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双極症の「性的逸脱行為」ってどんな行為のこと?性欲が無くなる原因は?

2019/06/03
双極症(双極性障害)100の質問
精神科医・さくら(@sakura_tnh)です。自身の知識と経験を活かし、人をワンランク上の健康レベルに底上げ=幸せにすることを目指しています。

「双極症(双極性障害)についての100の質問」企画、第44回目です。

今回のご質問は、

「双極症の性的逸脱行為ってどんな行為のこと?性欲が無くなる原因は?」

です(・∀・)

以下、質問者さん(女性の方)からのメッセージです。

「①性的逸脱という言葉があります。わたし自身は性にタブーがあるとは思っていないので、どんなことが逸脱行為なのかよくわかりません。今までも主治医に少し聞いてみたことがありますが、はぐらかすような返答をされたり、知りたいことと違う答えが返ってきたりで不満です。

②性交自体が好きではないのに、誘われたら行為をしてしまったりするのは変なのでしょうか?

③現在50台半ばですが、性欲が全くなくなってしまいました。性欲が減退するような薬は服用していないはずですし、過去のうつ期でも性欲はありました。今後パートナーとの身体的接触が苦痛になるようでは困るので、考えられる要因があれば教えてください」

質問を3つに分けて解説していきます。

①性的逸脱行為ってどんなことを言うの?

どういったことが「性的逸脱行為」と呼ばれるかですね。

まず、質問者さんは「性にタブーが無い」との考えをお持ちのようですが、それとこれとは別の話です。

双極症の「性的逸脱」として扱うのは、軽躁病・躁病エピソード時に出現する性的な問題です。

気分変動を伴わない時期の「性的嗜好」はまったく別の話と考えてください。

性の嗜好や関心は多様なもの

一般的・平均的な性行為を行い、一般的・平均な性的嗜好を持つ人からすると、びっくりされるような行為や嗜好も、法に触れたり、誰かを傷つけることがなければ理解はできなくても許容しうるものです。
(何が一般的・平均的な行為や嗜好なのかは具体的に定義できませんので論じません)

例えば、複数人の恋人がいることを理解できない人はいると思いますが、各人がそれを了解しての関係ならとくに問題ありませんし、理解はできなくても許容できるでしょう。

双極症以外で性的逸脱が見られる病気

双極症以外では、パーソナリティ障害摂食障害などの自己破壊的行動を伴う精神疾患、また自制が困難となる認知症性依存症などで「性的逸脱」という言葉が使われます。

ポイントは「普段のその人」がすることか否か

性的逸脱行為か否かのポイントは、通常気分モードのその人ならその行為をするかどうかです。

・普段は彼氏や夫としか関係を持たない、きちんと避妊をするAさん

・元々、複数の人と性的関係を持つ、避妊にルーズなBさん

上記の2人がいたとして、Aさんが躁状態への移行とともに複数の人と性的関係を持つようになったり、避妊をしないリスキーな性行為をするようになれば、それは性的逸脱と言えるでしょう。

Bさんが躁病エピソード時に、複数の人と性的関係を持っても、避妊をしなくても、それは平常時と変わらないので性的逸脱とは呼ばないでしょう。

Bさんが躁病エピソード時に、平常時よりさらにリスキーな行動に出たり、元々の性的嗜好が強まるなら、それは性的逸脱と呼べるでしょう。

※すべての双極症で性的逸脱行為が見られるわけではありません。

性的逸脱行為を本人はどう感じるか

性的逸脱が起こると、多くのケースで本人は、自制できなかった自身やそのことで誰かを傷つけたことを後悔したり、普段なら絶対しないような行為に強く恥じ入ったりするものです。

また、性的逸脱行為から大事な人間関係が壊れることもあります。

とてもナイーブな話であることを、周囲の人は認識してください。

以前にも性的逸脱についての記事を書きましたのでそちらも参考にされてください。

参考:双極性障害、躁状態の性的逸脱行為がコントロール困難。どうしたらいい?

②性行為が好きではないのにしてしまうのはおかしい?

