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双極症、抗うつ薬使用で軽躁・躁状態を起こしたケースの扱いと診断について。

2019/08/22
双極症(双極性障害)100の質問
精神科医・さくら(@sakura_tnh)です。自身の知識と経験を活かし、人をワンランク上の健康レベルに底上げ=幸せにすることを目指しています。

「双極症(双極性障害)についての100の質問」企画、第86回目です。

今回のテーマは、

「双極症、抗うつ薬使用で軽躁・躁状態を起こしたケースの扱いと診断について。」

です(・∀・)

以下、質問者さんからのメッセージです。

「2014年の初診で抑うつ状態と言われ、その後、主治医が2回変わりました。2018年に抗うつ薬の服用がきっかけと思われる躁転をしたのですが、それ以降も病名をハッキリ言ってもらえません。先日の診察で、『双極症じゃないか?』と尋ねたら、『双極的な傾向はあると思う』という、歯切れの悪い回答でした。処方内容から考えても、双極症を疑っているのだと思われるのですが、何故医師は診断をつけたがらないのでしょうか?

ハッキリ診断がついた方が、前向きに治療に取り組める気がしますし、診断がついている人が正直羨ましいです。双極症について知ることはマイナスにはならないと思い、双極症の本で勉強しようと思っています。診断は伝えないのが一般的なのでしょうか?」

同じような質問をほかの方からもいただいています。

その主治医の思惑のすべては分かりませんが、「診断をつけたがらない」というのはちょっと違って、「診断をつけづらい」という表現が合っているかもしれません。

質問者さんは発症されてからすでに5年目となっており、躁転する前、うつ状態が常に続いていたのか、エピソード的に回復してはまた再発することを繰り返していたのかは分かりません。

「うつ病」や、軽度のうつ症状が何年も持続する「気分変調症」、軽躁病エピソード未満、うつ病エピソード未満の気分症状を繰り返す「気分循環症」などと診断され、経過を見ていくうちに軽躁・躁状態が出現、または過去に軽躁病・躁病エピソードがあったことが発覚し、双極症と診断が変わることは、過去記事でも述べてきたようにしばしばあることです。

質問者さんは「抑うつ状態」としか言われていないようですが、これは状態象であり、診断とは言えませんから、さすがにどこかの時点で「うつ病」「気分変調症」などの診断がついていたのだと推測されます。

抗うつ薬使用により、軽躁・躁状態を起こした場合の扱い

質問者さんの場合、過去にうつ病エピソードがすでにあるとすれば、一度の軽躁病・躁病エピソードが出現すれば、「双極症」と診断されることになります。

ただ、質問者さんのように明らかに抗うつ薬が引き金となって躁転を起こした場合は、原因薬剤を中止した後に、速やかに気分症状も改善すれば、抗うつ薬の一過性の影響とみて、双極症の診断は保留することがあります。

DSM-5という診断基準には以下の記載があります。

「抗うつ治療中に出現したが、治療の生理的作用を超えて持続する躁病あるいは軽躁病エピソードは、躁病あるいは軽躁病エピソードの診断に十分なエビデンスである」

抗うつ薬の影響以上の気分症状が見られるかどうか、抗うつ薬はあくまできっかけで、元々ある双極症の症状が明らかになったのかどうかがポイントです。

抗うつ薬を中止しても、軽躁状態であれば4日躁状態であれば7日経過しても症状が持続する場合には双極症と診断されることが多いと思います。

「他の特定される双極症および関連障害」について

質問者さんが上記のように、抗うつ薬の使用により軽躁・躁症状をきたしたが、短期間に落ち着いた場合を想定します。

双極症の診断を満たさないレベルの症状がある場合に、「他の特定される双極症および関連障害」という診断となるケースがあります。

双極症の診断基準は過去記事を参考にされてください。

参考:双極症、Ⅰ型とⅡ型の区別・診断はどうやってするの?基準は?

この診断では、下記のような4つのパターンが考えられます。

①症状の程度や数は診断基準を満たしているが、軽躁病エピソードが2~3日で収束するなど、期間が短い

②期間は少なくとも連続して4日間は持続するが、診断を満たす症状が十分でない

③軽躁病エピソードは認めるが、抑うつエピソードがない、または抑うつエピソードに満たない軽うつエピソードのみ

④抑うつエピソードも軽躁病エピソードも診断基準未満であり、気分循環症の診断基準である24か月を満たさない期間の気分症状の繰り返し

この診断を満たすケースは「他の特定される双極症および関連障害」と診断し、患者さんにも説明することが適切です。

ただ、実際のところは、患者さんから過去の症状を聴取しても、あいまいなことも多いのが難しい点です。

患者さんにどう説明し、どう治療をしていくか

明らかな双極症であれば、診断を変更し、患者さんにも双極症に沿った勉強や生活の注意が必要なのでそう説明します。

一方、質問者さんのようなケースでは、元々の診断を継続しながら「双極症を想定しながら経過をみていく」と説明することもあります。この際は生活上の注意も双極症を想定したものになります。

質問にある、主治医の「双極的な傾向はあると思う」という言葉には上記の4ついずれかに該当するために「明らかな双極症ではないが、それに準じた病状である」との考えが読み取れます。

「処方内容から考えても、双極症を疑っているのだと思われる」という点についても、双極症の診断基準を満たさないが、双極症を想定した治療でその効果を見ていくことはあります。
(その際は、少なくとも保険病名には「双極症」を記載されていると思われます)

ここで書いたことは質問文からの推測でしかないので、明らかに診断基準を満たすエピソードがあったのなら、主治医がどうしてハッキリ診断を告げないのかはよく分かりません。

以前であれば、一度きりで終わることの多いうつ病に比べて、双極症は長期にわたる経過となること、また、うつ病より偏見が強いこと(以前は躁うつ病と呼ばれていました)、などから、双極症の診断を患者さんや家族さんに告げることはより慎重を期すというところがありました。

現在では、病気について様々なことが解明されつつありますし、コントロールが簡単になったとまでは言えなくても、薬物による症状の緩和が十分可能なケースも増えています。

よって、そういった意味で患者さんに診断を伝えないことは減っていると思われます。

病気に向き合う姿勢

質問者さんの書いておられるように、

「双極症であるなら、双極症のことをしっかり学んで、病気を良くしていきたい。そのためにも診断をしっかり伝えてほしい」

と思うことは当然のことです。

また、患者さんが病気に向き合う姿勢としては素晴らしいものだと思います。

この思いがもし主治医に伝えられていないのであれば、ぜひ次回の受診時に伝えてほしいと思います。

主治医側も、現時点で診断基準を満たしていない今の段階で、双極症のことを前景にして話することが患者さんにとってプラスになるかを迷っているかもしれません。

どちらにせよ、本来なら、主治医側が患者さんがそう言葉にしていなくても、不安や不満に感じていることを察して対処していくものですから、患者さん側に余計な悩みを抱かせてしまって申し訳なく感じます。

以上、「双極症、抗うつ薬使用で軽躁・躁状態を起こしたケースの扱いと診断について。」について解説してみました(‘◇’)ゞ

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