「双極症(双極性障害)についての100の質問」企画、第47回目です。
今回のご質問は、
「双極症の寛解期。きちんと服薬を続けていても再発する?何が再発の原因なの?」
です(・∀・)
以下、質問者さんからのメッセージです。
「私は双極症II型です。今は気分安定薬や非定型抗精神病薬などを飲んでいて、寛解状態です。双極症は再燃しやすい病気と聞きます。私の今の寛解状態は薬の作用によるところも大きいと思うのですが薬をこのままキチンと服薬していても再燃を経験する可能性は高いのでしょうか。その場合は何がトリガーになることが多いのでしょうか」
双極症は「軽躁病・躁病エピソード」と「うつ病エピソード」、そして気分症状の無い「寛解期」をそのパターンには個人差はあるものの、繰り返す病気です。
(軽躁・躁症状とうつ症状の混じる「混合状態」を呈する人もいます)
内服薬や生活の心がけで再燃・再発のリスクは抑えられますが、質問者さんの心配されるように、100%ではありません。
「双極症はほとんどの人が再燃・再発する病気」
と説明される、もしくはネットの情報でも見た方は多いと思います。
まずは、どれくらいの期間で再燃・再発が起こる割合について具体的な数字を見てみましょう。
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双極症の気分エピソードの再燃・再発率
古い研究では、以下の報告があります。
・再発率は1年間で48〜60%
・5年間で81〜91%
参考:Keller MB, Lavori PW, Coryell W, et al. Bipolar I: a five-year prospective follow-up. J Nerv Ment Dis. 1993;181(4):238-45.
これまでの双極症の再発・再燃の割合についての報告は、症例の集め方により、研究によってのバラつきが大きかったのですが、2017年に5,837例を含む12研究を対象としたメタ解析が行われ、気分エピソードの再燃・再発の割合について、より信頼できる数値が算出されました。
・初回発症の気分エピソード後の成人において、再燃・再発の気分エピソード出現までの平均期間は1.44年。
・再燃・再発の気分エピソードが起こる割合は、最初の1年目で44%。2年目は19%(1年目の再燃・再発者が除かれるため)
・再燃・再発の気分エピソードの割合は、Ⅰ型よりもⅡ型の方が高い。
・再燃・再発の気分エピソードのリスクは、気分症状に準じた症状が持続していた患者で高い。
参考:Radua J, et al. Psychother Psychosom. 2017;86:90-98.
1つ目の報告では5年以内に約90%の人に、2つ目の報告では2年以内に60%超の人にいずれかの気分エピソードが出現したとのことで、長期的に見ればほとんどの方が再発することが考えられます。
お薬による再発予防
寛解に至っても薬物治療を続ける「維持療法」が再燃・再発の予防に寄与しますが、再発予防についての研究は躁病エピソードについては豊富にあるのに対し、うつ病エピソードの予防についての研究は比較的少なめです。
また、質問者さんのようなⅡ型の方の研究は、Ⅰ型に比べて遅れており、科学的根拠が乏しいのが現状です。
CANMAT/ISBDガイドラインで維持療法に推奨される薬剤について簡単に説明します。
Ⅰ型の維持療法
Ⅰ型では、躁病・うつ病どちらのエピソードの再発予防効果も明らかとなっているリチウム(維持療法では適用外)とクエチアピンが第1度選択薬となります。
リチウムは自殺予防効果が示されている唯一の向精神薬であり、脳の白質体積の減少予防効果があることも判明しており、現状ではクエチアピンよりリチウムが最上位の選択となります。
ラモトリギンは躁病エピソードの予防効果はやや劣るものの、うつ病エピソードの再発予防効果がリチウムより高いため、うつ病エピソードが躁病エピソードより目立つ人、軽度のうつ症状がなかなか改善しない人に推奨されます。
Ⅱ型の維持療法
第1度推奨薬として、1番にクエチアピン、2番にリチウム、3番にラモトリギンが奨められています。
Ⅱ型ではうつ病エピソードの長さが問題になり、患者さんもうつ転を心配されることが多いため、どちらかというとうつ病エピソードの再発予防に重点がおかれる傾向にあります。
第2度推奨薬として、抗うつ薬のベンラファキシン(日本では適用外)が挙げられています。
ベンラファキシンンはリチウムよりうつ病エピソードの再発予防効果があり、軽躁転のリスクも有意な差がなかったという報告がありますが、混合状態のケースや、抗うつ薬で軽躁転したことのあるケースには使用は基本的には控えます。
そもそも、Ⅱ型で維持療法はいる?いらない?
