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双極症「ラピッドサイクラー」で日内での気分交代はある?向き合い方のヒント。

2019/07/14
双極症(双極性障害)100の質問
精神科医・さくら(@sakura_tnh)です。自身の知識と経験を活かし、人をワンランク上の健康レベルに底上げ=幸せにすることを目指しています。

「双極症(双極性障害)についての100の質問」企画、第77回目です。

今回のテーマは、

「双極症、ラピッドサイクラーで日内での気分交代はある?ラピッドサイクラーの病気との向き合い方のヒント」

です(・∀・)

以下、お二人の質問者さんからのメッセージです。

「私はラピッドサイクラーです。気分の上下が激しく丁度いい状態が分かりません。どの状態を保てばいいのか?またその方法などありましたら教えてください。」

「日内変動が激しいです。朝はうつ、夜は軽躁のような感じです。これってラピッドサイクラーなのでしょうか?」

ラピッドサイクラーとは「急速交代型」のことで、年に4回以上の気分エピソードを認める双極症の下位タイプです。

Ⅰ型・Ⅱ型のどちらもに見られるタイプで、研究によって幅がありますが、おおよそ10人に1人の割合で見られます。

年に4回以上の気分エピソードとは?

ラピッドサイクラーの1年のモデルを考えてみましょう。

1年に4回以上の気分エピソードがあるとの定義ですが、これはうつ病エピソード、軽躁病・躁病エピソードを問いません。

また、気分エピソードと気分エピソードの間に寛解期を経るかどうかも問いません。

<例1>
1〜3月:うつ病エピソード
4月:寛解状態
5〜7月:うつ病エピソード
8月:寛解状態
9月:躁病エピソード
10〜11月:うつ病エピソード
12月:寛解状態

⇒エピソード数4

<例2>
1〜2月:寛解状態
3月:軽躁病エピソード
4〜5月:寛解状態
6月:うつ病エピソード
7〜8月:寛解状態
9月:軽躁病エピソード
10〜11月:寛解状態
12月:うつ病エピソード

⇒エピソード数4

<例3>
1月:軽躁病エピソード
2〜3月:うつ病エピソード
4月:軽躁病エピソード
5〜6月:うつ病エピソード
7月:軽躁病エピソード
8〜9月:うつ病エピソード
10月:軽躁病エピソード
11〜12月:うつ病エピソード

⇒エピソード数8

<例4>
1月:寛解状態
2〜3月:うつ病エピソード
4月:寛解状態
5〜6月:うつ病エピソード
7月:寛解状態
8〜9月:うつ病エピソード
10月:寛解状態
11〜12月:うつ病エピソード

⇒エピソード数4

色んなパターンを挙げてみましたが、エピソードの持続期間や気分エピソードの種類によりもっと多くのパターンが考えられます。

例4では、うつ病エピソードばかり出現しているモデルですが、過去に一度でも軽躁病・躁病エピソードがあれば双極症と診断され、その後の気分エピソードがうつ病エピソードばかり続くというケースもあり得ます。

気分エピソードはそれぞれ診断基準を満たす必要がある

この気分エピソードは下記の記事にあるような診断基準を満たす必要があります。

参考:双極症、Ⅰ型とⅡ型の区別・診断はどうやってするの?基準は?

うつ病エピソードなら2週間軽躁病エピソードなら4日間躁病エピソードなら7日間、診断基準を満たす状態が持続していることがポイントです。

質問者Bさんは、「朝はうつ、夜は軽躁」と、一日のうちでの気分変動「ラピッドサイクラーではないか」と考えているようですが、診断基準からすると、半日程度しか続かない気分を「気分エピソード」とは呼びません

ただ、治療経過とともに、ひとつひとつの気分エピソードの期間が短縮化して、最終的に半日ごとの交代を認めているのなら、医師の判断によりますが「ラピッドサイクラー」とされることもあるかもしれません。

余談になりますが、ウルトララピッドサイクラー(超急速交代型)という概念があり、これは数日おきに気分が交代してしまうものですが、非常に稀なケースです。

一般的には、診断基準を満たさない日数しか持続しない気分を双極症のエピソードとしてカウントはしません。

途中に寛解期をはさまずに躁転、うつ転を繰り返すラピッドサイクラーの場合は、例3のように気分が落ち着いた状態をほぼ認めない場合もあり、このようなケースは治療が難航することが多いです。

元々のケースと途中からラピッドサイクラーになったケース

ラピッドサイクラーは、

・発症時より年に4回以上、気分エピソードを認めていた人

と、

・治療経過の中でラピッドサイクラー化してきた人

がいます。

元々ラピッドサイクルだった人はラピッドサイクラー全体の2割ほど、途中からラピッドサイクラー化した人は全体の8割ほどと言われています。

質問者Bさんの場合、初回からメッセージにあるような状態であれば、前述の診断基準を満たしませんから、双極症の診断がついていない可能性があります。

おそらく途中からラピッドサイクル化してきたのでしょう。

ラピッドサイクラーの概念が過剰診断と関連

過去記事に、双極症が過剰診断されている問題について書きました。

参考:双極症「気分の波は誰にでもある?」正常と病気との「境目」の判断は難しい。

余談になりますが、小児の双極症について少し記載しておきます。

小学生くらいの小児の双極症は大変珍しく、もちろん私は出会ったことがありません。

Gellerらの報告を以下にまとめます。

・平均11.0歳の児童期・前青年期双極性障害児60 名を調査

・平均8.1 歳で発症

・50 名(83.3%)が急速交代型、超急速交代型、日内交代型であり、そのほとんど(45名)を占める日内交代型では、年間の病相回数は平均1,440回で、1日平均4回の病相がみられた

読者の方はどう感じられるでしょうか?

