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双極症なのにうつ病として治療。精神科医は双極症であることに気づかないもの?

2019/09/09
双極症(双極性障害)100の質問
精神科医・さくら(@sakura_tnh)です。自身の知識と経験を活かし、人をワンランク上の健康レベルに底上げ=幸せにすることを目指しています。

「双極症(双極性障害)についての100の質問」企画、第90回目です。

今回のテーマは、

「双極症なのにうつ病として治療。医師は双極症であることに長期間、気づかないもの?」

です(・∀・)

以下、質問者さんからのメッセージです。

「3年間、うつ病の診断で抗うつ薬を服用しており、調子もまぁまぁ良かったのですが、疲労感とだるさがひどく、主治医から『良くなっていたわけではなく、抗うつ薬による軽躁状態だったようです』と言われました。合ってない薬を3年も飲んでいたのか・・・という虚しさがすごいです。少々、怒りもおぼえます。3年間も薬が合ってないことに精神科医は気がつかないものなのでしょうか?気づくのが遅いように思います。」

こういった経験をされた方はかなりの数にのぼると思われます。

とくに、本人も周囲も「ただの元気な状態」としか認識しない「軽躁状態」に留まるⅡ型はその傾向が強いでしょう。

2016年の調査では、

初診から双極症との診断に至るまで、平均して4年かかる

と報告されています。

質問者さんは「3年間も」と書いておられますが、現状は調査の通りです。

「うつ病」「気分変調症」など、うつ症状を主とした疾患と診断され、うつ症状をターゲットにした治療を受けていた方が多いでしょう。

または、双極症は併存症も多いので、併存疾患の症状が目立つ場合はそちらの疾患を主として治療されていたケースも多いと思われます。

実は、以前より精神科医は「気づく」ようになってきている

質問者さんのお怒りもごもっともなことです。

もっと早くに、理想を言えば「初診の段階」で双極症と診断されていたなら、初期から適切な治療を受けられ、病気についての認識も違っていたでしょう。

ただ、正確な診断に至るまで4年、というのは長く感じられると思いますが、以前は正確な診断に至るまで「10年以上」かかることもよくありました。

双極症についての研究が進み、精神科医の知識も増え、うつ状態の患者さんを見たら双極症を疑うことも最近では一般的になってきています。
(ほかの併存疾患も同様です)

あくまで診断の補助でしかありませんが、光トポグラフィー検査のように、客観的に双極症を示唆する検査が登場したことも影響しているかもしれません。
(光トポグラフィー検査については懐疑的な医師も多く、私も参考所見にしたことはほとんどありませんが)

「双極症を見逃すまい!」

と意識する精神科医が増えたことで、双極症の過剰診断が問題になっているほどです。

参考:双極症「気分の波は誰にでもある?」正常と病気との「境目」の判断は難しい。

精神科医は診断には慎重な場合が多い

ちなみに、早期に正確な診断をつけることと相反するようですが、精神科医は診断には慎重です。

一度でも「躁病エピソード」があれば、その患者さんは「躁状態Ⅰ型」と診断できますが、初回の「うつ状態」で受診され、うつに関連した症状以外に特徴的な症状が無ければ、多数の疾患を念頭に様子を見ていくことになります。

もちろん、初診でも必ず保険病名はつけますし、診断書が必要な場合もありますから、その際は「うつ病」「適応障害」などと診断名をつけていますが、

「現時点ではうつ病が考えられますが、経過によっては診断が変わることがあります」

などと説明し、診断がハッキリしてから改めて説明することが多いと思われます。

早期に正確な診断に至るために

もっと早期に正確な診断に至るために、どのようなことが必要かまとめます。

①精神科医に双極症の知識が十分にある

知識のアップデートは必須で、少しでも正確な診断に早くたどり着けるように努めることが必要です。

②うつ症状を主な症状として受診した患者さんに、双極症の可能性を伝えておく

とくに、以下のような方は双極症の可能性が高いので、現時点で明らかな軽躁病・躁病エピソードが無くても、十分な情報提供が必要でしょう。

・25歳以下の発症

・幻覚妄想などの精神病症状がある

・家族に双極症の人がいる

・うつ病エピソードを繰り返している

・うつ症状が過眠、過食など非定型的である

抗うつ薬を出す際には、

明らかにハイテンションになり、多弁、多動、短時間睡眠でも元気な状態になれば、うつ病ではなく双極症かもしれないことと、早急に受診することを説明しておく必要があります。

③患者さんが日々のセルフチェックの中で、双極症のサインに気づいたら主治医に報告する

前述の通り、双極症の知識があっても、患者さんは「軽躁状態」を、ただ元気な状態と認識していることがあります。

受診につながるうつ病エピソードの以前より、軽躁病エピソードを繰り返しており、それを「通常の元気な自分」と思っていることはままあることです。

質問者さんが「まあまあ調子が良かった」と書かれていますが、このように、患者さんは「病的」とは認識していないことがほとんどです。

実際、医師が入念に軽躁症状について問診しても明らかにならないこともあります。
(逆に軽躁状態を疑って聞きすぎると、患者さんが誘導されるリスクもあります^^;)

睡眠時間の短縮(でも元気)、対人交流の増加、目的志向型の活動の増加、話す量が増える、話すスピードが上がるなど、要チェックな症状を説明しておくことが必要です。

④家族、支援者にも情報提供する

上記のように、本人は気づけないことも多いので、周囲の人が知識を持ち、本人の様子を見守ることも大事です。

なんとかお一人で受診できる人は家族の付き添いが無いことも多いと思いますが、書面で情報提供し、家族に渡してもらう、一度付き添い受診をお願いする、など、色々な方法で伝えていくことが必要です。

⑤双極症の啓発活動

私がTwitterやブログで双極症について発信しているのも啓発活動のひとつです。

診察室に来た人だけでなく、今は自身も周囲の人も双極症に関わりの無い人にも知っておいてもらうことで、患者さんや家族さんから積極的に双極症を疑ってもらえる環境ができたらと期待しています。

当事者の情報発信も大きな影響力があり、Twitterでも、当事者の体験ツイートから自身の双極症を疑った方もお見掛けします。

正確な診断が判明したなら

私も多くの精神科医と同様に、正確な診断に時間を要することはあり、診断変更する際には心苦しく感じます。

質問者さんが「不適切な治療をしていたことに虚しさを感じる」と仰るのもよく分かりますし、おそらく双極症と診断されてまだ日が浅く、双極症の受容も進んでいないのだろうとも推測します。

人は「こうであったら」と過去に囚われるものです。

しかし、過ぎた時は戻りませんし、

私たちはいつでも「今」にしか働きかけることはできません。

質問者さんは、主治医にその気持ちを打ち明ける、家族に苦しさを理解してもらうなどして、少しずつ葛藤を消化し、次のステップに進んでいってほしいと願います。

以上、「双極症なのにうつ病として治療。医師は双極症であることに長期間、気づかないもの?」について解説してみました(‘◇’)ゞ

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