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双極性障害、妊娠・出産を希望する場合、完全に薬を止めるべき?薬の影響は?

2019/05/18
双極症(双極性障害)100の質問
精神科医・さくら(@sakura_tnh)です。自身の知識と経験を活かし、人をワンランク上の健康レベルに底上げ=幸せにすることを目指しています。

「双極性障害についての100の質問」企画、第29回目です。

今回のご質問は、

「妊娠出産を希望し減薬しています。やはり完全に断薬しないと妊娠出産してはいけないのでしょうか?年齢的にも焦りがあります。」

です(・∀・)

質問者さんは妊娠・出産を希望され、現在減薬中とのこと。

おそらく現在は病状は安定しており、その状態がある程度の期間維持されているのでしょう。

そのため、主治医と相談の上で、減薬にトライされていると推測します。

まだ、妊娠を具体的には考えていないものの、ぼんやりと気になっている方、または、いずれのことを心配する配偶者や家族の方へ、双極性障害と妊娠・出産について解説します。

双極性障害の遺伝や恋愛・結婚については過去記事を参照ください。

参考:双極性障害は「遺伝」する病気なの?「遺伝」について心配される3つのこと。
参考:双極性障害を抱えながらの「恋愛」や「結婚」に悩んでいる方への7つのヒント

双極性障害の妊娠は計画性が第一

「病状が不安定だから、主治医に相談したら反対されるかも」と、こっそり妊娠を計画している人、または、避妊をせずに安易に性行為をしている人ハイリスクなので、この記事を最後までしっかり読んでください。

ほかの精神疾患でもそうですし、身体疾患でも妊娠が体に大きく影響する場合には、主治医に妊娠を希望している旨を伝え、十分病状が落ち着いていることを確認し、計画妊娠の準備をしていくことになります。

現在、気分エピソードの中にあるなら妊娠はNG

まず、現在、うつ状態であったり、軽躁・躁状態である方は妊娠を避けるべきです。

軽躁・躁状態では性的逸脱が見られることがありますが、とくに女性はそのリスクを知っておきましょう。

気分エピソードの期間中は、重大な決断も避ける必要があります。妊娠についても同様です。

いずれの妊娠・出産を希望される方は、まずは気分症状の寛解を目指し、安定した気分が少なくとも数か月は維持されることがGOサインを出せる条件となります。

早めに主治医に希望を伝える

妊娠・出産の希望のある方は早期に主治医に伝えておきましょう。

この後、詳細を書きますが、妊娠・出産の希望があれば、薬物治療について妊娠を前提とした調整を行います。

一方、病状や治療環境があまりにも思わしくない場合には、妊娠自体を避けるよう助言を受ける場合があります。

希望されたら「お望み通りに」と言いたいところですが、万が一の、命やその他もろもろの患者さんの損失を回避することが優先されます。

自己判断での減薬や内服中断はNG

双極性障害の患者さんが妊娠した場合、妊娠中に気分エピソードが出現するリスクは約25〜30%と言われています。

これは「うつ病エピソード」、「軽躁病エピソード」、「躁病エピソード」のすべてを含んだ数字です。

あの研究では、再発はうつ病エピソード(41.3%)と混合状態(38.1%)の割合が多く、軽躁病エピソード(11.1%)、躁病エピソード(9.5%)は少なかったとされています。

妊娠20週時点での再発率を見た研究では、以下の結果が出ています。

妊娠を機に薬物をすべて中断してしまった場合、再発は約75%

妊娠期間を通じて薬物治療を継続した場合、再発は約25%

薬物の内容や用量は調整の余地がありますが、何かしら維持しておくことは有用そうです。

また、双極性障害にはⅠ型・Ⅱ型がありますが、Ⅰ型の方は完全な断薬は難しいケースが多いと考えておいてください。
(通常気分が長期に続いている場合などは可能かもしれません)

妊娠における薬剤の2つの側面

双極性障害では服薬を長期にわたって維持しますので、妊娠・出産を考えられている方にとって、「妊娠と薬」という点が気になる点のひとつかと思います。

・お薬は患者さん(母体)の安定のためにはポジティブな要素

・お薬は胎児への影響や妊娠の経過に対してはネガティブな要素

服薬には上記の2面性があります。

精神疾患の無い人でも妊娠・出産の経過中や産後にはメンタル面の不調をきたすことがよくあるのはご存知の通りでしょう。とくに産後はうつ病や双極性障害の発症リスクの高い時期でもあります。

また、向精神薬に限らず、何らかの薬を内服している人は、その胎児への影響、妊娠の維持に対する影響を十分検討する必要があります。

これらを天秤にかけて、ベターな落としどころを探っていくことになります。

双極性障害でよく使われる薬剤と妊娠・出産への影響

双極性障害でよく使われる薬剤について妊娠と関連した情報を列挙します。

①リチウム(リーマス)

エブスタイン奇形という心臓の奇形のリスクがあるため、妊娠を希望する場合は原則中止の方向となります。

※この奇形はリチウムを内服していない人にも、出生20,000件に1件の確率で発生するものです。リチウムの内服でその確率は、2,000〜1,000件のうち1件程度までアップします。

