「双極性障害についての100の質問」企画、第31回目です。
今回のご質問は、
「双極性障害を抱えながら精神科医になりたいが難しい?学生と仕事の両立は可能?」
です(・∀・)
前回の質問の続きです。
参考:双極性障害の人はバリバリ働けない?向いている職業は?オススメの働き方は?
職業選択について、精神科医という選択肢もかなり真剣に検討しております。その上でご質問なのですが、働きながら医学部に通うのはかなりハードでしょうか。入試面接において自分が精神疾患持ちだから精神科医になりたいという志望動機はネガティブな印象を持たれる可能性が高いでしょうか。
双極性障害に限らず、自身が精神疾患にかかったことをきっかけに、メンタルヘルス関連の仕事に関心を持つ方は多いです。
質問者さんがおっしゃる精神科医であったり、精神科看護師、精神保健福祉士、心理士、カウンセラーなど、実際の診察の場でも時々そういった相談を受けることがあります。
前回も書いたように、「双極性障害にはコレ」という特定の仕事は特にありませんから、興味を持った仕事にトライすることは悪くありません。
ただ、メンタルヘルス関連の仕事ならではのメリット・デメリットはあるので、それを確認し、質問者さんの希望される精神科医という仕事に就くことについて考えることを書きます。
Contents
メンタルヘルス関連の仕事につくメリット
①実体験から、患者さんやクライアントさんの苦しさに共感できたり、助言できる
教科書からの知識や患者さんから聞く話、見聞きする症状から、その苦痛や心境を想像することはでき、それができることがプロなので、必ずしも精神疾患の経験の有無で対応に差が出るというわけではありません。
一方で、とくに精神疾患の当事者「ピアスタッフ」として働く場合には、実際に体験したこと・現在進行形で体験していることがメリットとなります。
支援を受ける人も「この人の言うことなら」と、尻込みしていたことに挑戦したり、生活上の工夫を受け入れたりすることが考えられます。
自身の経験から患者さんのご家族に助言できることも多いでしょうし、当事者目線から職場へ様々提案することも可能と想像します。
②精神疾患や障害のつらさを知るために、治療・支援へのモチベーションが高い
こちらも、もちろん病気の経験の有無で測れるものではありませんが、自身が味わってきた思い、病気を受容する過程での苦悩などから、仕事へのモチベーションが高いことが考えられます。
病気を通じて、生きることへの考えが変わったり、社会に貢献したいという気持ちを抱く方も多いです。
続いてデメリットです。
メンタルヘルス関連の仕事につくデメリット
①患者さんやクライアントさんの病状に影響されるリスクが高い
自身と似たような体験をした人の話を聞くこと、虐待やDVなどの悲痛なエピソードを聞くこと、症状からくる激しい言動や振る舞いに対応することなど、ストレスフルな場面は多いです。
同じくらいの勤務時間で同じくらい体力を使う、他の仕事でなら安定できていたところが、そのストレスから気分エピソード(うつ・軽躁・躁)に移行してしまうリスクがあります。
この類のストレスに明らかに弱い自覚にある方にはメンタル疾患の方を相手にする仕事はおすすめできません。
②自身の不調のために患者さんやクライアントさんにネガティブな影響を与えないよう、体調管理に細心の注意が必要
どの仕事においても体調管理は必須ですが、メンタルヘルス関連の仕事は特にメンタル面の安定を必要とされる仕事です。
逆の立場から想像してみてもらうと分かりやすいですが、自分の主治医や支援職の立場にある人が気分や情緒が不安定で、会うたびに示す方針が変わったり、感情を抑制できずにぶつけてきたら、治療どころではありません。
病状は悪化するでしょうし、精神科医療や精神福祉への不信感を与えかねません。
よって、気分安定のために、自身の生活をより律することが求められます。
おまけ
ここでは、一般的に想像される職業を念頭に書きましたが、今の時代は当事者のインフルエンサーとして活躍したり、メンタルヘルス関連のアプリ開発や支援サービスの会社を起業したり、といった仕事もあるので、
既存の職業にとらわれない仕事を模索する
こともひとつだと思います。
精神科医を目指すことについて
さて、質問者さんは精神科医を目指されるとのこと。
まずは、医学部入学時の面接についてですが、その場で病気について話すかどうかは慎重になりましょう。
面接時に病気を打ち明けるべきか
