「双極性障害についての100の質問」企画、第23回目です。
今回のご質問は、
「双極性障害になった原因は突き止めた方がいいのですか?それとも、うやむやでいいのですか?」
です(・∀・)
質問者さんは学生時代から現在に至るまでのご自身を振り返り、病気の発症の原因を探されましたが、1人での思考に行き詰っていたようです。
前回書いたように、双極性障害は多様な要因が合わさって惹き起こされる病気です。
参考:双極性障害は「遺伝」する病気なの?「遺伝」について心配される3つのこと。
診療の場面では、正確な診断や予後の推測のために、生まれてからの発達に大きな問題が無かったか、成育歴発症以前の学業の状況、友人関係、家族関係について、また、発症に関わっただろうストレスや刺激などについて聞き取ります。
質問者さんは遺伝要因ではなく、環境要因を探っている様子でしたが、環境要因として「これが発症の原因だ」と特定することは、「親密な人の喪失」など、明らかにそうと言えるケースもあるかもしれませんが、これも全体としての発症因と同様に、ひとつに特定できないことの方が多いでしょう。
そもそも、「特定できた」ことを検証する方法もありませんので、「おそらく○○が発症に強く関与した」くらいしか言えないかと思います。
発症にどんなストレスや刺激が関与したかの情報は大事
一方で、発症前にどんなストレスや刺激があったかを知ることは有意義です。
キンドリング効果と言って、発症してから再発を繰り返すうちに、同じストレスでもその強度が以前のストレスより低くても再発するようになることがあります。
あなたがどういったストレスや刺激により、うつ状態や軽躁・躁状態に移行しやすいのかを、
「私は人間関係と仕事の緊張に弱いタイプだ」
「僕は夜更かしや人の多いところは刺激になりやすい」
などと認識しておくこと、治療者・支援者と共有しておくことは今後の病状コントロールにおいて有用です。
考えても仕方のないことに時間を費やさない
もし、質問者さんが、遺伝、自分の思考や行動、周囲の言動や行動などに発症の原因を求めることに執着しているなら少し心配です。
一生懸命考えて、何か「今の自分」にとってメリットがあることなら、思索にふける価値は大いにあるでしょう。
例えば、以下のように、振り返れば色々と思い浮かぶことはあるでしょう。
・無理な課題を拒否できなかったのが良くなかったのか
・生活サイクルが悪かったのか
・締め切りに追われて活動し過ぎたからか
・くよくよ悩む性格だったからか
たしかにその中に発症に関連する要素はあったかもしれませんが、これらはあくまでも過ぎたことです。
「再発予防のヒント」として、とらえるだけでOKです。
時間も労力も使って考えに考えても、特段「今の自分」にとってメリットにならない考えに陥っているなら、いったんその考えは横に置いて、「今の自分」にとって大事な、
「今後できるだけ気分の波を安定させて生きるためにはどうしたらよいか」
についての戦略や工夫を考えることに、時間や労力を割いてほしいと思います。
発症から年数が経ちすぎているケースも
さらに付け加えると、双極性障害をもつ多数の人は、発症してから10年以上が経過しているでしょう。
元々「うつ病」「気分変調症」「パーソナリティ障害」などと診断されていて、経過とともに正確な診断にたどり着くケースが多いので、どうしても、発症の時期を振り返るころにはかなりの年数が経ってしまっていることがあります。
・発症前の通常気分がどんな状態だったのか分からない
・病的ではないが、元々やや低い気分レベル、もしくはやや高い気分レベルで推移していたのかも
・発症以前の性格傾向として自覚しているものも、すでに気分の波に影響されていたのかも
などなど、自身でも明確に評価できる人は少ないでしょうし、家族など周囲の人も、当時を振り返って正確な答えを導き出すのはとても難しいことです。もちろん主治医も同様でしょう。
このことも、あまり発症当時のことをあれこれ考えても仕方ないかな、と思われる一因です。
まとめ
以上をまとめると、次の2点がお答えになります。
①発症に関係したであろう、ストレス・刺激を知ることは有益である
②明確な答えの出ないことに時間と労力を使うことはあまり有益でない
精神科医は、過去の情報を大事にしますが、それは「今のあなた」にとって大事なことだからです。
精神科医は「過去のあなた」を労わることを大事にしますが、「今のあなた」のことをいっそう大事にしています。
あなたも「今」ある貴重な時間と労力を上手に使って、治療に向き合い、波をコントロールしていってくださることと期待しています。
以上、「双極性障害になった原因は突き止めた方がいいのか?うやむやでいいのか?」について解説してみました(‘◇’)ゞ