「双極症(双極性障害)についての100の質問」企画、第76回目です。
今回のテーマは、
「私は双極症ではないかと疑う人へ+月経前不快気分障害と双極症の関連」
です(・∀・)
以下、質問者さんからのメッセージです。
「現在、産後の不安症状から6年ほど通院しています。産後の不安症状の10年ほど前には職場でのパワハラでうつ病になりました。実父や父方の叔母にもうつ症状がありました。不安症状が主ですが、さくら先生の記事を見て、『双極症の症状もある?』と気になりました。生理前のイライラもすごく、普段は気にならないこともとても気になり、外では我慢していますが、少しのきっかけで爆発してしまい、家族にも迷惑かけていると思います。今月、生理が終わってもイライラが収まらず、「やはり双極症なのかな?』と感じています。よろしくお願い致します。」
記事を見ていただき、双極症を疑うきっかけになったのなら幸いです。
これまでにも書いている通り、双極症はASDやADHDなどの神経発達症と同様に、過小診断も過剰診断も問題となっています。
ネットで情報を得て、「私もそうかも?」と感じることもまた、患者さん自身の中でその疾患を過小にも過大にも捉えるリスクがあると感じます。
質問者さんも、ここで解説することですべてが明らかになる、診断が明確になるものではないことをご理解いただき、受診時に主治医に相談されることをお願いします。
※ネットでの自己チェック式の検査は、それでもって確定診断は不可能で、あくまでの診断の補助として利用するものであることも理解が広まると嬉しいです。
Contents
私は双極症かも?と思う根拠とその説明
質問者さんは過去にうつ病エピソードがあり、家族にもうつ病のエピソードがあるようです。
また、不安症状がメインであるものの、月経前にはイライラなどの気分症状を認めているようです。
元々うつ病と診断されていた人が経過の中で軽躁・躁症状を呈して双極症と診断が変わることがあります。
また、不安症は双極症と併存する率の高い精神疾患です。
よって、質問者さんの病状の背景に双極症が潜んでいないか、当然ながら考慮する必要があります。
さて、質問者さんのように明らかな軽躁病・躁病エピソードを過去に認めず、うつ病エピソードのみの方に双極症を疑うサインとなることはどんなことでしょうか?
(※詳細に問診すると、質問者さんが過去に軽躁病エピソードがあったと判明すること可能性はあります)
以下の特徴のうち、5個以上が存在した場合、そのうつ病エピソードは双極症Ⅰ型のうつ病エピソードの可能性が高いと言われています。
・過眠または/かつ日中の居眠りの増加
・過食または/かつ体重増加
・過眠、過食以外の非定型症状(鉛寛様麻痺など)
・精神運動制止
・幻聴などの精神病性の特徴または/かつ病的罪悪感
・気分の変動性/躁症状
・最初のうつ病エピソードの発症が25歳未満
・過去に5回以上のうつ病エピソードがある
・双極症の家族歴がある
※鉛管様麻痺とは、体が鉛のように重たく感じて動けない症状です。
※上記を5つ以上満たしても双極症とは診断されないケースもあり、参考情報としてください。
限られた情報からの判断ですが、少なくとも質問者さんの場合は、うつ病エピソードは1回で、家族に双極症の人はおらず、積極的に双極症を疑う特徴は無いように感じます。
(詳細に聞き取りをすれば、その他の項目に多く当てはまる可能性はありますが)
Ⅰ型、Ⅱ型それぞれのうつ病エピソードでの特徴
Ⅰ型とⅡ型で、うつ病エピソード中に見られる症状や、経過や疫学上の傾向があるので、それらも示します。
Ⅰ型のうつ病エピソードなどの特徴
幻聴などの精神病性の症状、焦燥感がよく見られ、うつ状態の重症度が高く、入院が多い、うつ病エピソードの持続期間が長いなどの傾向があります。
Ⅱ型のうつ病エピソードの特徴など
自殺や自殺企図、不安、月経前不快気分、アルコール乱用(女性のみ)、非定型的なうつ症状(過眠、過食など)、病気にかかってからの期間をうつ状態で過ごす割合が多い、気分エピソードの回数が多い、ラピッドサイクラーが多い、女性が多いなどの傾向があります。
一見、質問者さんは、Ⅱ型の「不安」「月経前不快気分」「女性」などの項目に合致しているようですが、これらは「うつ病エピソード中で見られる特徴」なので、質問者さんがメッセージにある通り、うつ病エピソードの診断を満たすことがずいぶん前に一度きりであれば、切り分けて考える必要があります。
月経前不快気分障害とは?
