「双極症(双極性障害)についての100の質問」企画、第88回目です。
今回のテーマは、
「双極症の光調整療法とは?お薬以外&自分でできる、気分安定化のヒント」
です(・∀・)
前回の質問の後半の回答をします。
参考:双極症の「うつ状態のつらさ」を増す要因。なかなか浮上できない人へのヒント。
質問は下記の通りです。
「双極症のうつ状態がとてもつらいです。薬を飲む、病院を受診する、ポジティブ日記をつける、運動をする、朝日をあびるなど、よいと言われることはなるべく実践していますが、なかなか上がってこれません。こんなとき、他に何か、自分でできる回復のための努力はありますか?じっと我慢して嵐が過ぎ去るのを待つしかないのでしょうか?」
うつ病相でできること
質問者さんは、うつ病相において、すべきこと、推奨される過ごし方を、知識のある限り実践されている印象です。
・薬を飲む
・病院を受診する
・ポジティブ日記をつける
・運動をする
・朝日をあびる
受動的ではなく、能動的に治療に取り組んでおられる様子が伝わってきます。
他にも過去記事にうつ病相での過ごし方について具体的な助言をまとめていますので、参考にされてください。
参考:双極性障害、うつ病相での病状レベル別「やることリスト」その①
参考:双極性障害、うつ病相での病状レベル別「やることリスト」その②
質問者さんはすでに「朝日を浴びる」ことを実践しておられ、上の記事でも日光浴についてはすでに記載していますが、今回はさらに、「双極症と光」についてまとめたいと思います。
環境光と気分について
健康な人でも、天気によって気分が影響されることは経験のあることですよね。
・雲一つなく晴れた日には気分もスッキリ
・雲に覆われた日には気分もどんより
健康な人に対する、太陽光の影響についての研究は以下の通りです。
・55人の健常者を対象にした研究では、普段から光を多く浴びる人は、光を浴びることが少ない人に比べて、有意に抑うつ度が低く、スッキリした気分を認めた。
・会社員を対象とした研究では、午前中、もしくは勤務時間内に光をよく浴びる人は、そうでない人に比べて、有意に抑うつ度が低く、睡眠の質も良好だった。
日光を浴びると、脳の「小脳虫部」という部位の活動が抑えられ、そのために抑うつ的になりにくいと考えられています。
小脳虫部の活動が活発になると、健康な人、うつ病患者どちらにも抑うつ気分が出現するという報告もあります。
双極症患者さんの入院期間と光
双極症患者さんの入院期間に関する興味深い研究もあります。
東向きに窓がある、朝日の差し込む部屋と、西向きに窓がある部屋に入院した、双極症のうつ病相にある患者さんの入院期間を比べた研究です。
結果は、東向きの部屋に入院した患者さんは、西向きの部屋に入院した患者さんと比べて、有意に入院期間が短かったとのことです。
これは、入院患者さんを対象にした研究ですが、自宅療養されている方の場合でも、
部屋を選べるなら東向きの部屋で過ごすこと
が、より治療的であると考えられます。
双極症のうつ病相と光線療法について
日光を浴びることはとても有益である一方、うつ症状がひどい時期には、決まった時間に日光浴をすることが困難なことも多いです。
質問者さんはつらい中でも何とか窓辺で過ごしたり、外に出て過ごしたりされていると思われます。
そこで、人工光によってうつ症状を改善する治療法が注目されています。
季節性感情障害の患者さんに対して、有用性が認められ、広く使用されているももので、光線療法には、「高照度光療法」と「疑似夜明け療法」の2種類があります。
高照度光療法・・・2,500〜10,000ルクスの明るい光を、30分〜2時間当てる方法
疑似夜明け療法・・・ベッドサイドに光源を置き、覚醒の1〜2時間前から覚醒まで、薄暗い光から200〜300ルクスまで徐々に明るくしていく方法
高照度光療法は双極症のうつ病相に効果があることが、すでに研究にて示されています。
疑似夜明け療法は、研究が不十分な段階ですが、おそらく効果があるだろうと言われています。
どのくらい効果があるのかが気になる点かと思いますが、以下のような報告があります。
・治療を開始して3〜7日で効果が出てくる。平均4.3日。
・6週間の治療期間を設定した研究では、開始して4週間までは寛解率は変わらないが、6週間の時点では高照度光照射群は68.2%、低照度光照射群は22.2%と有意に寛解率が高い。
・2週間の治療期間を設定した別の研究では、開始1週間後のうつ症状の改善の度合いは、高照度光照射群と低照度光照射群で違いはなかったが、2週間後の改善の度合いは高照度光照射群の方が低照度光照射群よりうつ症状の改善を認めた。
光線療法でうつ症状は良くなるけれど、心配されるのは抗うつ薬と同様に「躁転」の副作用ですよね。
躁転については、抗うつ薬では15〜40%に出現するとの報告がある一方、高照度光療法では2.3%とされており、躁転のリスクは低いと考えてよさそうです。
ほかの副作用も、頭痛、眼精疲労、吐き気など、軽微なもので、光の量や当たる時間を調整することでクリアできるものです。
双極症の躁病相と光線療法について
賢明な読者さんはお気づきかと思いますが、光がうつ症状に効くのとは逆に、躁症状には光を遮ることが有効です。
「暗闇療法」という治療法があります。
・光が入らないように暗くした部屋に患者さんに入ってもらう
・午後6時〜午前8時までの14時間を暗室で過ごす
・3日連続で行う
このような光遮断により躁症状が改善するとの報告があります。
このような部屋で長時間じっと過ごすことは苦痛が大きいので、簡便に同様の効果が得られるように考えられたのが「サングラス」です。
オレンジ色のサングラスを着用した患者さんと、透明なサングラスを着用した患者さんでは、前者の方が有意に躁症状の改善を認めたとの報告があります。
そして、さらなる研究により、オレンジ色のサングラスより光の遮断効果の高い「灰色のサングラス」がより有用ではないかと考えられています。
今回の質問はうつ病相についてでしたが、サングラスの着用は躁病相での自己対処法として、患者さん自身で試せる、しかも簡便な非薬物治療として、有益なものと思われます。
まとめ
気分エピソード時に患者さん自身が行える治療として「光」に関する情報をまとめてみました。
これから秋冬に近づくにつれ、朝に日光を浴びることが難しくなることが予想される場合、また、毎年このタイミングでうつ病相を認める場合は、やや高価な機器ではありますが、Amazonなどで高照度光線療法に使える機器が販売していますので、一度チェックしてみてくださいね。
また、ご自身で今回書いたような工夫を取り入れられる場合は、とくに光線療法では躁転のリスクがあるので、主治医に相談した上で行ってくださいね。
以上、「双極症の光調整療法とは?お薬以外&自分でできる、気分安定化のヒント」について解説してみました(‘◇’)ゞ
参考:「双極性障害の気分安定化を目指す光調整療法」精神医学 vol.61 NO.8