「双極症(双極性障害)についての100の質問」企画、第79回目です。
今回のテーマは、
「双極症、再発を自業自得と表現することについて。再発後にすべきこととは?」
です(・∀・)
以下、質問者さんからのメッセージです。
「双極症Ⅱ型です。8年間安定していましたが、薬の飲み忘れが多くなり、再発してしまいました。激うつ状態です。職場の後輩に、自分らしくないひどい言葉で叱責した時に『おかしいな』とは思ったのですが、軽躁と気づけませんでした。とても後悔しています。現在治療中ですが、また回復軌道に乗ることはできるでしょうか?自業自得なのですが、辛い日々を送っています。再発者の心の持ちよう、やるべき行動等、アドバイスいただけないでしょうか?よろしくお願いします!」
双極症に再発はつきものです。
質問者さんのように長期間安定していた人でも、再発の予兆をとらえきれず、対処しきれず、再発してしまう。
この病気の難しさが端的に表れています。
Contents
安定し出すと気が緩むのは「ふつう」のこと
初めて安定し出した頃はきっと、慎重に日々を過ごしていて、ささいな予兆にも「まあ大丈夫だろう」ではなく、「もしかすると再発かもしれない」と真剣に自身と向き合っていたのではないでしょうか?
しかし、安定した日々が当たり前になってくると、それを支える生活習慣や薬物治療、ストレス対処、予兆の対処について、危機感が少しずつ薄れてくるものです。
それは、ごくふつうのこと。
車をぶつけた人は、「またぶつけるかもしれない」と、しばらくは慎重に運転をするけれど、トラブルなく運転できる日々が続き、時間が経つにつれ、危機感は薄れ、「まさか自分が再び事故なんて起こさないだろう」と思い始め、細心の注意を払わなくなるものです。
繰り返しますが、これはごくふつうのことですから、
再発が起こったことで、自分を責めないことが大事です。
「自分を責めること」は得策ではない。
「自分は本当にダメなやつだ」
「どうしてあの時ちゃんと対処しなかったんだ」
などと自分を責めると、自己肯定感が低下し、改めて治療に取り組む気持ちの妨げになります。
とくにうつ状態に陥っている場合は、
「もう自分なんてどうなってもいい」
「治療なんて真面目に取り組んでも無駄だ」
などの投げやりな考えに囚われ、回復の道が遠のくことが心配されます。
周囲の家族や支援者も責めることはやめる。
周囲の人についても同様です。
本人を責めてもいいことはありません。
一時的には家族や友人に離れられることを恐れて、完璧に生活を整え、必要な活動を徹底的に行い、避けるべき行動を完全にゼロにするかもしれません。
ただ、そんな無理は長くは続かないものです。
例えば、ダイエットに失敗して家族に、
「意志が弱いんだから」
「生活習慣病になっても知らないからね」
などと言われ、再度ダイエットを決意したときに、
「もう毎日野菜しか食べない!」
などと宣言しても続かないのと同様です。
再発したことを「自業自得」と思っていないか?
質問者さんが「自業自得」という表現を使っていますが、この言葉も本人を「責める言葉」です。
質問者さんのように、当事者自身が使うこともあれば、家族や支援者が口にしてしまうこともある言葉です。
さらには、医師も「自業自得」のニュアンスで、再発について振り返っていないかは気になるところです。
私自身も意図せず、しかし、振り返ってみると「自業自得と責めた」と受け取られても仕方ないような表現をしてしまったことがあります。
また、再発をしてほしくないという思いから、再発するとどういったことが起こるのか、客観的な事実ではあるものの、厳しい話をすることになりますが、
表現次第では「脅し」ともとれる説明になりがちです。
家族から、支援者から、医療者から、そのような言い方をされたこと、
当事者の方は、思い当たるエピソードがあるのではないでしょうか?
また、患者さん本人も「“トラブルを起こさないために” 治療に取り組まねば」と思い込みがちです。
どんなリスクがあるのかはもちろん知っておくべきことですが、それを再発予防の主なモチベーションとするのはちょっと違うんじゃないかなと思います。
「病気をコントロールして、うまく病気と付き合いながら、やるべきこと、やりたいことを実現していく」
というモチベーションで治療に取り組んでほしいと思います。
建設的な話をしよう。
たしかに再発のきっかけに「自業自得」の要素があるかもしれませんが、その短い言葉で思考停止せずに、
「①具体的にどのような点が良くなかったのか?」
ということを、ご自身、または支援者と協力しながら書き出してみましょう。
次に、
「②具体的にどのような点は良かったのか?」
ということも同様に書き出してみましょう。
質問者さんの場合、今回再発してしまったにせよ、8年間も安定して過ごされていたわけです。
安定のコツのようなものがご自身なりにつかめていると思います。
もう少し短期間でも、何なら半年で再発してしまったケースでも、同じように、
良くなかった点とともに必ず良かった点はあります。
再発後は「自業自得」をはじめとするネガティブワードに打ちのめされるかもしれませんが、「良かった点」を見出すことが次の長期の安定につながると考えましょう。
①②を書き出したら、次は戦略会議です。
①については、もちろん改善案を練り、無理難題にならないように気をつけながら、改めて回復&維持のルールを設定しましょう。
②については、それらを今後も継続することに加え、より良い方法が無いかを検討してください。
まとめ
「気を抜いて過ごしていたら再発してしまうこと」
これの難しい点は、ある日の生活リズムが乱れたり、内服が一日うっかり飲み忘れたところで、即日に再発するのではないことです。
じわじわと再発に向けてのコップの水が溜まりだし、いつかそれがコップからあふれることになります。
同じ病気でも個人差が大きいので、そんなに内服も日常生活も意識していなくても激しい再発のエピソードが長らく起こらないケースもあるでしょう。
しかし、質問者さんの場合は8年を経て再発してしまいました。
この事実をそのままに受け止めて、過剰に「自業自得論」に陥らず、淡々と次の寛解・維持期に向けて日々を積み重ねていってほしいと思います。
以上、「双極症、再発を自業自得と表現することについて。再発後にすべきこととは?」について解説してみました(‘◇’)ゞ