「双極性障害についての100の質問」企画、第20回目です。
今回のご質問は、
「一度、躁になってしまうと自分でコントロール出来なくなり突っ走ってしまいます。どうすれば躁状態の行動をコントロールできますか?」
です(・∀・)
Ⅰ型のケースはもちろん、Ⅱ型の軽躁状態にとどまるケースであっても、気分が上がって、過活動になってくると、なかなかそれを制御できなくなるものです。
質問者さんは「躁状態での対処法」を知りたいようですが、まずは「躁状態への移行を防ぐこと」に重点をおくべきです。
すでに躁・軽躁状態への移行を早期に察知し、対処できている方は素晴らしいです。
一方で、何度も気分の波を繰り返しながらも、自分の中の暴れ馬を押さえつけることに苦労を感じている方は多いと思います。
もしくは「コントロールしないと」と思っているうちにその意識は吹き飛び、気づけば入院になっていた、という方もおられるでしょう。
以前、躁・軽躁状態に移行する予兆に気づくコツをまとめましたので、まだの方はまずこちらをご覧くなってください。
参考:双極性障害、躁状態を防ぎたい!躁状態への移行に気づく5つのコツとは?
Contents
軽躁・躁状態での行動や認知の変化
軽躁病・躁病エピソードのときに見られる行動や認知(ものの捉え方など)の変化は2つに分けられます。
①量的な変化
⇒普段から見られる行動の量が減ったり、増えたりする
例)延々と話し続ける、アイデアが次々と浮かんでくる、活動量が増える、睡眠時間が減る、食事量が減るなど
②質的な変化
⇒普段は見られない新たな行動や認知が出現する
例)普段おだやかな人が怒りっぽくなる、ささいなことでイライラしたり、人とケンカになる、普段しない飲酒や喫煙をするなど
先ほどの記事では数値化、客観視しやすい予兆をマイサインとすることを勧めましたが、質的な変化も明らかな「違い」「サイン」としてとらえやすいです。自分に合ったマイサインを通常気分の時期にまとめておきましょう。
軽躁・躁状態のサインに気づいたらやるべき10のこと
さて、そのサインに気づけるようになれば、具体的な対処行動を定めましょう。
ここでは、「双極性障害の心理教育マニュアル P138」を参考に、10の対処行動について述べます。
上がり切ったときには意識することが難しいかもしれませんが、対処行動としては同様ですので、ぜひ参考にされてください。
①主治医、支援者に連絡し、病的か否か判断をあおぐ
主治医や通院先・通所先の看護師、心理士、PSWなどに直接会えるなら直接会って、もし、すぐには面接が難しければ電話で連絡を取り、「サインに気づいた」ことを伝えましょう。
結果的に、現状では心配するほどの状態ではないと結論づくかもしれませんが、それはそれで今後に活かせる糧となります。まずは連絡をしてください。
②3日間、10時間以上寝る。頓服を使ってでも寝る
不眠用の頓服が処方されている場合はそれを利用しても構いませんので、十分な睡眠時間を確保しましょう。
早期にしっかり睡眠が取れれば、これ以上の悪化を防げることもよくありますので、「10時間はちょっと・・・」と感じられる方もおられると思いますが、まずは8時間でも9時間でもいいので、しっかり眠りましょう。
頓服については、落ち着いている時期に主治医と「躁のサインに気づいたら積極的に使用する」などとルール化しておきましょう。
③活動を制限する。必要最低限の活動のみとする
気分が上がってきてしまったら「何が最低限の活動か」を判断することは難しくなります。
また、客観的な意見も大事なので、必ず支援者と最低限の活動を決めてください。「平日」と「休日」の2パターン考えておくと、より実践的です。
ちなみに、仕事や友人との約束は優先事項ではありません。「えー??」と思われるかもしれませんが、再発を回避することが何より優先されることであると覚えておいてください。
必要であれば「仕事は休む・短時間で切り上げる」、「友人との約束はキャンセル・延期する」ことです。
④刺激的な活動は6時間までとする
これも驚かれるかもしれませんが、これくらい活動を制限するつもりで取り組みましょう。
ほかの時間は横になったり、座ってゆったり過ごしましょう。リラックスできる音楽を低音量で聴いたり、丁寧にお茶を淹れて時間をかけて飲んだりと、刺激の少ない活動にしてください。
