「双極症(双極性障害)についての100の質問」企画、第70回目です。
今回のテーマは、
「双極症、人間関係を失った軽躁の再発が怖い。”過剰に”不安になることの是非」
です(・∀・)
以下、質問者さんからのメッセージです。
「双極症Ⅱ型です。薬の副作用で軽躁状態になり、その後はほとんどの時間をうつ状態で過ごしています。また軽躁状態になり、周りに迷惑をかけてしまうのではないかと不安です。軽躁状態のときはイライラして友人、家族に喧嘩をふっかけ、お店ではよくクレームを言ってました。病前は気弱で、喧嘩を仕掛けたりクレームを言うタイプではありませんでした。
主治医には定期的に通院できているから大丈夫だろうと言われていますが、少しでもイラッとする気持ちが出てくるだけで怖いです。過剰に心配しすぎているとも思っていますが、軽躁状態の時に友人知人を失ったので、人と出来るだけ関わらないようにしています。
どのように過ごせば軽躁状態を回避できますか?またこの不安を軽くすることはできますか?」
質問者さんはⅡ型の方で、躁状態ではなく、軽躁状態に留まったにも関わらず、人間関係が破たんしてしまったとのこと。
「軽躁」と言えども、軽く考えるのは良くないと改めて感じます。
元々はどちらかというと気弱な性格とのこと。
抗うつ薬などの薬の影響で初めて軽躁状態を呈し、人が変わったようになり、何らかのトラブルを起こしてしまって対人関係にヒビが入ったのだと想像します。
質問者さんはご自身でも「過剰に心配している」と自覚があるようです。
再発を防ぐ方法については、薬物治療・心理社会的治療ともに何度も書いてきているので、過去記事を参照してください。
参考:双極症、躁状態を防ぎたい!躁状態への移行に気づく5つのコツとは?
参考:躁状態では自己制御が困難。躁状態への移行をコントロールする10か条とは?
軽躁状態を完全に回避するのは諦める
まず、質問者さんの言う「軽躁状態の回避」ですが、「たまにイラっとすること」は病気の無い人にも認める正常な反応なので、そのレベルで防ぐことは不可能です。
また、そのレベルでの「イライラ」まで回避するということは、ポジティブな感情である「楽しい」「ワクワク」「心地よい」なども極端になれば軽躁・躁の症状のひとつとなりますから、それらも回避することと同義です。
ネガティブな感情や気分も、ポジティブな感情や気分も、全く味わわずに生きることは人間である限り叶わないことですし、質問者さんもそんな生活を望んでいないと思います。
人間関係は紆余曲折があるもの
少し、病気のことは横に置いておきます。
健康な人同士であっても、人と人との関係においては、実に色々なことが起こります。
とくに長く付き合っていれば、家族でも友人でも、ずっと凪のように平穏ではいられず、ささいないざこざや気持ちの行き違いが起こるのがふつうです。
でも、少し時間が経って冷静になって話し合えば、また元の関係に戻れたり、むしろ関係が深まったりするものです。
・自分を誤解されること
・相手の機嫌を損ねること
・相手に迷惑をかけること
・相手に不快な思いをさせること
以上のようなことを「絶対に」起こらないようにしたいなら、自分の意見は抑えて相手に迎合することでしか、その目的は達成されませんよね。
しかし、そのような関係が望ましいかというと、きっとそうではないでしょう。
ときにお互いに嫌な思いをすることもあるけれど、とびきり楽しい時間を過ごすこともあり、「これからも付き合っていきたいな」とお互いに思い合う関係を人は望むのではないでしょうか?