ほかの気分安定薬(ラモトリギンが選択されることが多い)や抗精神病薬に変更し、気分の安定化を目指します。

ただ、リチウムの減量や中止により、容易にうつ状態・軽躁・躁状態に移行してしまうことがあれば、添付文書上は妊婦への投与が禁忌であることを示した上で、本人の同意の元で継続することはありえます。

リチウムを内服したまま妊娠し、以後も継続服用が必要であれば、胎児の奇形の有無について、心エコー検査を行い、経過を見ていきます。

催奇形性といって、胎児に奇形をひき起こすリスクは、一般に、器官形成期の妊娠初期(第1三半期)に問題となります。

よって、精神科医・産科医との相談の上で、ケースによっては初期は中断するとしても、妊娠中記(第2三半期)よりリチウムを再開することがあります。

いずれにせよ、リチウムを内服する場合は、できるだけ最小量とし、非妊娠期の時よりいっそう、リチウム中毒に注意し、血中濃度を定期的に測定し、脱水などに注意する必要があります。

②バルプロ酸(デパケン)

二分脊椎、形態学的先天異常、認知機能障害・発達障害などのリスクがあるため、リチウムより厳格に中止を推奨される薬剤です。

中止されるケースがほとんどでしょう。

③カルバマゼピン(テグレトール)

こちらも口唇口蓋裂などの形態学的な先天異常のリスクがあり、薬剤の量が多いほどそのリスクが高まります。

基本的にはほかの薬剤に変更し、中止すべき薬剤です。

④ラモトリギン(ラミクタール)

妊娠・出産を通じて、比較的安全に使える薬剤です。
(あくまで「比較的」ですが)

ラモトリギンの内服により、先天異常や大きな形態学的な奇形のリスクは有意には上昇しなかったとの報告があります。

「一日の内服量が300mg未満」の群と「300mg以上」の群に分けて先天異常のリスクを調べた研究では、300mg以上内服していた群は300�r未満の群より先天異常のリスクが上がったとの報告があるため、可能な限り減量しておくべきです。

双極人ならご存知の通り、ラモトリギンには重篤な皮疹が出現するリスクがあるため、これまでにラモトリギンの内服で皮膚症状の出たことのある方は妊娠中に重症化した場合のリスクのため、避けた方がよいと思われます。

⑤非定型抗精神病薬

アリピプラゾール(エビリファイ)、オランザピン(ジプレキサ)、クエチアピン(セロクエル、ビプレッソ)などは双極性障害で使われる薬剤のうち、「非定型抗精神病薬」と呼ばれるものです。

これらの薬剤で気分安定が得られるのであれば、それがベターです。

日本うつ病学会、国際神経精神薬理学会、周産期メンタルヘルス学会でも推奨されています。

リスペリドン(リスパダール)は先天奇形のリスクが有意に高いため、推奨されません。

妊娠・出産のリスクだけでなく、産後のことも十分考慮を

双極性障害患者さんの妊娠中に気分エピソードが起こる確率は約25〜30%と前述しました。

これもなかなかの数字ですが、双極性障害患者さんの出産後、半年以内に気分エピソードが起こる確率は50%以上との報告があります。

「妊娠中に絶対お薬は飲みたくない」

そう思われる方は多いでしょうし、そうできれば医師側もそうしたいのはやまやまなのですが、再発リスクの高い方は薬剤の量は減らすとしても継続して内服することに、産後の再発を防ぐという大きなメリットがあります。

妊娠中飲まないとしても、産後すぐに内服を再開すれば、産後も内服しない場合に比べて産後の再発は抑えられることも分かっています。

相談の窓口について

国立成育医療研究センターの「妊娠と薬情報センター」では、下記のような相談に対応してくれます。

参考:妊娠と薬情報センター

・持病でお薬を飲んでいるが、妊娠しても赤ちゃんに影響はないか、のご相談

・妊娠していることを知らずに、お薬を飲んでしまった場合のご相談

など、妊娠中や妊娠希望の方の、お薬の相談を受け付けています。

相談方法は、以下の3通りあります。

①電話での相談

②「妊娠と薬外来」での相談

③主治医のもとでの相談

心配ごとをそのままにせず、妊娠を計画するまでに、必要であれば上記のサービスなども利用して十分な情報を集め、家族と共有しましょう。

もちろん主治医とも相談しながら、あなたにとって、ベストと言えるかは難しいところですが、ベターなやり方を選んでいっていただきたいと思います。

まとめ

答えとしては、必ずしもすべてのケースで断薬を目指すのではなく、ケースによっては、服薬を維持しながら(妊娠期間の時期によって調整しながら)妊娠を計画していくことがあります。

質問者さんの詳細な病状は分かりませんが、断薬が可能な病状なら、慎重に断薬してから妊娠を計画するとよいと思います。

ただ、ここで質問されるくらいなので、主治医と十分なコミュニケーションが取れていないだろうことが心配されます。

妊娠・出産は一大イベントですから、妊娠が叶った後の出産までの10か月、そして出産後の精神的不安定な時期を乗り越えていくにおいて、主治医との信頼関係は重要です。

ぜひ、気になる点を十分に質問されて理解を深め、質問者さんの意向もしっかり伝えてくださいね。

以上、「双極性障害、妊娠・出産を希望する場合、完全に薬を止めるべき?薬の影響は?」について解説してみました(‘◇’)ゞ

参考:周産期メンタルヘルス コンセンサスガイド 2017

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