ほとんどが日内交代型、つまり数時間単位で気分が交代するケースだったようです。

アメリカでは、小児の双極症の診断が20年間で40倍に増加したのですが、そのほとんどは前述の診断基準を満たさない、非典型例で、ささいなことでかんしゃくを起こすような子どもだったようです。
(独自の診断基準で診断されていたようです)

双極症のうつや躁が始まって終わるまでの一通りの期間を「気分エピソード」と呼びますが、双極症ではこのエピソード性が大事で、子どもが一日のうちにかんしゃくを起こしたり、ケロっと楽しく遊んでいたり、ささいなことでまた泣きわめいたり、そういったことはエピソード的でなく、正常の子どもにも見られる反応です。

診断マニュアルのDSMが現在のものに改訂されるときに、小児の双極症の過剰診断を避けるべく、抑うつ気分が背景にあり、正常な子どもでも見られる反応が病的になったケースを「重篤気分調節症」という、うつ病と同じグループの病気とすることになりました。

逆に言えば、小児でも大人と同様の診断基準を満たせば双極症と診断されることになりました。

話がずれましたが、質問者Bさんの仰るような一日のうちに気分が交代するケースは双極症として典型でないと言えます。

うつ病エピソードでは「日内変動」はある

うつ病エピソード中には日内変動が見られることがあります。

参考:うつ病でみられる「日内変動」。躁病エピソードの時も日内変動はあるの?

これは、朝のうちは気分が落ちこみ、体もだるく、とてもつらいのが、昼を過ぎ、夕方になるにつれて、心身ともにラクになるものです。

日内変動はすべての人に見られるわけではなく、朝少しラクなのに夕方以降つらい非典型的なパターンの人もおられます。

質問者Bさんの仰ることが「朝はうつ、夜は通常気分」ということであれば、この「日内変動」で説明できる現象かと思います。

明らかに、夜の状態が軽躁病エピソードの診断基準を期間以外は満たすという場合は、前述の通り、経過の中でそうなったのであれば、ラピッドサイクラーのより重篤な形と見ることができるかもしれません。

ラピッドサイクラーを改善するためのヒント

質問者Aさんがお困りのように、速いサイクルで病相が変わってしまうと、どのレベルが通常気分なのか、どの状態を維持することを目標にするのか、大変難しい問題です。

Aさん、Bさんともですが、まずは、ラピッドサイクラー化に影響する薬剤の調整をすることが大事です。

薬剤の変更だけで病相のサイクルが長期になることが報告されています。

科学的エビデンスのある薬物治療の詳細、また、ラピッドサイクラーの方もそうでない方と同様に日常生活の配慮などが必要であることは以前の記事に書いた通りです。参考にしてください。

参考:双極症、ラピッドサイクラー(急速交代型)は治る?治療法はあるの?

心理的ストレスもラピッドサイクラー化に影響するとされており、日常で慢性的なストレスになっていることがないか、チェックが必要です。

とくに対家族などの対人関係でストレスを抱えている場合は、そこに切り込むことで、ラピッドサイクラーの症状改善につながる可能性があります。

ラピッドサイクラーの方の心がまえのヒント

ラピッドサイクラーの場合は、「これくらいの気分レベルで安定しよう」と目指しても、その病態から目標が叶わないことが多いでしょう。

ラピッドサイクラー化により悩んでいる方には、下記のようなことを意識してほしいとおもいます。

・通常気分の期間が少しでも長くなることを目指す

・軽躁、躁状態、うつ状態のいずれも、ピークに至らないことを目指す

・アップダウンを完全になくすことを目指さない

・アップダウンが続く中でもできること、楽しめることを気分ごとに用意しておく

・経過とともに改善する可能性を念頭に、絶望しないこと

いずれも難しいことと思いますが、病気になってしまったことは仕方のないこと、ラピッドサイクラー化してしまったのも仕方のないことであり、

「今、病気に対して、ささやかでもできること」

「今、病気と関係なしに楽しめること、興味関心のあること」

この2つを大事にしてほしいと思います。

※ラピッドサイクラー化のリスクがあると知りながら、漫然と三環系抗うつ薬を使う精神科医は現在ではいないと信じたいですが、現時点で双極症の診断をされながらも使用されている方は、自衛のためにも主治医に申し出てほしいと思います。

以上、「双極症、ラピッドサイクラーで日内での気分交代はある?ラピッドサイクラーの病気との向き合い方のヒント」について解説してみました(‘◇’)ゞ

参考:Mitchell RH, et al. J Child Adolesc Psychopharmacol. 2016 Feb 4.

参考:「双極性障害」加藤忠文(著)

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