今日は「精神科外来の5分診療」について、私の考えていることを書いてみます。
精神科や心療内科の通院患者さんから、「待ち時間が長い」「薬偏重の診療である」「医師が電子カルテばかり見ている」などの不満がよく聞かれますが、「診察時間が短い」という不満も大変多いと感じます。
「話をもっと聞いてほしい」
「急いでいる雰囲気があり、質問があったけどあきらめた」
「睡眠、食事、薬のことしか聞かれない」
「このような診察で十分なのだろうか?」
診察の短さに不満を感じても、それを直接主治医に言えなかったり、質問すべきことをできずに不安になる人もいると思います。
私の勤務先は比較的外来患者さんが少ないこともあり、とても落ち着いている患者さんでは5分診療になることはありますが、概ね必要なことを話すだけの時間は取れている方だと思います。
都会のクリニックや医療機関の少ない地域では、1人の精神科医が担当する患者さんの数が膨大になり、どう割り振っても1人あたりの診察時間が10分を切る医療機関がありますよね。
時々ツイッター上でも「5分診療」について話題になりますが、最近注目された松本先生と佐々木先生のツイートをまず紹介させていただきます。
1時間の精神療法を保険がカバーしてくれる国など世界に一つもない。日本以外の国では、精神科医に会うまでに2年かかるのが普通。そこから高い自費診療が始まる。日本で保険に頼りながらこれ以上の精神科医療を望むのは、無い物ねだりで、少ない診療時間を精神科医のせいにするのはあやまりです。 https://t.co/goAmGLiL0u
— まつもとメンタルクリニック (@XK2FLqSFYhE6flp) 2019年6月25日
政策的に医療費は絞っていく方向のようですし、精神科臨床において保険診療下で今後「心ゆくまで話を聞いてもらえる」治療が行われることは残念ながら望み難いであろうと推察します。
精神療法の部分は、米国式に民間の保険でカバーされるようになっていくかもしれませんね。https://t.co/sr24DLAbmL— 佐々木幸哉, 精神科医, ベンゾジアゼピン減断薬穏健派 (@YukiyaMEDICAL) 2019年6月25日
佐々木先生のこちらのブログ記事も参照ください。
参考:精神科≒心療内科の診察時間は5分+αがデフォルト「今もこれからも」
日本の診療報酬体系上、現状の5分診療はやむを得ないところはあります。
要するに、精神科医に直接「もっと診察時間を長く取って」と言っても、どうしようもない側面があります。
国の方針としては、今後いっそう精神科医は減らしていく意向のようですし、医療費が今以上に投入されることはまずなさそうです。
人口減も見込まれますし、AIの活用で医師の仕事が減ると見込まれていることもあるでしょう。
自身の収入は捨ててでも、かなり長い診察時間を確保されている医師の話も聞いたことがありますが、いずれ経営的に行き詰ることや、長い診察時間を確保したまま患者数が増えたらその医師は倒れるだろうな、その体制は長くは続けられないな、と感じました。
また、10分を超えたら次の10分を自由診療でいくらと決めているクリニックもや見たことがありますが、患者さんは経済的に余裕のある人ばかりではありませんから、最適解にはならないでしょう。
5分診療問題⇒生産性のアップをはかる
こういった「困った」場面で「どうしようもない」「現状維持で精一杯」と思考停止に陥るのはもったいないことです。
「困った」時こそ、創意工夫をするチャンスでもあります。
全然別の話だと感じられるかもしれませんが、日本のワーキングマザーの話をします。
日本のワーキングマザーは世界的に見て、最も生産性が高いと言われているそうです。
ワーキングマザーは働きながら、保育園の送迎、食事の用意、その他の家事、人付き合いなどをこなしています。
以前に比べて男性が育児や家事を担うようにはなっていますが、今でも多くのワーキングマザーはてんてこまいで毎日を送っています。
独身で働いていた時よりワーキングマザーの生産性が高まるのは、
「時間」というリソースが限られるからです。
1日24時間をどう割り振って、効率よく一日を過ごすか、仕事や家事の段取りをし、すき間時間も活用します。自分の趣味の時間を捻出するために効率化を考える人も多いでしょう。
これが、独身で帰宅時間も迫られない時なら、出勤からのんびりと仕事をして、間に合わなければ残業をしていたかもしれません。
話を戻しますが、
