「双極症(双極性障害)についての100の質問」企画、第68回目です。
今回のテーマは、
「双極症、”寛解したら断薬できる”はホント?断薬できる可能性のある人とは?」
です(・∀・)
以下、質問者さんからのメッセージです。
「双極症は一生薬を飲み続ける病気と言われていますが、寛解して断薬できる方もいると聞きます。できれば薬はやめたいのですが寛解すればやめられますか?」
前回も薬の話でしたね。
参考:双極症「つい不規則な生活になり、薬をきちんと飲めない」人への具体的対処法。
Contents
薬をやめたい!と思う理由
・飲み忘れの無いように気をつけることの大変さ
・人前で服薬することへの抵抗
・副作用の心配
・長期に飲み続けることの身体への影響
・薬局で受け取る時間や手間
様々な理由から服薬をやめられたら、と思う人は多いでしょう。
確固たる理由なく、「なんとなく飲み続けるのがイヤ」という人もいるでしょうね。
そこに、
「双極症の人で、薬やめられた人がいるらしいよ」
なんて情報が入ってきたら、
「ずっと飲む必要があると言われていたけど、やめられるの?それなら私もやめたい!」
と思われるのも理解できることです。
寛解すれば薬をやめられるのか?
まず、寛解すれば薬をやめられるのかどうかについてですが、ご存知の通り、双極症は再発の多い病気です。
治療を継続していても5年以内には多くの人が再発します。
もちろん、服薬している分、大きな波がさざ波で済んだり、寛解状態に戻るまでの期間も短くて済みます。
「寛解」という表現を使っていることがすべてを物語っているのですが、「症状が消失して双極症では無くなった」のなら、「治癒」「完治」などと表現すべきですよね。
統合失調症などの他の精神疾患や、各種のがんでも「寛解」という用語が使われますが、それは再発の恐れが高いからです。
死ぬ間際まで観察しないと、「治癒」していたかは判断できるものではありません。
質問者さんの耳にした情報の元がどんな方なのかは不明ですが、双極症と診断されている以上、Ⅰ型であれば一度の躁病エピソードを、Ⅱ型であれば、軽躁病エピソード、抑うつエピソードをそれぞれ1度は過去に認めたことになります。
Ⅰ型のケースに維持療法は必要か?
Ⅰ型であれば、いったん寛解状態となり、気分が安定したとしても薬物治療をそこで中断する判断をする精神科医はまずいません。
躁病エピソードのダメージはそれほどまでに懸念されるものです。
また、再発を繰り返すうちに、気分の波のペースが速まり、寛解の時期が短くなってしまうこと、認知機能障害の残存リスクが高まることも大きな不利益です。
日本うつ病学会の双極性障害の治療ガイドラインにおいても以下のケースでは維持療法を推奨しています。
①重症の躁病エピソードが1度でもあった場合
②2回以上の躁病エピソードがあった場合
③重症の抑うつエピソードを繰り返している場合
④家族歴(家族に双極症の人がいる)がある場合
Ⅱ型のケースに維持療法は必要か?
では、Ⅱ型の場合はどうかと言いますと、上記の③④に該当する場合はやはり維持療法が推奨されます。
ただ、以前の記事にも書きましたが、維持療法については全体的に研究が不十分で、Ⅱ型型においてはⅠ型より情報が少ないのが現状です。
参考:双極症の寛解期。きちんと服薬を続けていても再発する?何が再発の原因なの?
