たちが、前述した典型と言われる病前性格を示すわけでないとされています。
元々の性格か?病気の影響を受けた性格変化か?
「病前性格」と呼ばれる性格傾向が、すでに病気の予兆であった可能性を否定できないことも影響しています。
診断基準を満たさないレベルでの病気の症状が、「病前性格」を形作っていることが考えられるわけです。
性格ではなく、発達特性では?
執着気質やメランコリー型性格の、几帳面、正義感の強さ、ごまかしのできなさ、秩序志向などは、自閉スペクトラム症で見られる特性と似ています。
発達特性がベースにあると、二次障害として気分障害を合併しやすいため、これも「病前性格」として論じることに懐疑的になる理由となっています。
振り返ってみてもわからないケースは多い
双極症の方はよく、いつから発症していたのか、過去を振り返っても明確にならないことがありますが、性格も同様だと思います。
高校生くらいをイメージして「元々の性格」と認識している場合、その時すでに病気の影響を受けていなかったか、考えてみると明確に答えられる人の方が少ないのではないでしょうか?
病前性格を考える意義
前述したように、病前性格と病気の発症や経過に因果関係があれば、病前性格を考慮する意味はありますが、最近の知見からはあまり重視する必要は無さそうです。
また、
「性格も一因となって双極症が発症したのか?」
と考えることは、罪悪感、自責感につながりかねません。
双極症の家族に発揚気質の人が多いとの報告もあり、遺伝的な素因が性格が影響し、それが発症に影響する可能性も無いとは言い切れませんが、
「病前性格って言われてるけど、あんま関係ないみたいだな」
くらいに認識してもらえると良いかと思います。
以上、「双極症の病前性格って何?実は世界的には…。日本での最近の動向も説明」について解説してみました(‘◇’)ゞ