さて、ここで質問者さんが「軽躁・躁状態」と疑っているであろう、月経前に起こるイライラや感情の爆発について考察します。
「月経前不快気分」は先ほどのⅡ型で見られる症状としても登場しましたが、一般の方にも有名なのは「月経前症候群(PMS)」でしょう。
PMSとは?
・月経の7〜10日前より精神的、身体的に不快な症状が出現するもの
・身体症状としては、乳房の張り、体のむくみ、頭痛、眠気、だるさなど
・精神症状としては、イライラ、不安など。
・月経が始まるとこれらの症状は消失する
月経前のホルモン変化から、不快な身体症状やイライラや感情の不安定さなどの精神症状を認めますが、精神症状の日常生活への影響は比較的軽度です。
また、PMSは精神疾患ではありません。
一方、PMSよりより精神症状が顕著に出て、精神症状により日常生活や社会生活に支障が及ぶものを「月経前不快気分障害(PMDD)」と呼びます。
PMDDとは?
・過去1年のほとんどの月経周期において、月経前7〜10日より、抑うつ気分、不安、易怒性、感情の不安定さなどの精神症状が顕著に現れている
・月経開始後、数日のうちに寛解する
・これらの症状は日常の活動を著しく障害するほど重症
・月経後少なくとも1週間は完全に消失している期間がある
PMSと異なりPMDDは、DSMという診断マニュアルではうつ病と同じグループに入れられている「精神疾患」です。
質問者さんは、どれくらいこの状態が続いているのかは不明ですが、月経周期に一致した精神症状を認めており、また、その症状は家族との関係に影響するほどのものであることから、PMDDを考慮する必要があります。
PMDDのイライラ、怒りっぽさは激しく、暴力を伴うことすらあります。
気になる点は、「月経が始まっても、精神症状が持続している」という点です。
これは前述のPMDDの特徴に合致しません。
また、軽躁病・躁病エピソードはイライラ、感情の不安定さのみでは診断基準を満たしませんが、ほかの診断項目について調べる必要はあるでしょう。
参考:双極症、Ⅰ型とⅡ型の区別・診断はどうやってするの?基準は?
PMDDは双極症と間違われやすい
PMDDは、月経について詳細に問診せず、また患者さんも月経との関連を疑わずにいる場合、
「周期的にイライラしたり感情不安定になる時期がある」
「その症状は一定期間持続する」
「何もない時は落ち着いている」
などの特徴から、双極症と誤診される可能性があります。
もちろん、詳細に問診すればうつ病エピソード、軽躁病エピソード、いずれの診断基準も満たさないことは明らかになります。
逆に、PMDDと診断され治療を受けている中で、抗うつ薬を処方され、躁転して双極症が明らかになるケースもあります。
PMDDを疑った場合、家族に双極症の人がいないか、過去にうつ病エピソードがないか、それは若年発症ではないかなどの点に注意する必要があります。
PMDDと双極症Ⅱ型は併存しやすい
両者が誤診される可能性のある一方で、PMDDと双極症、とくにⅡ型を併せ持つことが多いことも指摘されています。
PMDDの診断基準を満たす女性では、双極症Ⅱ型の併存率が高いとの報告があります。
併存ケースでは、気分エピソード中にPMDDが重なると大変つらい状態となります。
まとめ
双極症に限らず、「私ってもしかして〇〇病?」と疑った際は、早期に主治医に相談しましょう。
(未受診の方は受診しましょう)
それが否定されれば安心が得られますし、やはりそうであろうと診断されれば適切な治療を早くから受けることができます。
質問者さんもそうですが、ネット上のやりとりでは十分な情報を得ることは困難ですし、診察無しに診断することは医師法で禁じられています。
後半に書いたようなポイントを診察の場でしっかり話してほしいと思います。
以上、「私は双極症ではないかと疑う人へ+月経前不快気分障害と双極症の関連」について解説してみました(‘◇’)ゞ
参考:「月経前不快気分障害(PMDD)と診断しそ の 治療中に双極II型障害が顕在化した2症例」女性心身医学 JJpSocPsychosomObstet Gynecol Vol. 17, Nα3, pp. 311−317,
参考:「双極性障害」加藤忠文(著)