「医師の診察にかけられる時間」が限られている今、その生産性を高めることが急務であり、リソースが限られた時こそ、どう工夫をすべきか考えるチャンスになると考えます。
みなさんも、同じ時間をかけるならより楽しいレジャーをしたい、同じお金をかけるなら自分の満足できる買い物をしたい、など、「時間」や「お金」のコスパを意識することって日常にありますよね。それと同じことです。
個人的な理想としては、やはり再診で平均10分は確保したい、というか今それくらいかかっています(汗)。
落ち着いていて5分で十分な方もいると見込んでの一人当たり10分は欲しいところです。
同じ5分や10分でもその質を高めることが大事です。
当たり前と言えば当たり前のことですね。
診察時間以外でできることは済ませておいてもらいます。
事前に最低限の近況と、質問をまとめておいてもらう、場合によっては医師以外が聞きとりをするなど。
医師以外にできることは人に任せることも大事です。
心理教育や生活習慣の是正、社会資源の話など、どうしても治療序盤では多く時間を割く必要があります。
看護師やPSW、心理士など、多職種で情報提供をします。
患者さん側も診察の時間だけが「治療」ではなく、むしろ診察の場面以外でどう行動しているかが大事だと認識していただきたいです。
自身の病気についての本を1冊読むことは必須です。
勉強会や当事者会に参加することも、有益と感じられればぜひ試してほしいと思います。
病院では集団で心理教育などを行いますが、これが外来でもできると理想です。
診断されて間もない時期には、主だった疾患については定期的に外来での勉強会が行われ、複数人で参加する形を取れたらいいなと思います。
これも、医師だけでなく、他の職種も講師になってよいと思います。
医師の業務を効率化することも大事です。
ご存知の通り、医師は診察時間以外に書類業務になかなかの時間を割いています。
この書類が今でも手書きでしか書けないものがありますが、この時代ですから、もっと簡便に作成できる形にすることです。
問診サービスの開発についての記事を読んでことがありますが、IT技術をフル活用し、事前に必要な情報を得られると診察中は他の話題に時間を割けます。
体調管理のアプリから直接電子カルテに読み込みができるようにももうすぐなるでしょう。
書類の話をしましたが、PCへの入力の手間も省けるところはどんどん省きたいところです。
PC入力してくれるスタッフを用意できたら、診察時間は入力に割く時間を減らせますが、今後は音声入力が当たり前になるでしょう。
診察中に聞き洩らしたことや、新しいお薬が出てその副作用に困った時などの対応も、今は電話対応が主ですが、違ったやり方で回答できるようになるでしょう。
認知行動療法などの有益な非薬物治療についても、診察にその要素を取り入れはしますが医師が十分に時間をとって行うことは厳しいです。
来年にも禁煙治療アプリが保険適用となる見込みですが、精神科医療においても認知行動療法や対人関係・社会リズム療法などに関連したアプリの処方が始まるでしょう。
現場の工夫に加えて、こういった最新技術が台頭してくると、「10分」の診察はかなり濃厚なものになると想像します。
「AIがいたら精神科医の仕事ってほとんどいらないんじゃ?」と思われるかもしれませんが、当面は人間による管理が必要ですし、患者さんとの会話は対人間で行う必要があるでしょう。当面は、ですけどね(^_^;)
松本先生のツイートにもありますが、短時間診察の質を高めるキモのひとつは「他職種連携」です。
精神医療は、良心的にやれば経営ギリギリのところでもかなり質の高いものが提供できます。地域にもリハ施設、優秀な訪問看護、心理士などがたくさんいますから、うまくコーディネートして利用すればいいのです。
— まつもとメンタルクリニック (@XK2FLqSFYhE6flp) 2019年6月26日
次に、患者さん側の学ぶ姿勢、行動する姿勢です。
さらに、短時間でどれだけの成果を得られるか、常に意識した診察を医師が行うこともキモですね。
・・・と、ここまで書いてきて、
IT技術系の話は除いたとしても、私の考えるような現場の工夫は意識の高いクリニックではすでになされていて、そこではまさしく「5分」診療であっても、患者さんの満足度は高いんではないかと思いました。
診察の時間以外でのサポートが充実していることがポイントかと。
5分診療の問題、あなたはどう感じますか?
私が思いつかないような工夫や、改善方法があればぜひご意見くださいませ(*^_^*)