病気があっても同じことです。
本当に相手のことを思うのなら、その人がずっと付き合っていきたい人なら、自身の病気について伝えましょう。
双極症はこんな病気でこんな症状があると説明します。
「むやみにイライラするとか、クレーマーっぽくなったら、それは症状だから、私が気づいていなかったら教えてね」
などと、病気の安定のための協力もお願いしてみましょう。
対人トラブルの懸念が強いなら、軽躁のサインの出ている時は会うのを控えるとルールにするだけでも質問者さんの不安は和らぐでしょう。
双極人に必要なのは「適度な不安」
今まで繰り返し書いてきたように、人間関係、社会的地位、経済面などにおいて大きなダメージを避けるために、薬物治療と生活リズムの維持やストレス対策などの心理社会的治療が長期的に必要です。
しかし、それは、
「やりたいことも、自分を表現することも全て押し殺すべし」というメッセージでは決してありません。
日々の気を付けるべき点は気をつけながらも、趣味に打ち込んだり、仕事で達成感を得たり、人と関わってそのつながりに温かい感情を得てほしいと思っています。
質問者さんの主治医の言う通り、定期的に通院し、薬物治療も日々の心がけもしっかりされているから、
「過剰な不安」は手放しましょう。
必要なのは「適度な不安」です。
ネガティブな感情は大きくなりすぎると、手かせ足かせとなり、自身にとってマイナスに働きますが、上手に使えば双極症のコントロールに大変役立つ感情です。
「また軽躁状態になるのでは?」という「適度な不安」を持つことで、
・慎重に判断や行動ができる
・日々の心がけをしっかり意識できる
・家族や支援者に協力を仰ぐことができる
・主治医と再発予防について具体的に話し合える
など、利点はたくさんあります。
うつ状態からの「不安」
質問者さんが不安を強く感じているのは現在うつ病エピソード中だからかもしれません。
今後気分が安定しているのに「過度な不安」が続くようなら不安症の併存も考慮する必要があります。
参考:双極症の約半分に「不安症/不安障害」が併存。不安感とうつ症状は関連する?
自転車の乗り方を覚えるのと同じ
質問者さんは双極症と診断されて日が浅く、直近の軽躁病エピソードでのエラーを過大に捉えています。
「エラー」と書きましたが、軽躁状態で人が離れてしまったことは「失敗」や「挫折」ではありません。
子どもが自転車に乗る練習をしている様子をイメージしてみましょう。
多くの子どもが、最初はよろめいて転びます。
痛みを感じますし、膝から血がにじむこともあるでしょう。
そこで、
「次もまた転ぶかもしれない」
「痛いのは嫌だから二度とチャレンジしない」
「絶対ケガをしない方法を知るまでは乗らない」
などと言って練習を再開しなければ、一生自転車に乗ることはできませんよね。
ヘルメットやサポーターを着用することで大きなケガは防げますし、大人やきょうだいに見守ってもらうことで、適切な助言ももらえます。
そして、何度もトライしては転ぶことを繰り返しながら、転んだとしても上手に転べるようになり、ケガをしなくなり、少しずつ走行距離が伸び、最終的には何も意識せずとも自転車であちこち走れるようになります。
双極人も同じです。
ヘルメットを着用し(薬物治療を継続し)、サポーターを着用し(生活リズムを整え、ストレス解消法を身につけ)、大人やきょうだい(家族や主治医)に見守ってもらい助言をもらいます。
軽躁のサインが出現しても、そのサインに気づけなかったり、イマイチうまく対処できないことを繰り返すうちに、軽躁のサインが出ても上手に対処できるようになり、大きなトラブルに発展しなくなります。
気分の安定した期間が延び、最終的にはあまり意識せずに、ひょうひょうと、淡々と、日々の生活も軽躁のサインへの対処もできるようになっていきます。
まとめ
色んな考え方があります。
人と関わることを避けることで、傷つくことを回避することもひとつでしょう。
でも私は、誰とも関わらず、軽躁が起こらないことだけを人生の第一目標にして生きるのは寂しいと感じます。
あくまでも双極症を持った「あなた」であり、「あなた=双極症」ではありません。
人生を楽しむことを忘れないでください。
病気のコントロールがテーマの人生にするのではなく、
「人生を楽しむために」病気のコントロールをしていきましょう。
以上、「双極症、人間関係を失った軽躁の再発が怖い。”過剰に”不安になることの是非」について解説してみました(‘◇’)ゞ