イメージとしては「風邪をひいた時のようにゆっくり過ごす」です。
軽躁・躁は元気・快活な状態ですが、よくよく考えてみると「病的な状態」なんですよね。身体の病気をイメージして、そのときどんな風に過ごすかを考えてみると大いにヒントになると思います。
⑤激しい運動はしない。運動自体も最小限にする
躁的になってくると、エネルギーに満ちてきますが、「そのエネルギーを消費すれば通常モードに戻るのでは?」との発想から、長距離のランニングや長時間の筋トレなどの激しい運動をする人がいます。
これは全くの逆で、躁状態では刺激が刺激を呼び、より状態が悪化するおそれがあります。
よって、激しい運動は中止。軽い散歩も最小限にとどめましょう。
⑥刺激の少ない環境で過ごす
ショッピングモールや何かのイベントなど、多くの人でにぎわう場所は避けましょう。ぎらつく照明や大音量の音楽が流れるようなお店にも入らないことです。
自宅を静穏な環境に整えて、最低限の活動以外は自宅内で過ごしましょう。
できたら音楽を聴くにしても小さなボリュームで、静かにして、照明も少し暗めにしましょう。家族と同居している際は、必要以上の声かけは抑えてもらいましょう。
⑦刺激物質の摂取を避ける
カフェイン、アルコールは避けるように言われている方は多いでしょう。
カフェインはコーヒー以外にも、緑茶、紅茶、ウーロン茶、コーラ、エナジードリンク、栄養ドリンクなど、多くの飲料に含まれているので、気をつけましょう。食べ物ではチョコレートに多く含まれるので、ハイカカオのチョコレートは食べ過ぎないようにしてくださいね。
アルコールは、主治医から「通常気分モードでなら少しはOK」と言われている方もおられると思いますが、軽躁・躁状態の兆候が出てきたときにはやめておきましょう。
⑧出費を制限する
これは、買い物や何かの体験にお金を支払うことが刺激となるためと、軽躁・躁状態が過ぎ去ったあとのダメージを食い止めるための2つの理由からです。
クレジットカードは信頼する人に預けるのが最善策です。現金を手元に多く置いている方もカードと同様に人に預けましょう。電子マネーを使う人は対策を考えておきましょう。
買い物をしたくなったら48時間後まで先延ばししてください。
そんなに急いで必要になるモノは滅多に無いはずです。軽躁・躁状態で購入したモノは冷静になると全く不要であることも多いです。
⑨重大な決断はしない。全ての決断を延期する
何度か気分の波を繰り返している方はご自身の体験から自明のことだと思いますが、軽躁・躁状態に移行しつつあるときに適切な判断は難しいものです。
うつ病や双極性障害のうつ状態でも同様の助言がありますが、どちらの気分に振れていても現実検討能力や判断能力は低下していると考えておきましょう。
仕事における決断、人間関係における決断など、重大な決断は通常気分モードに戻るまではしてはいけません。
⑩「もう少し上がっても大丈夫」と考えない
最後は心構えについてですが、多くの双極性障害の方が発病して浅いうちは「もう少し上がっても大丈夫」「今回はいいところでキープできる自信がある」「これが本来の自分の調子だ」などと考えて、軽躁・躁状態への移行を自らゆるしてしまうことがあります。
気分や活動レベルが高くなるほど、うつ状態に転じたときの苦痛も大きいものであると、覚えておきましょう。
まとめ
ここまで10か条について解説しましたが、みなさんはいくつできていましたか?
もちろん症状の出方には個人差があるので、「マイ10か条」を作るのも手です。
そして、ご自身でできることは行うことと並行して、必要ならば、受診の間隔を縮めて頻回に受診し、軽躁・躁状態への移行を回避することが大事です。
まずは一度、しっかり上記の対処を行って上がり過ぎを回避してみましょう。
回避できた経験は大変大きな自信となるでしょう。そして、症状をコントロールできるようになれば、「病気とともに生きる」ことへのハードルもぐっと下がると思います。
医師側も上記のような助言に加えて、状態に合わせた薬物調整を行うことで援助しますので、軽躁・躁状態に移行してしまうことを一緒に回避していきましょう。
以上、「躁状態では自己制御が困難。躁状態への移行をコントロールする10か条とは?」について解説してみました(‘◇’)ゞ