医師を育成するためには多大な公費が使われることもあり、大学側は学生の選抜に慎重です。
最近、一部の大学で、入試で得点の高い女子学生より得点の低い男子学生を入学させていたことが問題になりました。高齢の受験生が合格ラインより得点が高かったのに不合格にされたと告発するニュースもありました。
ここで論ずるのは難しい話ですが、医師として、長期にわたり、国や国民に貢献できるかどうかは選抜において大事なポイントだと思います。
また、医学生として必要な学業などが全うできるかどうかも、大学側は見ています。
病状が十分にコントロールされている場合には、双極性障害であることを自ら申し出ることにメリットがあるか、主治医とも十分相談ください。
※病気を隠して入学することを推奨しているわけではないことをご了承ください。
医師になるまでのストレス
精神科医に限らず、医師になるためには、医学部に入り、6年間かけて勉強や実習をこなし、医師国家試験を受験し、合格後は初期研修として2年研鑽を積む必要があります。
質問者さんが大学を卒業されているなら、現役生や浪人生に交じって一般試験を受験するのではなく、編入試験を受験することもでき、この形であれば、医学部の2〜3年生から編入も可能です。
ただ、倍率は高く、受験生には旧帝大の理系学部卒の人が多く狭き門になっています。
文系出身でいらしたら、医学部の入学が一発合格でなく、数年かかることも覚悟が必要です。
また、日々の勉強、実習、レポート、定期的な試験など、学生生活はストレスフルです。
医学生さんで、在学中に双極性障害を発症したという方から相談がくるくらいです。
試験前や実習中などは、睡眠時間が削られたり、遅くまでの手術やカンファレンスに立ち会い、疲労が募ることもあります。
双極性障害に限りませんが、医学部に入学したにもかかわらず、メンタル疾患から進級や卒業が困難となり退学する人もいますので、それほどのストレスがかかることは覚悟しておきましょう。
医学部と仕事との両立について
出席の必須な講義や実習もありますから、日中に主にする仕事と両立することはまず無理です。
仕事と両立ができるかどうかは、その仕事がどんな仕事なのかによります。
夕方以降メインでできる仕事であれば、可能性はありますが、実習時は病院に泊まり込みになることもあり、試験前(特に進級試験、卒業試験、国家試験前など)はとても仕事に十分時間を割くことはできませんから、そのあたりを考慮した仕事を考える必要があります。
※質問者さんが大変能力の高い方であれば、クリアできることかもしれません。
もちろん、バイトをしながら通学している人は多数いますから、割のいい家庭教師などのバイトで生活費を稼ぐことは可能でしょう。
医師免許の欠格事由について
これはおそらく該当しないと思われますが、念のため書いておきます。
医師免許には、医師法の定める「欠格事由」というものがあり、これに該当すると国家試験に受かっても免許がもらえないことがあります。
(免許の絶対的欠格事由)
第3条 未成年者、成年被後見人又は被保佐人には、免許を与えない。
(免許の相対的欠格事由)
第4条 次の各号のいずれかに該当する者には、免許を与えないことがある。
一 心身の障害により医師の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの
二 麻薬、大麻又はあへんの中毒者
三 罰金以上の刑に処せられた者
四 前号に該当する者を除くほか、医事に関し犯罪又は不正の行為のあった者
双極性障害の場合は、下線で示したように相対的欠格事由なので、病状がコントロールされていて、大きく業務に支障が無い場合であれば問題ありません。
まとめ
やや厳しめの回答になりましたが、質問者さんはまだ20代で、「病状のコントロール状況」と「元々の能力」如何では、
医学部進学、そして精神科医になることも可能性として十分にあり得ることです。
まずは、気分の安定を目指し、その上で主治医や家族と相談の上で今後のことを決定していかれるといいでしょう。
真摯に精神科医療に取り組まれる人が一人でも増えることは大変喜ばしいことです。
一方で、精神科医以外の職種でも、さらには特に新たに資格を得なくても、精神疾患に悩まれる方の力になることは、様々な方法で可能であることも覚えておいてくださいね(^_-)-☆
以上、「双極性障害を抱えながら精神科医になるのは難しい?学生と仕事の両立は可能?」について解説してみました(‘◇’)ゞ