これについては通常気分モードのことなのか、軽躁病・躁病エピソード時のことなのか記載が無いのですが、通常気分モードであれば特段おかしなことではありません。

おそらく相手に対しての愛情があり、求められれば応じるということでしょう。

愛情の強さと性欲の強さは必ずしも一致しませんし、カップルや夫婦同士でもその欲求は一致しないこともありますから、相手の気持ちに合わせて愛情表現をしていると考えます。

もし、気分の高揚が背景にあり、通常気分モードなら性行為をしないのにしてしまうという意味であれば、相手が特定の人であれば性的逸脱とまでは呼べないでしょうけれど、性的な変化があるとは言えると思います。

③性欲が無くなったことの原因は?

質問者さんの記載の様子からは現在少なくともうつ病エピソードには無いように見受けます。

過去にはうつ病エピソード時にも性欲はあったとのことで、気分変動の影響は関係なさそうだと質問者さんは認識しているのでしょう。

女性の性欲が落ちることの原因として考えられることは以下の通りです。

精神疾患、とくにうつ症状や不安の影響

質問者さんには当てはまらないようですが、様々な精神疾患の症状として性欲減退や性的関心の低下を認めます。

内服薬の影響

質問者さんは性欲に影響する薬は飲んでいないと書かれていますが、今一度、主治医か薬剤師に確認してみてください。

性欲減退を起こす薬としては抗うつ薬(とくにSSRI)が有名です。また、頻度は少ないですが抗てんかん薬にも副作用として記載があります。抗精神病薬の副作用で高プロラクチン血症が起こると、月経異常や乳汁分泌、性欲減退が出現することがあります。

ホルモン変化の影響

性ホルモンであるエストロゲンやプロゲステロン、テストステロンは加齢とともに減少します。しかし、若年女性でも性欲減退は見られ、現在では更年期が性欲減退と関係することは無いと考えられています。

産後や卵巣の摘出後などの急激なホルモン変化は性欲減退に影響します。

加齢による膣の変化(萎縮性膣炎)

エストロゲンが低下すると膣の壁が薄くなり、乾燥して弾力が低下します。そのため、性行為にて不快感や痛みを起こすことがあります。

これにより、性欲が減退したり、性的関心が低下したりすることがあります。

その他・心理的な要因

性的欲求や関心は繊細なもので、うつ病などの病気レベルではなくとも、心理的な影響・ストレスから容易に影響されるものです。

これに関する2017年のイギリスの報告を紹介します。

「英国の性行動とライフスタイルに関する全国調査」により、性欲減退について以下のことが判明しました。

・16〜74歳の男性4839人と女性6669人が対象

・男性は35〜44歳でセックスに関心を失う人が最も多く、女性では55〜64歳が最も多い

・女性で最も性欲が減退する原因は、家に子供がいること

・心身の健康不良があると性的関心が減る

・性行為中のコミュニケーションや感情的な交流が乏しいと性的関心が減る

・日常的にパートナーと性について話しやすい状態にある人は性的関心が保たれている

・パートナーが性行為に何かしらの困難がある場合は性的関心が無くなる傾向あり

・2人の関係が幸せではないと性的関心が無くなる傾向あり

・女性では、パートナーとの間で性行為への関心の強さが一致しない、もしくは、性的な嗜好が一致しない場合、性欲が減退する

質問者さんは思い当たることが無いかチェックしてみてください。

まとめ

性的逸脱行為の有無は、通常気分モードでのご自身の認識・嗜好・行動を思い浮かべて、そこからかけ離れた認識・嗜好・行動になっていないかをチェックしましょう。

また、性欲減退は一時的には誰にでも起こるものです。

ただ、それがあまりにも長期に続いたり年齢パートナーとの性的関係期間の長さを考慮しても明らかに減退・消失している場合、性欲減退についてひどく悩んだり、抑うつ的になる場合には「女性における性機能障害」の「性欲/関心障害」に該当するかもしれません。

主治医に相談し、必要であれば、専門外来に受診しましょう。

以上、「双極症の性的逸脱行為ってどんな行為のこと?性欲が無くなる原因は?」について解説してみました(‘◇’)ゞ

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