上記の記事にもあるように、個人的には、患者さんの意思も尊重しつつ、再発を繰り返すとラピッドサイクラー化や認知機能障害のリスクが高まるので、維持療法を推奨しています。
ガイドラインにある4つのいずれにも該当せず、リチウムなど、ひとつの薬で長期に安定が得られている場合は、患者さんから要望があれば一度やめてみて様子をみます。
その意味では「寛解して断薬できる人もいる」は正解です。
(以後の再発は問わない)
非薬物治療の徹底は効果的
双極症では、生活リズムのやストレス管理が薬物治療と並んで大事なことで、これを「心理社会的治療」と呼びます。
心理社会的治療を徹底することで、気分は安定化します。
治療がうまくいかない、たびたび再発を起こす人では、昼過ぎまで寝て、明け方にようやく眠るような人がいます。
このような人は規則正しく服薬することも困難なので、非薬物治療、薬物治療のどちらも不十分となります。
Ⅰ型のケースでは心理社会的治療のみで長期安定を目指すことはまずできないでしょう。
一方、Ⅱ型のケースの中でも症状が軽度で病相のサイクルも長い人は、心理社会的治療を徹底することで、薬物治療無しに長期に寛解を維持することも可能・・・かもしれません。
ただ、心理社会的治療はあくまでも薬物治療と併用した上で効果が証明されているものですから、単独での効果は何とも言えませんし、今後研究が進めばやはりⅡ型の人も維持療法を続けることで再発予防すべし!となるかもしれません。
また、単剤の薬物治療をしている方が、日々の注意はもう少しゆるくても再発のリスクは減りますし、薬物なしにコントロールしようとすることが本人に多大な努力の継続を要求することは覚えておきましょう。
質問者さんの聞いたケースで考えられるストーリー
質問者さんが耳にした薬をやめた人についてですが、薬の中止には2つの流れが想定されます。
・前述の再発リスクや再発のダメージが小さいと思われたため、主治医が維持療法の中止を決めた
・患者さんが自己判断で服薬や通院をしなくなった
後者の場合は、リスクの評価ができていなければ、現時点では気分は安定しているのでしょうが、早晩再発することも考えられます。
前者の場合も、「今後も再発のリスクがあるから、気分症状の兆候を感じたら早めに受診してくださいね」と主治医は念押ししているはずです。
その人が、薬を中止してまだ数カ月しか経っていないのなら、質問者さんが「薬をやめられる人がいる」という言葉の背景に期待していること(おそらく「薬無しで再発しない」ということ)が真実かどうかは分かりません。
最後にこんな可能性もあります。
「結局、双極症では無かった」
双極症は他の精神疾患と間違われること(誤診)もありますが、他の精神疾患を双極症と間違われることもあります。
下記記事でも、発達障害、とくにADHDとは症状が類似していて間違われやすいことを書きました。
参考:双極症が「発達障害の二次障害」となる割合は?併存ケースの特徴・治療など。
寛解期に断薬できる可能性の高い人
再発の有無は問わないとして、寛解期に主治医が断薬をトライする可能性があるのはこんな人です。
先ほどの①~④を満たさない
①重症の躁病エピソードが1度でもあった場合
②2回以上の躁病エピソードがあった場合
③重症の抑うつエピソードを繰り返している場合
④家族歴(家族に双極症の人がいる)がある場合
上記の①~④を満たさない+さらに病状が軽い
軽躁病エピソード、軽度〜中等度のうつ病エピソードでも、相当数の再発を繰り返している場合や、気分症状に伴い、浪費や仕事上での困難が認められる場合は勧められません。
現在、単剤で長期に寛解状態が続いている
寛解を得られてすぐに断薬することはまず無いでしょう。
医師の考えにもよりますが、半年、一年と経過を見て、安定が続いている時にGOサインです。
トラブっても大ごとにならない状態にある
社員の生活を背負っている社長さん、今度出勤できなくなったら会社での立場が危うい人、半年後に子どもの大学受験が迫っている人、妊娠中の人・その家族、あと一歩で自己破産寸前の人、今度やらかしたら家族との関係が破たんしそうな人などには、断薬のリスクが高いので勧められません。
差し迫ったものが無く、家族関係も安定している人には比較的勧めやすいでしょう。
まとめ
色んなケースを想定して書いてみましたが、要するに、「双極症」と一口に言ってもそれぞれで病状も背景も異なるわけです。
質問者さんの聞いた断薬できた人は上記の断薬できる可能性のリストを満たしている人かもしれません。
また、現状とくにⅡ型の維持療法は明確になっていないこともあり、精神科医によっても意見が分かれるところです。
私が断薬のトライが可能かもしれないと前述したような状態でも薬物の維持を勧める医師はいるでしょう。
私自身も、患者さんから要望が出ない限り、再発予防を意識して基本的には薬物を継続します。
繰り返しになりますが、断薬できることよりも、生活が長期に渡り安定していることが何よりの理想です。
質問者さんはそこのところがまだ理解できていないと思われますので、一度じっくり考えてみてほしいと思います。
以上、「双極症、”寛解したら断薬できる”はホント?断薬できる可能性のある人とは?」について解説してみました(‘◇’)ゞ