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双極症の「Ⅰ型」と「Ⅱ型」は全く別の病気の可能性がある?どう考えるべきか?

2019/09/14
双極症(双極性障害)100の質問
精神科医・さくら(@sakura_tnh)です。自身の知識と経験を活かし、人をワンランク上の健康レベルに底上げ=幸せにすることを目指しています。

「双極症(双極性障害)についての100の質問」企画、第92回目です。

今回のテーマは、

「双極症のⅠ型とⅡ型は全く別の病気の可能性がある?どう考えるべきか?」

です(・∀・)

以下、質問者さんからのメッセージです。

「双極症Ⅰ型とⅡ型は、発症の原因が異なるか、全く別の病気と感じています。Ⅱ型の方が他の精神疾患との併存が多いですし、内海健先生の『双極Ⅱ型障害という病』には『同調性』や『他者配慮』などの性格傾向があると書かれています。私自身もⅡ型と診断されていますが、その通りだと感じていますし、Ⅱ型の人は同じにおいがするので診断をきかなくてもなんとなくわかります(笑)。先生は上記のⅠ型とⅡ型の違いをどういう風に感じたり、考えたりしていますか?」

双極症にⅠ型とⅡ型があることは、患者さんの中ではよく知られていることだと思います。このブログでも度々書いてきています。

簡単にまとめますと、以下の通りです。

Ⅰ型・・・激しい躁状態とうつ状態を繰り返す。躁状態で入院を要する。昔で言う「躁うつ病」にあたるもの。
Ⅱ型・・・軽躁状態とうつ状態を繰り返す。軽躁状態では入院は必要ない。併存疾患が多い。

Ⅱ型の軽躁状態は、明らかに病的なⅠ型の躁状態と違って、病的かどうか判断の難しいケースも多いです。

一方のうつ状態はⅠ型もⅡ型も同じように大きく沈むことが特徴です。

過去記事も参考にされてください。

双極症Ⅱ型で見られる特徴について

質問者さんのおっしゃる通り、Ⅰ型よりⅡ型において併存疾患が多いことも知られています。

不安症、境界性パーソナリティー障害、ADHD、各種依存症などですね。

併存疾患や誤診されやすい疾患についてはこちらを参考にされてください。

次に、性格傾向についてです。

こちらも過去記事にまとめていますが、結論としては、病気の発症前期の変化の可能性を排除できないため、「双極症の病前性格は○○である」と言い切ることは困難であると考えています。

また、最近では患者さんもネットで情報を得やすい環境となり、自身で「Ⅱ型」の病像に寄せて症状を訴えてしまうこともあります。

これは患者さんが嘘をついているということではなく、精神科医の側も、Ⅱ型を疑えば疑うほど、Ⅱ型に寄せて診断してしまう懸念があります。
(過剰診断の問題については繰り返し書いている通りです)