Ⅱ型で維持療法を行うかどうかは判断が難しく、現状ではケースバイケースです。
うつ病エピソードが比較的重度で、回数が多い、長期化するようなケース、家族にⅠ型の患者さんがいるケースには積極的に行うべきですが、比較的軽症のケースに維持療法を行うかどうかの明確なガイドラインはありません。
個人的には、患者さんの意思も尊重しつつ、再発を繰り返すとラピッドサイクラー化や認知機能障害のリスクが高まるので、維持療法を推奨します。
お薬以外の再発予防法
薬物による維持療法と並行して、心理教育、対人関係・社会リズム療法などを行うことが有用となります。
心理教育
本人と家族が病気について正しい知識を持ち、気分エピソードの予兆に気づいて早期に対処すること、ストレスの管理法、再発リスクを下げる生活習慣を身につけることを目的にします。
個別、または集団で行いますが、医療機関によってはプログラムが無く、診察の中で心理教育がなされます。
対人関係・社会リズム療法
症状と対人関係の問題の関連を知り、その対処スキルを上げることで症状を和らげる「対人関係療法」と、ソーシャルリズムメトリック(SRM)という表を用いて、睡眠などの社会リズムを安定化させる「社会リズム療法」があわさったものです。
これらは薬物治療と違って、Ⅰ型の方にもⅡ型の方にも同等に予防効果があるとされています。
どんなことがトリガーとなって気分エピソードが再発するのか?
薬物治療をきちんと続けていても再発するとしたら、どのようなことがトリガーとなるのでしょうか?
それは前述した再発予防法にヒントがあります。
①気分エピソードの予兆に気づけないこと
予兆に気づけないと対処も送れますから、明確な気分エピソードの再発に至ってしまいます。
しっかり病気について学び、ご自身の経過を振り返って、どんな予兆があったかを書き出し、今後に活かしましょう。
②過度なストレスにさらされること
心理的なストレスも身体的なストレスも影響します。ご自身なりのストレス解消法を持つことや、無理の無いスケジュールの立て方が大事です。
どの程度のストレスが再発のトリガーになるかは経過の中で、支援者と確認しながら定めていってください。
③生活リズムが乱れること
一晩の徹夜で躁転するケースもあります。規則正しく生活することは必須です。
うつ病エピソード時にできなかったことを取り戻すように活動に打ち込む方がいますが、そこを自制して、長く安定して活動できることを目指しましょう。
もし睡眠不足の日があれば、翌日に補うなど、早め早めに手を打ちましょう。
④アルコールやカフェインなどの刺激物の摂取
個人差がありますが、嗜好品の摂取も過度になれば、リチウムの血中濃度低下や生活リズムの乱れにつながるリスクがあります。
アルコールは基本的は飲まないように、カフェインは気分が安定している時に限り、一日3杯程度にしておきましょう。
参考:双極症だけど飲酒が楽しみ。アルコールとの上手な付き合い方とは?
⑤家族や支援者が病気に理解がないこと
双極症は本人だけでなく、家族や支援者とタッグを組んで治療に当たることが大事です。
その家族や支援者に当たる人が理解に乏しく、本人の病状を軽視したり、性格的なものと認識していたり、薬物治療を否定したりすれば、再発防止において不利になります。
診察への同席を求めたり、勉強会に参加してもらうなどし、正しい理解をしてもらいましょう。
まとめ
双極症は、現時点では薬物治療だけで完璧にはコントロールできない病気です。
今後、一剤だけで躁もうつも十分にコントロールできるお薬が開発されてほしいと期待します。
そして、それ以上に、双極人のみなさまが正しい知識を身につけ、ご自身の取扱説明書を作成することで、この病気と上手に付き合っていってくださること、再発を心配する受け身の体制でなく、能動的に自身の生活や体調を管理・把握し、再発の予兆を素早く察知し、対処行動をとる双極人になってくださることを期待しています。
以上、「双極症の寛解期。きちんと服薬を続けていても再発する?何が再発の原因なの?」について解説してみました(‘◇’)ゞ