「双極症(双極性障害)についての100の質問」企画、第91回目です。
今回のテーマは、
「双極症の認知行動療法を行う医療機関は少ない?保険適用は?対応する職種は?」
です(・∀・)
以下、質問者さんからのメッセージです。
「一時期、認知行動療法が注目されました。保険適用になっているのですよね?ただ、そんな病院は聞いたことがありません。少なくとも、近くの病院ではやっていません。大野裕先生のサイトで自分なりにやってみましたが、やはり一人では難しいです。森田療法とも似ていると言われるけれど、先生はどう思われますか?そして臨床心理士の資格をもっていないとダメなのでしょうか?PSWでは無理でしょうか?」
「認知行動療法」という治療法を聞いたことがある方は多いでしょう。
一方で、「認知行動療法を受けたことがある」という方は少ないでしょう。
今回は認知行動療法の概要と、臨床場面での実情を解説します。
※「認知行動療法」と言うとやや長いですよね。英語では「Cognitive Behavioral Therapy」と表記しますので、略して「CBT」と呼ばれています。
ここからはCBTと表記していきますね。
認知行動療法について
CBTでは、ものごと、状況などを「どう捉えるか」「どう考えるか」という「認知」の部分と、その認知に基づいて惹き起こされる「行動」を変化させることで、困りごとや病気の症状を改善していきます。
ちなみに、認知症の「認知」とよく誤解されるのですが、認知症は記憶や見当識などの認知機能に障害が起こる病気で、同じ「認知」という言葉が使われていますが別物です。
さて、人は置かれた状況や言われたことなどを、常に自分独自のフィルターを通して受け止めています。
そのため、同じ出来事に遭遇しても、AさんとBさんでは、その出来事に対してわき起こる感情も、その先の行動も違ってきます。
例えば、「友人に話しかけた時、友人が何も言わずに立ち去った」という状況を想像してみてください。
Aさんは、
「私のことが嫌いだから無視したんだ」
と考えて落ち込み、胸が苦しくなってきて、居たたまれなくなり、その場から逃げ出しました。
一方のBさんは、
「あれ?声が小さかったから聞こえなかったかな?」
と思い、もう一度友人に声をかけました。
あなたはこの状況でどう感じるでしょうか?
認知行動療法の流れ
先ほどの例ですと、Bさんはとくに問題ありませんが、Aさんはこのままだと、色んな場面で苦しい思いをすることが想像されます。
AさんがCBTを受けたいと希望すれば、まずはAさんの困りごとや症状を聞き取ります。
そして、対処するテーマを決めて、そのテーマに関連する情報をしばらく記録してきてもらいます。
現在の認知や行動を確認し、学習の理論に基づいて、患者さんの行動の変化を促していきます。
大事なのは、助言を受けて、実際に行動してみること、また、自分の感情やものの捉え方のクセを観察することです。
施設や治療者にもよりますが、一回の面談は30分〜60分ほどで、全体で十数回行うことが多いですが、効果によっては延長することもあります。
全体の期間としては、数か月〜長くて1年くらいかかります。
双極症と認知行動療法
うつ病で認知行動療法が有用であることはよく知られていますが、双極症、パニック症、強迫症など、ほかの多くの精神疾患にも有用です。
双極症では、うつ状態の時にはうつ病と同様のCBTを行います。
一方、躁状態への移行が疑われる時にもできるだけ移行を抑えること、軽躁状態に留めることにはCBTは役立ちますが、激しい躁状態になってしまってからの効果は現時点では不明です。
(状態によってはCBT自体行うことが難しいかもしれません)
また、「双極症のCBTを行います」と謳う医療機関は稀かと思われます。
認知行動療法の保険適用について
質問者さんの書かれているCBTの「保険適用」についてですが、実はこれは狭き門なんです。
平成30年度の診療報酬点数には以下の記載があります。
I003−2 認知療法・認知行動療法(1日につき)
1 医師による場合 480点
2 医師及び看護師が共同して行う場合 350点注
1 別に厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方厚生局長等に届け出た保険医療機関において、入院中の患者以外の患者について、認知療法・認知行動療法に習熟した医師が、一連の治療に関する計画を作成し、患者に説明を行った上で、認知療法・認知行動療法を行った場合に、一連の治療について16回に限り算定する。2 精神科を標榜する保険医療機関以外の保険医療機関においても算定できるものとする。
3 診療に要した時間が30分を超えたときに限り算定する。
4 認知療法・認知行動療法と同一日に行う他の精神科専門療法は、所定点数に含まれるものとする。
参考:今日の臨床サポート
分かりやすくまとめますと、
①医師が30分以上かけて面接を行った場合
②看護師により30分を超える面接が行われ、その後医師により5分以上の面接が行われた場合
上記の2パターンのみが、保険適用でCBTが受けられる形ということです。
質問者さんの書いておられる「心理士」はもちろん、「PSW」でも保険適用にはなりません。
(基本的にPSWがCBTを行うことはないです。両方の資格を持つ人はいますが)
心理士さんがCBTを行うイメージを持たれている方は多いでしょう。
自費診療でCBTを行っている医療機関やカウンセリングルームは見かけますよね。
(自費で精神科医が行うこともあります)
また、質問者さんは「臨床心理士」と表記されていますが、最近「公認心理師」という国家資格ができ、2018年に初回の試験が行われています。
従来、心理職は国家資格では無かったため、CBTも現時点では、保険適用となるには国家資格である「医師」「看護師」が行う場合となっています。
今後、公認心理師がCBTを行う場合も保険適用となる流れが期待されます。
話がそれましたが、疾患に関わらず、CBTを保険適用で受けることが現時点では難しいことが分かってもらえたかと思います。
「認知行動療法」と「森田療法」の違いとは?
最後ですが、CBTと「森田療法」の違いについてです。
森田療法という治療法を耳にしたことがある方は多いと思います。
歴史のある治療法ですが、今でも森田療法を主とした治療を行っている精神科医はいます。
CBTでは、認知にアプローチして、認知のゆがみによってわき起こる不安や抑うつなどの感情を和らげるようにトレーニングします。
一方、森田療法では、不安や抑うつというネガティブな感情も、「誰にでもある自然なもの」と捉えます。
それらをありのままに受け入れて、困りごとに注目しすぎず、生活や人生に目を向け、ネガティブな感情をそのままに生きていくよう援助します。
まとめ
「ガッツリとCBTを受けたい!しかも保険適用で!」
と考えておられた方は、ガッカリされたかもしれません。
しかし、現在の精神科医の多くは、診察の中の短い会話でも、CBTのエッセンスをもとに、認知や行動に働きかけるような示唆や提案をしています。
現在の治療を続けながら、また状況が変わってもっとCBTが受けやすくなればその時にトライしても良いかと思います。
質問者さんはイマイチだったようですが、本を読み、CBTの概要を知るだけでも治療的ですので、興味のある方は読んでみてくださいね。
以上、「双極症の認知行動療法を行う医療機関は少ない?保険適用は?対応する職種は?」について解説してみました(‘◇’)ゞ