加えて、「Ⅱ型の方が併存疾患が多い」「Ⅱ型の方が○○な性格の人が多い」、ということで、イコール「Ⅰ型とⅡ型は全く別の病気」とは言い難いです。

過去の研究を参照することの限界

過去の研究では、「双極症Ⅱ型の人の家族にはⅡ型の人が有意に多い」という報告があります。

その研究から「Ⅰ型とⅡ型は遺伝的に違う病気ではないか」と考えられました。

ただ、その研究は1980年〜1990年代のもので、双極症を以下のように分類して調査していました。

Ⅰ型・・・うつ状態での入院歴あり、躁状態での入院歴あり

Ⅱ型・・・うつ状態での入院歴あり、躁状態での入院歴なし

その他・・・うつ状態での入院歴なし、躁状態での入院歴なし

お分かりの通り、「その他」に分類された、うつ状態での入院歴のない人も、現在では双極症Ⅱ型と診断されます。

当時と今では「双極症Ⅱ型」の概念、精神科医のⅡ型の認識レベルや診断の際にどれだけⅡ型を考慮するかの姿勢も大きく変化しています。

よって、過去の研究をどれだけ信頼性のあるものとして判断の根拠にできるかは難しいところです。

Ⅰ型とⅡ型の違いについての研究

Ⅰ型とⅡ型の違いに関する近年の研究をひとつ紹介します。

スウェーデン・カロリンスカ研究所による、双極症Ⅰ型とⅡ型患者の脳の皮質と呼ばれる部分の「容積」「厚み」「表面積」を分析した研究です。

・双極症Ⅰ型患者81例、Ⅱ型患者59例、健常な対照群85例が対象。

・双極症患者の前頭部、側頭部、内側後頭部で、皮質の「容積」「厚み」「表面積」の異常を認めた。

・リチウムとバルプロ酸などの抗てんかん薬が使われている患者は、内側後頭部の異常が有意に大きかった。

・健常の対照群と比べて、Ⅰ型患者、Ⅱ型患者のどちらも「前頭部」の皮質の「容積」「厚み」「表面積」の低下を認めた。

・「側頭部」と「内側後頭部」の変化はⅠ型患者でのみ認められた。皮質の「容積」と「厚み」の低下が著しかった。

参考:Abe C. et al. J Psychiatry Neurosci. 2015 Dec 7;41:150093.

上記の結果から、MRI検査が双極症の診断または、Ⅰ型とⅡ型の鑑別の客観的な指標となる可能性があります。

一方で、双極症は気分エピソードを繰り返すことで(とくに躁病エピソード)、認知機能障害をきたすことが知られており、発症以前からこのような変化を認めるのか、病気の症状による変化によるものかまでは分かっていません。

研究で検討されていない要因に影響された脳の変化である可能性もあるため、参考に留めておいてください。

どこまで細分化するか?その意味はあるのか?

統合失調症やうつ病でも、その中には特徴的ないくつかの型があります。

今回の質問では、併存疾患の多さや病前性格をピックアップしていますが、例えば「統合失調症」という同じ病名がついた人の中でも、差異がある要素は多数あります。

それでもって、どこまで分類するか、また、「別の病気」と捉えるかは難しいところです。

また、「別の病気」とすることで何かメリットがあるのかどうかというと、現時点ではあまりなさそうです。
(Ⅰ型とⅡ型で治療や配慮が異なることはまた別の話です)

歴史的に、病気のカテゴライズ、診断基準については検討され、とりあえずの見解の合意に至り、また修正され、を繰り返しています。

現時点では、双極症のⅠ型とⅡ型は「上下に気分の変動する病気」という点ではひとつのグループに属すると認識されています。

単極性のうつ病~双極症Ⅱ型~双極症Ⅰ型と、双極傾向のスペクトラムを想定した考え方もあり、それらを明確に線引きすることは現時点では難しいと考えます。

前述の通り、精神科医のⅡ型への意識は高まっており、軽躁への気づきも早くなっています。

よって、早期に気分安定薬を開始し、本来Ⅰ型の患者さんが軽躁レベルにしか気分が振れないケースも増えているでしょう。

この場合、躁状態に至らないので、「Ⅱ型」と診断されますが、先々に大きな躁の波がやってきて「Ⅰ型」と診断変更されることもありえます。

まとめ

研究レベルではⅠ型とⅡ型の違いは今後も検討されることではあります。

一方、臨床の場では、Ⅰ型とⅡ型は違う病気かもしれないと考えて、患者さんがⅠ型なのかⅡ型なのかを厳密に区別する努力をするより、

この患者さんは「双極症」であり、「現時点で躁の波を確認できている人」「今後大きな躁の波のある可能性のある人」などと捉えて、いつもその疑いを頭の片隅に置いておくことが大事であると思います。

※その時の情報から最も考えられ得る診断は暫定でも必要です。

以上、「双極症のⅠ型とⅡ型は全く別の病気の可能性がある?どう考えるべきか?」について解説してみました(‘◇’)ゞ

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